Vol.12 見ることと音楽
text by Ayumi TANAKA

 オスロに待ちに待った春がやってきた。冬を乗り越えた木々が芽をつけ、緑の葉を開かせる。花が咲くように緑の葉が咲いていく。鳥たちが春の訪れを祝うように鳴いている。人々の表情も明るく、きれいに晴れた日はみんな嬉しそうな顔で「いい天気だね」って言い合う。そんな日はここぞとばかりに外に出てしっかりと太陽のエネルギーを身体に蓄える。
 
 最近、即興ダンサーとの共演やサイレント映画とのコンサート、演奏と身体表現を融合させたフィルム制作に参加し、音楽を視覚的な角度から考える機会があった。
 即興ダンサーとの共演では、ダンスは身体や息づかいそのものが作品となるとても自然な表現だと感じた。ダンサーの息づかいや動作は音楽のようで、それだけで美しかった。この共演は以前からこのエッセイで話題にしてきた即興演奏の授業の企画で行われた。この授業ではこれまで、様々な要素、例えばピッチ、リズム、音質、カラー、強弱などに焦点をあて即興演奏の試みを行ってきた。また人と演奏する際にどのような態度を持つかにも焦点をあててきた。例えば相手を受け入れるか受け入れないか、何が表に出て背景になるか、それらをどの程度で行うか、どのように影響を与え合うかなど。ダンサーと共演の際もそれらに焦点を当てていくつかの試みを行った。例えば、ダンサーを見るとき、全体を見るのか、部分的に顔の表情、手足の動きなどの詳細を見るのかなど、それらによって音楽への影響は変わってくる。反対に、音楽がダンサーにどのように影響を与えられるかについても試みた。
 サイレント映画とのコンサートでは、"Nothing But Time"と"Manhatta"という二つの作品の上映と共に演奏した。サイレント映画は、もともと音がないものとして存在していて観る人が音を想像したりすることができるもので、それに音を加えるというのは、観る人の想像力の余白を塗りつぶしてしまうようで、だけれど、本来の作品にはない命を吹き込む事もできることだと感じた。

 私にとって音楽は、眼には見えないけれど人に視覚的な想像力を与えるものである。その想像力は人それぞれ全く違うもので、それが私が音楽に惹かれる理由の一つである。例えば、音楽を聴くとき、風景や絵がふと頭にやってきたり、逆に風景や絵を眺める時、音楽が聴こえてくることはないだろうか。
 そんなことを考えていると、「オスロに学ぶ」Vol.8でのピアニストのChristian Wallmrødへのインタビューを思い出した。

 「あなたの音楽からノルウェーの空気感を感じますが、ノルウェーの自然や環境はあなたの音楽に影響を与えていると思いますか?」
という問いに対し、
 「正直に話すと、音楽を作る際、自然や環境を音楽に関連づけたことはありません。しかし、自然や周りの環境は、音楽を作ることや演奏することに、複雑な形で影響をおよぼしていると考えています。例えば、育ってきた自然や環境は、音楽を作ることに対して、何らかの役割をしているのであろうと思います。」
という答え。

また、
 「あなたの音楽を聴くと、時折、映像や景色、ストーリーなどを思い浮かべてしまうのですが、音楽を作る際、具体的なイメージやストーリーがありますか。 」
という問いに対し、
 「特にはないです。しかし、人々が、音楽を様々に捉え、違った経験ができるということは、音楽における素晴らしい贈り物だと思います。それは時々、私が意図したものと、かけ離れたものであることもありますが、そこが面白いところだと思います。」
という答え。

 私が今までに出会った音楽家たちには、音楽によって音楽を作るという人とイメージやストーリーなどをもとに音楽を作る人がいる。Christian Wallmrødは同じインタビューで、彼にとって音楽のインスピレーションの多くは音楽から来ると話してくれた。他に、ほとんど数学的な方法で作り上げてしまう作曲家もいる。彼らの作品は決して無機質ではなく、聴く者の想像力が湧くものである。逆にイメージやストーリーなどをもとに作られた音楽も、聴く者によって違った想像力が湧くものであり、そこが興味深い。

 音楽を使わないダンスや映像など、見ることによって鑑賞される作品は、耳に依らない分、音の想像力を与えるのではないだろうか。音楽が鑑賞される場合は、生演奏を聴くのか録音を聴くのかによって、視覚的な情報量は違ってくる。例えば、生演奏なら、演奏する場所の空気、演奏する人の姿などいろいろな物事が複雑に作用し合って、見るものに様々な感覚を与えるのであろう。
 一方、音楽とダンスや映像など聴くことと見ることの両方によって鑑賞される作品は、どちらか一方だけでは生まれない感覚を人々に与えるものであろう。作り手にとっても、新たな可能性を創造することができるものである。
 感覚を一つ閉ざすと、他の感覚が目を覚ましてこちらにやってくることがある。例えば、眼を閉じて音を聴くと音が意識の近くにやってくる。身体を動かすのをやめて目を閉じてじっとしていると、音や空気の感触、匂いが近くにやってくる。
 
 見ることと音楽。眼と耳。それから、鼻や皮膚。音楽はそれらが作用し合い、なにか優しいもの、あたたかいもの、心に触れるもの、そういうものを感じさせてくれる力をもっているのだろう。そんなことを感じる体験となった。


田中鮎美:
3歳から高校卒業までエレクトーンを学ぶ。エレクトーンコンクール優勝、海外でのコンサートなどに出演し世界各国の人々と音楽を通じて交流できる喜びを体感する。
その後、ピアノに転向。ジャズや即興音楽を学ぶうちに北欧の音楽に強く興味を持つようになり、2011年8月よりノルウェーのオスロにあるノルウェー国立音楽大学(Norwegian Academy of Music)のjazz improvisation科にて学ぶ。Misha Alperinに師事し、彼の深い音楽性に大きな影響を受ける。

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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

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#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
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