Live Report #817

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 2015 - PASSIONS 恋と祈りといのちの音楽
La Folle Journée au Japon 2015 - PASSIONS

2015年5月2日〜4日 東京国際フォーラム
May 2-4, 2015 at Tokyo International Forum
Reported by Hideo Kanno 神野秀雄
Photos by ⓒ K. Miura三浦興一

テーマ性変更で時代を超えるラ・フォル・ジュルネへの期待と課題

【まとめ】


ゴールデンウィークに東京国際フォーラムで開催される「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン『熱狂の日』音楽祭」(LFJ)。ルネ・マルタンがロックコンサートにヒントを得たアイデアで1995年にフランス・ナントで開始し、短めのコンサートを低料金でたくさん用意することでより多くの人に、また子供たちにクラシックに親しんでもらう試みは、東京でも定着し、金沢、新潟、びわ湖、そして世界に拡がっている。東京では3日間で有料公演135、総来場者数427,000人におよぶ。これまで作曲家や時代をテーマに選んできたが、11年目の今年から概念的なテーマへ移行し時代を超える。

2015年のテーマは「PASSIONS パシオン」。それは「魂の奥底から放たれる強い感情」であり、作曲家たちの創造の根源にある。ルネサンスから20世紀前半までの400年間を探る音楽の旅に向けて、ルネは「祈りのパシオン」、「恋のパシオン」、「いのちのパシオン」の3つの扉を設定した。「祈りのパシオン」では、ヨーロッパにおいてPassionとはキリストが捕えられ十字架にかけられる”受難”を指すことは日本ではあまり知られていないが、これをヒントにしながら作曲家が祈りをいかに音楽に昇華させたのかを振り返る。あらゆる芸術の動機付けとなってきた「恋のパシオン」。ここでは特にロマン派に目を向ける。「いのちのパシオン」では生命の躍動、魂の歓喜を感じさせるような音楽を取り上げる。

バロックから現代まで、幅広い時代を網羅する中で、バッハの作品が多く取り上げられていたのが目立つ。バッハは深く根源的なパシオンを持ち、そして古い音楽ではなく時代を超越しインスパイアし、結びつける特別な存在であることが浮き彫りになった。

ECM的には「祈りのパシオン」の中でアルヴォ・ペルトが<ヨハネ受難曲>を含めて3公演にわたって取り上げられたことを特筆したい。児玉桃は、確かなピアノ技法の先に作曲家の心象風景を浮かび上がる究極の音楽で魅せた。児玉麻里&児玉桃によるメシアン<アーメンの幻影>は希望と光を感じさせる素晴らしい演奏となった。

ルネによると今年を含め4年間のテーマをすでに決めており、2016 年はナントと共通で「Nature」つまり「自然」を考えているという(主催者の公式発表ではなく決定事項ではない)。時代を超えるテーマ性は新しい視点でバロックから現代までの音楽を俯瞰し、本質に迫れた点で非常によいと思う。ただ、2015年は2014年に比べて集客数がダウンしており、音楽的に前向きな冒険を維持しながら、プロモーションの転換と強化による集客と興行上の安定、通年での盛り上げと浸透の必要性を感じた。

それでは、各公演について触れていこう。曲目は事前のリストに基づいており、当日の変更やアンコールなどに必ずしも対応していないことをご了承いただきたい。

【5月1日】

5/1 19:00- Apple Store Ginza
ルネ・マルタンが語るラ・フォル・ジュルネ2015&スペシャル・ライブ

ⓒ Hideo Kanno ⓒ Hideo Kanno

ルネ・マルタンが今回のテーマと見どころを語る。次いで声楽アンサンブルのラ・ヴェネクシアーナ、ポルトガル・ファドのアントニオ・ザンブージョ(g)のミニライブを行い撮影自由、TwitterやFacebookでの拡散を推奨する。2014年に比べルネのトークも短く、パシオンの総説としてはよいものの、意外な話、とっておきの話までは掘り下げきれなかった。ライブもよかったが、SNS拡散ならもっと早い時期がよく中途半端感は否めない。これなら地上広場のプレナイトイベントにルネが出演して、SNS推奨で盛り上げた方がよかったかも知れず、こういったプロモーションの最適化は今後の課題だろう。なお、一般にApple Storeトークイベントの多くは録画されポッドキャストで公開されるが、ルネは2014年も2015年も録画公開されていないので、次回以降に期待したい。

