Concert Report #581

第12回 東京JAZZ
What Music Can Do/Jazz Heritage
2013年9月8日(日)13:00〜 国際フォーラム ホールA
Reported by 神野秀雄
Photos by ©Reiko Oka(*) ©Hideo Nakajima(**)

        

What Music Can Do 13:00~

13:00 THE MANHATTAN TRANSFER
マンハッタン・トランスファー
Trist Curless (vo) Alan Paul(vo) Janis Siegel (vo) Cheryl Bentyne (vo) Yaron Gershovsky (p,key,MD) Steve Hass (ds) Gary Wicks (b)

Birdland
Bahia
Duke of Dubque
Route 66
Candy
Java Jive
Tisket a Tasket
Tutu
Joy Spring
Jeannine
Groovin’
Spain (I Can Recall)

14:05 Larry Carlton Blues All Stars with special guests John Oates and Bill LaBounty
ラリー・カールトン・ブルース・オール・スターズ with special guests ジョン・オーツ and ビル・ラバウンティ Larry Carlton (g) John Oates (g, vo) Shane Theriot (b) Bill LaBounty (key,vo) Billy Kilson (ds) Paul Cerra (sax,vo) Reese Wynans (p)

Friday Night Shuffle
RCM
Mama Told Me So
If You Don’t Come Back
Funny But I Still Love You
Farm Jazz
Dream On
Lose it in Louisiana
Edge of the World
Don’t Cross Me Wrong

15:10 Bob James & David Sanborn featuring Steve Gadd and James Genus
ボブ・ジェームス & デヴィッド・サンボーンfeaturing スティーヴ・ガッド & ジェームス・ジーナス
Bob James (p) David Sanborn (sax) Steve Gadd (ds) James Genus (b)

Montezuma
Geste Human
More Than Friends
Better not Go to College
Maputo
Follow Me

Deep in the Weeds


Jazz Heritage
9月8日(日)18:00

18:00 ai kuwabara trio project
桑原あい Ai Kuwabara (p) 森田悠介 Yusuke Morita (b) 今村慎太郎 Shintaro Imamura (ds)

35 seconds of music and more
“Into the Future or the Past?”
Riverdance
METHOD F..
from here to there
Bet Up

19:00 BOB JAMES AND DAVID SANBORN SPECIAL SESSION
featuring Steve Gadd James Genus Hilary James and MORE!
ボブ・ジェームス & デヴィッド・サンボーン スペシャル・セッション featuring
スティーヴ・ガッド、ジェームス・ジーナス、ヒラリー・ジェームス and MORE!
Bob James (p) David Sanborn (as) Steve Gadd (ds) James Genus (b) 小曽根 真 Makoto Ozone (p) Hilary James (vo) Larry Carlton (g)

Montezuma
Sofia
You Don’t Know Me
Maputo
Don’t Worry Be Happy - 小曽根真 & Bob James
Put Our Hearts Together - Hilary James & Bob James
Comin’ Home Baby - Band with Larry Carlton
Deep n the Weeds - Band with Larry Carlton

20:15 Chick Corea & The Vigil with Tim Garland, Carlitos Del Puerto, Marcus Gilmore, Charles Altura
チック・コリア & The Vigil with
ティム・ガーランド、カリートス・デル・プエルト、マーカス・ギルモア、チャールズ・アルトゥラ
Chick Corea (p) Tim Garland (sax) Carlitos Del Puerto (b) Marcus Gilmore (ds) Charles Altura (g) Luis Quintero (per)

Tempus Fugit
Postals to Forever
Galaxy 32 Story


5月「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」と9月「東京JAZZ」と季節の変わり目に丸の内を大きく盛り上げる二つの音楽イベントも定着してきた。当初、ガラスを多用した無機的な建築物に思えた国際フォーラムも、感動した数々のコンサートの記憶とともに人と文化と地域を結ぶ装置に見えてきた。NHK関連の「東京JAZZ」で9月に向けて盛り上がると言えば、もう地上広場で、大友良英&あまちゃんスペシャルビッグバンドしかないでしょと妄想するものの、ビッグバンドは、「あいちトリエンナーレ〜プロジェクトFUKUSHIMA!」へ遠征中。しかも2日目は大雨。と思ったら、どーもくんバンド&芹沢理奈が「潮騒のメモリー」をやっていて、子供向け企画ながら意外に面白かったりする。初日は、リー・コニッツ・バンドのインタープレイに感動しつつ、全体としてはトニー・ベネットの本物で現役の凄さに持って行かれた感があり、その余韻の中、2日目に突入。

