#  310

古谷暢康ソロ
2011年1月16日 @吉祥寺 sound cafe dzumi
reported by 悠 雅彦 photo:相本 出

 つい先頃、地底レコードから発売された『Stunde Null』というアルバムで初めて、古谷暢康(ふるや・のぶやす)という管楽器奏者の演奏を聴いた。日本では余り見られないタイプのフリー・インプロヴィゼーションを演奏するプレーヤーだという印象は、夕方4時過ぎに始まったこの日のソロ演奏でも不思議なくらい変わらなかった。それは、彼の演奏ぶりが、あたかも舞台上で芝居を演ずる役者を連想させることだ。どんな演奏家でもジャズのアドリブとなれば、通常はオーソドックスなタイプであろうがフリー・インプロヴァイザーであろうが、モティーフやテーマを起承転結に即した形で展開するものだが、彼は違う。のっけから耳を聾(ろう)する大音量のアグレッシヴなトーンで叫んだり、強調したりする。かと思うと次の瞬間には聴こえるか聴こえないかのような微妙極まりないピアニッシモで囁(ささや)いたり、呟(つぶや)いたりする。そればかりではない。彼はそれを予測を超えた間合いで反復したり、思い出したかのように再現したりする。これが彼のセンテンス作り、というより舞台運び。まさしく前衛芝居のダイナミックな舞台転換やセリフのやりとりを思わせる。それがときには2人か3人の役者のやりとりを彷彿させたりするのだ。
 ズミ(dzumi)はこじんまりしたカフェ・スタイルのライヴハウスで、目前でプレイする古谷は、ほとんど目を閉じたまま舞台上の役者になりきった風に、間合いを計りながらセリフを発し、選び出したそれぞれの音に表情を使い分けていく。こちらも目を閉じたまま聴いていると、次第にアングラ劇場か下町の芝居小屋にでもいるような気分になった。
 ペーター・ブロッツマンに勧められて渡欧したのが97年とか。すると10年以上もヨーロッパの最前線で活動していたことになるのだろうか。トルコにも住んだという遍歴の持主は、しかし休憩時に会話をやりとりした限りでは変人でも何でもなかった。ただ、自信(自尊心と言ってもよいが)だけは微動だにしないようで、いったん主張したら後には退かない芯の強さは演奏ぶりにもよく現れている風だった。当日使用した楽器はテナー・サックス、クラリネット、フルートだったが、ほとんど見かけないタイプの楽器(たとえばクラはB♭ではなくC管、またバスクラよりやや小振りなG管など)を常用しているところを見ても、他人の判断や評価には左右されることなく自身で納得したことだけに固執するタイプと見た。そうした直情性を反映しているのか、音は自説を曲げないといった強さで聴いている耳元で炸裂し、それが演奏の潔(いさぎよ)さとなっている。ただ、惜しむらくはユーモアに欠けるところがあるせいか、聴いていてホッと息を抜くところがない。笑いとまではいかなくても、聴く者の想像力を刺激する傍らに、一輪の菊のようなリラックスした心のゆとりを回復させる音の間(余韻)を望みたい気がする。
 古谷自身が自賛するだけに、稲毛(千葉)でのライヴ(1月14日)は確かにノリも流れもいい。先記した演奏の特質も明快に窺(うかが)える。とはいえ、こちらは安藤明(b)と羽野昌二(ds)とのトリオによるセッションで、単純な比較は難しい。ともあれ、久し振りに血が迸(ほとばし)るがごとき気鋭のフリー・インプロヴァイザーの演奏の一端に触れて、脳裏に快感が走った。(2011年1月20日記)




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追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
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#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
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