5/1 19:00- 地上広場
みんなでハレルヤ〜熱狂のプレナイト

2013年「みんなでボレロ」から始まった参加型イベント。今年はヘンデルの「メサイア」より「ハレルヤ・コーラス」。指揮は曽我大介とアンバサダー辰巳琢郎が盛り上げた。次いで、「熱狂のプレナイト」として、御喜美江(アコーディオン)、ポルトガル・ファドにルーツを持つアントニオ・ザンブージョ・クインテットによる無料公演。金曜夜、仕事帰りに仲間と飲みながら思い思いに楽しむ姿はLFJの大切な一面だ。

【5月2日】

#121 5/2 10:00 Hall B7
パシオンの邂逅〜越境するアコーディオン

御喜美江Mie Miki (Accordion)



Scarlati: Sonata in C minor K159
Glass: Modern Love Waltz
Legrand: Les Parapluics de Cherbourg‘sシェルブールの雨傘
Cage: Dream
Piazzola: S.V.P. / Chiquilin de Bachinバチンの少年 / Dernie lament 最後の嘆き / 白い自転車 La bicicleta blanca
Zone: Road Runner

アコーディオンという繊細な息づかいを多声で表現できる鍵盤楽器によって、ときに冷たい印象もあったフィリップ・グラスやジョン・ケージ、ジョン・ゾーンなど20世紀作品のPASSIONが人懐っこく浮かび上がる。

#151 5/2 10:30-11:20 Hall D7
パシオンの邂逅〜2台ピアノの響演

酒井茜 Akane Sakai (p)、エフゲニ・ポジャノフ Evgeni Bozhanov (p)

モーツァルト:2台のピアノのためのソナタ ニ長調 K.448
ラフマニノフ:2台ピアノのための組曲第2番 op.17
Mozart: Sonata for Two Pianos in D Major K.448
Rachmaninov: Suite No.2 for Two Pianos Op.17

二人のモーツァルトには魂を持って行かれた。息の合ったデュオなどというものではなく、それぞれ独自のタイム感を秘めながらときに会話するようにときに闘うように。テンポはミクロにもマクロにも伸び縮みする。ふたりのグルーヴの微妙な違いが緊張感と心地よさを作る。即興演奏家でもあったモーツァルトが書いた2台のピアノ曲であるだけにそれだけの自由度と懐の深さを持つことが明らかになる。他方、ラフマニノフでは曲の構造上、二人はより緊密に歩み寄りながら緊張感のあるインタープレイが続く。特に正しいクラシックファンには受け入れ難かったかも知れないが、ジャズの求める究極のインタープレイのひとつであり、それはアドリブである必要すらない。

この感覚について酒井茜と話す機会を得た。「弾いているときの時間の感覚はひとりひとりそれぞれ違います」「完全に合うのは好きではなくて、もちろん合わせないのではなくて、そのぎりぎりのところの感覚が好きです」。エフゲニ・ポジャノフも独自の世界を持っていて「さすがに強烈だったけど」「目から鱗のようなこともあった」と言う。エフゲニはきっちり演奏の方向性を決め収束したいタイプ、酒井はそのときそのときの状況で自由度を残し楽しみたいタイプだと言う。そのせめぎ合いもあったが演奏は「楽しかった」。ベルギー在住の酒井はマルタ・アルゲリッチやギドン・クレーメルらから声がかかるが、「相手がいると知らないところが出る」と言うようにインタープレイの中で想像もしないケミストリーを生んでいく演奏家であり今後が楽しみだ。なおLFJ2014のマルタ・アルゲリッチらとの共演が印象に残るが、そのときの<春の祭典(2台ピアノ版)>のライブ音源を含むCDを7月頃にリリース予定という。