● マンハッタン・トランスファー

2日目は、マンハッタン・トランスファーの<Birdland>から始まり、いきなり盛り上がる。そして、ファンキーでブラジリアンなグルーヴが気持ちよい<Bahia>へ。
マンハッタン・トランスファーは結成して約40年。ティム・ハウザーが71歳で、最年少のシェリルが59歳。以前に比べれば声の伸びに若干の衰えを感じるのはやむをえない。コーラスグループなだけに、微調整が効くソロに比べるとそれをカバーするのは若干難しいところはある。いや、それは昔がさらに凄かったということで、もちろん今でも最高のコーラスグループの一つであり素晴らしいハーモニーを聴かせてくれた。またバンドも豊かなサウンドでバックアップする。今回、リーダーのティム・ハウザーが病気療養のため来日できなくなり残念だったが、代役で入ったトリスト・カーレスは、ティムの代役への起用が光栄で夢のようだと語っていたし、それだけに一員として頑張っていた。
選曲としては、いくつかの大ヒット曲があえて取り上げられていなかったが、ゆったりした往年のアメリカンポップスのグルーヴを基調にしながらモダンに歌い心地よい。最後は『Chick Corea Song Book』から<Spain (I Can Recall)>をミディアムテンポで歌う。音域的にも無理がなく円熟したコーラスで会場を湧かせ、締めくくった。

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● ラリー・カールトン・ブルース・オール・スターズ with special guests ジョン・オーツ and ビル・ラバウンティ

ステージが明るくなると、ギブソンES-335が3台並んでいる。ラリー・カールトンは言う。日本の震災には心を痛めていて、自分に何ができるかを考えた。ES-335にミュージシャンにサインをしてもらいオークションにかけてそのお金を寄付しようと思う。
ラリーを初めて聴いたのは<ルーム335>でフュージョン・ギタリストとして最初は捉えていたが、ブルースを何曲も弾くのを聴いていると、本物のブルース・ギタリストであって、ブルースの表現の深さに驚かされる。
中盤からビル・ラバウンティがエレピの弾き語りで参加し、説得力のある豊かな歌を披露し、ラリーのギターとの間にケミストリーが起こる。いったんビルははけて、ギターの弾き語りでジョン・オーツが登場、<Lose It in Louisiana>など披露し、ギターバトルのようなやりとりも楽しい。
本物の歌とラリーのギターの出会いを堪能させてくれたステージだった。

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● ボブ・ジェームス & デヴィッド・サンボーン featuring スティーヴ・ガッド & ジェームス・ジーナス

4人がステージに登場すると、あらためてジェームス・ジーナスの身長に驚かされる。25年前にボブ・ジェームスとデヴィッド・サンボーンがコラボレーションした『ダブル・ヴィジョン』ではマーカス・ミラーが大きな役割を果たしていたが、今回の『クァルテット・ヒューマン』はアコースティックに徹していて、その中でジェームスのウッドベースは最適任であると思う。日本では小曽根真ザ・トリオの印象が強いが、ブレッカー・ブラザーズなどでのエレクトリックベースは凄く、またウッドベースの名手でもあり、その両方を兼ね備えている。このバンドの素晴らしさの半分は、スティーヴ・ガッドとジェームスのサポートによる。スティーブの大げさではなく、淡々としながら豊かな表現力でのドラミングはデヴィッドとボブの音を引き立てている。
9月3日にブルーノート東京で聴いたときは、デヴィッド・サンボーンのアルトサックスの音質が大きく変化していたことに驚かされていた。おなじみの倍音域を多く含む(説明のため極言すれば多少キンキンした感もある)音を想像していたが、高音域が抑えられていた。それだけならPAの違いの可能性もあるが、フラジオ(サックスの基本音域外の高音をハーモニックスを駆使して出す奏法)での極端なフレーズ使いも避けていた。今回のアルバムが、デイヴ・ブルーベック&ポール・デスモントを意識したせいかとも推測したのだが。国際フォーラム「ホールA」では、やはりおなじみの音質とフレージングだった。もともと広い会場でもサックスの音が確実に届くというメリットが背景にあるので理にかなっている。マーカス・ミラー作曲の2曲も含めよりフェスティバルらしい音作りでの演奏となった。

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● ai kuwabara trio project

今年の東京JAZZの日本から参加したグループは、桑原あいと前日の大江千里。23歳にして東京JAZZへのリーダーでの参加となった桑原は、「小学校6年生で初めて東京JAZZを見にきた。ふつうの女の子だったのが今このステージに立たせていただいている」「生きていてよかった」と泣きながらMCをしていた。森田悠介(b) , 今村慎太郎(ds)ともテクニックと高い表現力を持っており、3人が一体になったプロジェクトとなっている。1曲ごとに起承転結をもったダイナミックなオリジナル曲とプログレッシブだがわかりやすい3人の熱いパフォーマンスが一気に観客の心を掴んでいた。 ピアノの叙情的な美しいフレーズから始まり、展開しながらハードなソロパートへ進み、昂揚感とともに着地する。その展開が観客を惹き付け飽きさせることがない。ただ、どうしてもスタイルと曲の構造が上原ひろみと比較されることはあるだろうし、その差別化を見せる必要はあると思う。幼少の頃からエレクトーンと作曲を学び早くから才能を発揮してきただけに、作曲の妙はあり、曲の構成がよくできていて、短い1曲の中でミニ交響曲的に変化に富んでいる。ただ繰り返すと単調になりかねない。 桑原の静かな美しいフレーズとハーモニーでのピアノの表現力も素晴らしく、シンプルで淡々とした曲の中で、冷たい炎を見せてくれるような演奏もじっくり聴きたい。オーソドックスではあるが、セット全体に対しての起承転結を優先させ1曲1曲の個性を強く特徴づけた構成も期待したい。ともあれ、23歳にして観客の心を確実に掴んだ桑原の今後の成長と活躍を楽しみにしたい。

