Live Report #808

メリアナ featuring ブラッド・メルドー&マーク・ジュリアナ
MEHLIANA featuring Brad Mehldau & Mark Guiliana

2015年3月13日 ブルーノート東京
Text by 神野秀雄(Hideo Kanno)
Photo by 古賀 恒雄(Tsuneo Koga)


Brad Mehldau (Piano, Fender Rhodes, Moog Little Phatty, Prophet 08)
Mark Guiliana (Drums)

 ブラッド・メルドーとマーク・ジュリアナによるエレクトリックデュオ、Mehliana。2014年2月25日にファーストアルバム『Taming the Dragon』(Nonesuch)を発表。グレッグ・コラーが録音とミキシングを担当し、ブラッド作曲の6曲とマークとの共作の6曲の計12曲が収められたこのアルバムは衝撃をもって迎えられ、2014年の最も重要なジャズアルバムとする声も多く、受賞も多かった。マーク・ジュリアナは、ジャズファンからは、アヴィシャイ・コーエン・トリオにシャイ・マエストロとともに参加、2003年から2008年に在籍し、トリオで来日もしたことが特に記憶されていると思う。2014年には、『My Life Starts Now』とインプロヴィゼーションによる『Beat Music: The Los Angels Improvisations』をリリースし、12月にはビルボードライブ東京で自身のバンドで公演を行った。またデヴィッド・ボウイがマリア・シュナイダー・オーケストラと録音する際にドラマーとして指名されたことも注目される。イエスやキング・クリムゾンで活躍したビル・ブラフォードも最も表現力を持ち、最も注目すべきドラマーの一人として絶賛している。
 Mehlianaは2013年秋にアメリカとヨーロッパでのツアーを行っており、今回は3月、インドネシア・ジャカルタでのインターナショナル・ジャワ・ジャズ・フェスティバル、日本、韓国などでアジアツアーを行った。実はジャワ・ジャズでうっかり見逃して、終演後に二人を見かけて残念だったので、急遽ブルーノート東京で聴くことにした。行ってみると客層はジャズファンに留まらず幅広く、また若い層も多い。
 ブラッドの楽器は、ステージ奥に向かってスタインウェイ、その90度横にフェンダー・ローズ・ピアノがL字型に置かれ、ピアノの上にムーグ・リトル・ファッティ、ローズの上にプロフェット08、つまり、ピアノと電気ピアノ、シンセサイザー2台が整然と置かれている。客席から見ると後方から右側を向く感じで顔は見えにくいが演奏がよくわかる。マークはというとドラムセットがとてもシンプルですっきりしている。大きなバスドラムに、その上にタムが一つもなく、フロアタム1個だけ。シンバルも低い位置に調整されている。ちなみにアントニオ・サンチェスも低いセッティングだったが、音楽的必然性もさておき、楽器に視界を遮られることなく顔がよく見えるというのは、ドラマーを見に来る場合とてもありがたい。このセッティングから分かるように音楽はサウンド自体をいたずらに複雑化することなくシンプルな中に超絶な演奏をみせる。
 ブラッドは基本的にはフェンダーでメインのフレーズ、ムーグでベースライン、プロフェットで中高音域のハーモニーや効果音と明確に楽器の役割を切り分けていて、そしてスタインウェイの美しい響きがエレクトリックとアコースティックの素晴らしい対比を見せる。ピアノの名手だけに4台の鍵盤を前にしてもシームレスに必然性のある音を紡ぎ出す。エフェクトやサンプリングなどもかけているがとても自然だ。マークのドラミングは正確で緻密でありながら、繊細なゆらぎと大胆で柔軟なタイム感覚を持っていて、スネアドラムとハイハットとバスドラムという基本からだけでも斬新で壮大な表現を打ち出し、ブラッドの4つのキーボードから紡ぎ出される音の波に呼応し溶け合い一体になる。ミュージシャンの希望によりセットリストが公開されていないが、『Taming the Dragon』から、確か<Hungry Ghost>、<Just Call Me Nige>、<Sleeping Giant>などを織り交ぜて演奏されたようで、MCもほぼなく連続するように進行した。
 こうしてみると、エレクトリック(正確に言えばエレクトリック&エレクトロニック&アコースティック)デュオを始めたというのは、何かとても新しいことにチャレンジしたというよりも、ブラッドとマークの頭の中で鳴り溢れていた音を結びつけ表現する新しいプラットフォームを手にしたことに過ぎないということに気付く。もちろんブラッドのアコースティックピアノに魅せられて来たファンの一部には受け入れがたい部分もあるかも知れないが、個人的にはアコースティクピアノでの世界観となんら変わることがなく、豊かに拡張されたと感じた。これに似た経験ではサックスとトランペットを含む山中千尋のクインテットを初めて聴いたときに、そのブラスセクションのハーモニーはピアノトリオの中で以前からずっと鳴っていたことに気付いた(ちなみに山中はブラッドに先立って、ラリー・グラナディア、ジェフ・バラードとトリオで録音していたというつながりがある)。また、モントルーやジャカルタの客層を見ると、ジャズフェスティバルでも、もはやピアノトリオよりもMehlianaの方がより幅広い共感を得やすい時代でなっていることも指摘しておきたい。
 ふたりはお互いが創る音楽の海で、水を得た魚のように自在に動き回りながら新しい音楽を創り、それでいて音楽の流れが発散することなく、しっかり地に足がついた一貫性のある充実した時間と空間を生み出していた。満席の観客は一様に打ちのめされ同時に満足した表情を見せていたのが印象的だった。この音ならジャカルタは熱狂的に盛り上がっただろう。2015年にはブラッドは再びラリー、ジェフとのトリオでアメリカとヨーロッパの長い旅に出て、Mehlianaのツアーは予定されていないが、いつかまた来日して、二人の壮大で居心地のよいさらに進化した音の空間に身を置くことを楽しみにしたい。

【関連リンク】
Brad Mehldau website
http://www.bradmehldau.com
Mark Juliana website
http://www.markguiliana.com
Meliana - Nonesuch Website(ライブ動画を見ることができる)
http://www.bradmehldau.com/mehliana/

Mehliana / Taming the Dragon (Nonesuch) Brad Mehldau Trio / Ode (Nonesuch) Mark Juliana / My Life Starts Now
Mark Juliana / Beat Music: The Los Angels Improvisations

神野秀雄 Hideo Kanno
福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。東京JAZZ 2014で、マイク・スターン、ランディ・ブレッカーとの”共演”を果たしたらしい。

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