#172 5/2 12:30-13:30 よみうりホール Yomiuri Hall
躍動と瞑想のバロック〜バッハ究極の変奏曲

katerina Derzhavina エカテリーナ・デルジャヴィナ(p)

J.S.バッハ ゴルトベルク変奏曲 ト長調 BWV988
J.S.Bach:Goldberg Variations in G major BWV988



エカテリーナはモスクワ出身でLFJ2012にも出演、今年ナントでも好評を得た。「ゴルトベルク変奏曲」は冒頭のアリアが30の多様な変奏を経て最後に回帰する構成で永遠を表すかのようであり、なんと眠気を誘うことを意図して書かれているそうだが(ゴルトベルクは不眠症の伯爵のために弾いた演奏家の名前だという)、エカテリーナはひとつひとつの変奏を確かな技法で豊かに表現を膨らまし、バッハの大地に根ざした音を届けてくれた。 (写真は公演#346より転用)

#124 5/2 15:30-16:20 Hall B7
躍動のバロック〜ピアノの響宴

Iddo Bar-Shaï イド・パル=シャイ(p)
Luis-Fernando Perez ルイス・フェルナンド・ペレス(p)
Momo Kodama 児玉桃(p)
Orhestre d’Auvergne オーヴェルニュ室内管弦楽団
Roberto Fores Veses, Conductor. ロベルト・フォレス・ヴェセス 指揮

J.S.バッハ:2台のピアノのための協奏曲 第1番 ハ短調 BWV1060
J.S.バッハ:2台のピアノのための協奏曲 第2番 ハ長調 BWV1061
J.S.バッハ:2台のピアノのための協奏曲 第3番 ハ短調 BWV1062
J. S. Bach: Concerto for two clavier in C minor, BWV1060
J. S. Bach: Concerto for two clavier in C major, BWV1061
J. S. Bach: Concerto for two clavier in C minor, BWV1062

晩年のバッハがライプツィヒで多忙を極めながらも情熱を注いだ2台のチェンバロのため協奏曲。それぞれ原曲があり、ライプツィヒの街中のカフェでのコンサートのために2台のチェンバロとオーケストラのために編曲されたと言われる。それぞれの組み合わせで2台ピアノ曲を計3曲奏でる。ヴァーチュオーゾ3人がバッハの溢れる生命の躍動と、根源的な感情を浮かび上がらせる。写真はリハーサル時のもの。

#114 5/2 16:15-17:20 Hall A
ルネ・マルタンのル・ク・ドクール<ハート直撃コンサート>

Amanda Pabyan アマンダ・パビアン (soprano),
Alessandro Liberatore アレッサンドロ・リベルトーレ (tenor)
Irène Duvalイレーヌ・ドゥヴァル(vn)
Claire Dèsert クレール・デゼール (p)
Sinfonia Varsovia シンフォニア・ヴァルソヴィア
Robert Trevino ロベルト・トレヴィーノ (conductor)

ショーソン:詩曲 op.25
ショパン:ピアノ協奏曲第2番 ヘ短調 op.21
プッチーニ:オペラ《ジャンニ・スキッキ》より 「私のお父さん」
プッチーニ:オペラ《ラ・ボエーム》より 「私の名前はミミ」
ドニゼッティ:オペラ《愛の妙薬》より 「人知れぬ涙」
ヴェルディ:オペラ《ラ・トラヴィアータ》より 「乾杯の歌」
Coup de coeur of René Martin”
Chausson: Poème for violin and orchestra op.25
Chopin: Piano Concerto No.2 in F minor op.21
Puccini: O mio babbino caro, excerpts of Gianni Schicchi
Puccini: Mi chiamano Mimi, excerpts of La Bohème
Donizetti: Una furtiva lagrima, excerpts of L’Elixir d’Amour
Verdi: Brindisi,excerpts of La Traviata