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● ボブ・ジェームス & デヴィッド・サンボーン スペシャル・セッション featuring スティーヴ・ガッド、ジェームス・ジーナス、ヒラリー・ジェームス and MORE!

残念ながら出演を予定していたボビー・マクファーリンが病気で来日できなくなったことを受けて、この時間帯はボブ・ジェームスに任されることになった。前半は、8日昼の部でも演奏された、ボブ・ジェームス&デヴィッド・サンボーンのグループで、『クァルテット・ヒューマン』からの曲を聴かせた。通しで観ると2回同じものを聴くことになったが、夜の部だけの方にはお得でもあったかも知れない。もちろんボビー・マクファーリンの歌を聴きたかったのだが。

ここで、いったんバンドははけて、シークレットゲストが登場。ボブが「Makoto Ozone」と呼びかける。小曽根真が登場して、ピアノが2台用意される。ピアノデュオで曲はボビー・マクファーリンの大ヒット<Don’t Worry, Be Happy>。ブルーノート東京公演を小曽根が訪ねたところボブが「僕たちまだ一緒にやったことがないね。いつか一緒にやろう」と話していたら、早速、前日に電話があって急遽デュオをすることになったという。タイトル通りハッピーな演奏を二人で楽しんでいて、会場も幸せな空気に包まれる。タイトルはもともとインドの宗教家のスピリチュアル・メッセージにインスパイアされたもので、お気楽なだけでなく、ボビーの回復を含め、さまざまな想いが込められる。なおこの結果、小曽根真は、2013年の「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」と「東京JAZZ」の両方に出演した唯一のミュージシャンとなり、そのジャンルを超えた幅広い活動と影響力を示すこととなった。

続いて、娘のヒラリー・ジェームスが震災からの復興を願う<Put Our Hearts Together>を歌う。
そして、最後はバンドが再び登場し、ラリー・カールトンが加わる。ボブから10年間フォープレイで一緒に演奏してきた仲であることが紹介される。最高のバンドとラリー・カールトンの出会い、東京JAZZ 2日目のハイライトのひとつとなった。

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●チック・コリア & The Vigil with ティム・ガーランド、カリートス・デル・プエルト、マーカス・ギルモア、チャールズ・アルトゥラ

チック・コリア & The Vigilはチックが始めたばかりの新プロジェクト。チックもメンバーが世界の各地から集まった有能な若手であることを強調していた。アルバムからのサウンドは、エレクトリックなリターン・トゥー・フォーエバーのサウンドへの回帰を感じさせるものだったが、ライブは少し趣が違うようだ。1曲目は<Tempus Fugit>から。今回の公演では1時間に3曲と、1曲が長めになっていた。テーマ部分で優れたアンサンブルを聴かせながら、全体としては長めのソロパートを用意し、各プレイヤーのソロ・パフォーマンスによりフォーカスしていたと思う。パーカッションとドラムのソロとその掛け合いにも十分に時間が取られ、ラテン系の演奏に相当に高いポテンシャルを持っていることがわかり、今後、チックの音を受け止め一体感が増していくと思う。東京JAZZに限って言えばやや不完全燃焼感はある。おそらくクラブやフルサイズのコンサートで多数の曲をじっくり聴くと、ステージと観客のコミュニケーション・ラインがしっかり作られて、素晴らしい体験となるような気がする。また発展途上感があるので、ツアーを終えたら凄いバンドに化けているのではないかと思い、今後に期待したい。

都心では、かえってジャズのライブを手頃に聴くことが難しくなってきており、その中で、ホール公演、無料ライブ、放送も含めて機会を提供する東京JAZZの存在価値は大きく、感謝すべき点は多いと思う。家族連れを多く見かけるのも心強い。ただ、ミュージシャンの選択について言えば、今回もよかったと言えるものの、高齢になりつつあるミュージシャンが目玉になりがちな感覚は否めない。かつてのジャズフェスで30〜40代のミュージシャンが活躍し、そのまま持ち上がってきている。若手や中堅を取り込み、そしてファン層の安定拡大につなげていくか。総合力を持った東京JAZZだからこそ思い切った取り組みをお願いしたいと思う。

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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


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