ル・ク・ドクール/ハート直撃コンサートは、ルネ・マルタン本人が今最も注目するアーチストを紹介する特別なコンサート。ルネのシェフズテーブルとも、DJルネとも例えられるだろう。MCつきのクラシックコンサートも異例だ。今年はクレール・デゼールのショパンのピアノ協奏曲、そしてイタリア・オペラの愛のアリアにフォーカスした。

#165 5/2 17:30-18:15 G409
ベートーヴェンの命のパシオン

児玉麻里 Mari Kodama (p)

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第25番 ト長調 op.79
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第20番 ト長調 op.49-2
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第23番 ヘ短調 op.57 「熱情」
Beethoven: Piano Sonata No.25 in G major op.79
Beethoven: Piano Sonata No.20 in G major op.49-2
Beethoven: Piano Sonata No.23 in F minor op.57 “Appassionata”


© Vincent Garnier

児玉麻里は、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全32曲のコンサートを行い、CDに録音するというプロジェクトに挑み達成している。それは「ピアニストにとってヒマラヤに挑むようなもの」だと語っている。その一端を知る公演。作品ごとにピアノ・ソナタには、彼の多様な感情や意志が反映されている。明晰な感覚と確かなタッチ、ダイナミックレンジの広さの中で、ベートーヴェンの多様な表情と内面を描き出す素晴らしい演奏だった。

#157 5/2 21:00-21:50 Hall D7
20世紀の祈り〜収容所で生まれた祈りの音楽

成田達輝 Tatsuki Narita (vn)、吉田誠 Makoto Yoshida (cl)、堤剛Tsuyoshi Tsutsumi (vc)、萩原麻未 Mami Hagiwara (p)

メシアン 世の終わりのための四重奏曲
Messiaen: Quartet for the End of Time

第二次大戦中、捕虜となったメシアンがドイツの収容所の中で書いた四重奏曲で、クラリネットを含む変則的編成はそのとき収容所にいた演奏家に従っている。絶望的な状況で書かれ、文字通り終末的な曲名であるにもかかわらず、いたずらに不安を煽る音響ではなく、音楽の歓びと希望を持ち続けた音楽を、ヴァーチュオーゾたちが豊かな響きで演奏した。

#183 5/2 22:00-22:45相田みつを美術館 Mistuo Aida Museum
ギターとオーボエによるラテン版“郷愁のパシオン”

古部賢一 Fukube Kenichi (ob) 、鈴木大介 Daisuke Suzuki (g)

チマローザ:オーボエ協奏曲
ラヴェル:ハバネラ形式の小品
セイシャス:シチリアーノ
ジョビン(鈴木大介編):イパネマの娘
ピアソラ:カフェ1930
プホール:ポンペイヤ
マシャド:ヴァモ・ネッサ、サンバマール、涙のないショーロ 他
Cimarosa: Oboe Concerto in C major
Ravel: Pièce en forme de habanera
Seixas: Siciliano
Jobim/Daisuke Suzuki: Garota de Ipanema
Piazzola: Café 1930 etc.
Pujol: Pompeia
Machado: Vamo Nessa, Sambamarr, Choro Sem Lagrimas

オーボエとギターの組合せで、ブラジルやアルゼンチンなどラテンの国々からのパシオンを届ける。地球の裏側でありながら日本人のパシオンに響く、中南米からのパシオン、そして、日本人の心を切り取った感のある相田みつを作品に囲まれたシチュエーションもとても不思議な心地よさを作っていた。

【5月3日】

#221 5/3 10:30-11:15 Hall B7
“恋の物語〜シューマンによる悲恋物語”

児玉桃 Momo Kodama (p)

メンデルスゾーン:無言歌集より
 Op.19より1「甘い思い出」、3「狩りの歌」
 Op.53より 2「浮き雲」、Op.67より4「紡ぎ歌」
メンデルスゾーン:ロンド・カプリチオーゾ
シューマン:クライスレリアーナ op.16
Mendelssohn:Songs without words, excerpts
Mendelssohn:Rondo capriccioso in E major
Schumann:Kreisleriana op.16


© Marco Borggreve

2012年録音の『鐘の谷』(ECM NS2343)で鮮烈な印象を残し、LFJ2014でも素晴らしい演奏を聴かせた児玉桃は今年3公演に出演。ソロ公演は19世紀を生きたロマン派を代表する2人の作曲家メンデルスゾーンとシューマンの恋のパシオンを取り上げた。桃のピアノはもはや表現力という言葉の先に行っており、ピアノの最大の力を出して、桃自身の表現と言う以上に作曲家の訴えていることが完全な表現として抜けていく。明確な映像ではないが、作曲家の見ていた空間や風景が見えてくる気がする特別な時間だった。

LFJ2015の児玉桃の公演の時系列でもバッハから、シューマン、メシアンに向かうが、桃のコメントによれば、バッハはより根源的で、フォーカスしていくパシオン、シューマンは人から人へ向かうパシオン、メシアンはバッハ的なパシオンに近いが、ロマン派の影響も経ながら、宇宙や自然をも含むより幅広いパシオンだという。その違いを聴き分けるよい機会にもなった。

#262 5/3 11:45-12:30 G409
パシオンの邂逅〜ピアノ独奏によるパシオン集

酒井茜 Akane Sakai (p)

ヤナーチェク: ピアノ・ソナタ 変ホ長調 「1905年10月1日、街頭にて」
シマノフスキ:マズルカより op.62-1, op.50-20, op.50-1, op.50-4
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第26番 変ホ長調 op.81a 「告別」
Janácek: Sonata in E-flat minor “1.X 1905”
Szymanowski: Five mazurkas op.62-1, op.50-20, op.50-1, op.50-4
Beethoven: Piano Sonata No.26 in E-flat major op.81a “Les Adieux”


© Hideo Kanno

酒井が今後も続けて演奏していきたいと語っていたヤナーチェクとシマノフスキ。ショパンを乗り越えながら自分の音楽を拓くシマノフスキと、独自の世界を持つヤナーチェクの作品に強い魅力を感じるという。力強い確かなピアノで、二人のパシオンを表現する演奏はとてもよかった。

#272 5/3 13:30-14:20 よみうりホール
はじけるパシオン〜室内楽の冒険

SPARK (The Classical Band)

Motschmann: Folk Tune Rhapsody I
Say: Kumru
Ince: Two Step Passion
Greensleeves
Bunch: Groovebox Variations
Mey: Je t’aime
Meijering: Wild Heart
Du Phly: Rondeau, extrait de la Deuxième Suite du Livre I
Nyman: An Eye for Optical Theory



ルネが今年のサプライズに連れて来たのは、クラシックの教育を受けたメンバーによるロックのエネルギーを持つ5人組SPARK。というとエレクトリックな想像をするが、意外にもピアノ、バイオリン、チェロにリコーダー2本、ときに鍵盤ハーモニカが加わる。この中で強烈なビートを生み、特にリコーダーが思った以上の効果を出している。身体が自然に揺れてしまう音楽、よみうりホールよりもイベント会場系の方が向いているようだ。

#246 5/3 20:30-21:45 Hall C

Vox Clamantis ヴォックス・クラマンティス
Jaan-Eik Tulve ヤーン=エイク・トゥルヴェ (cond)

ペルト:ヨハネ受難曲
Pärt: Passio (The Passion of Our Lord Jesus Christ according to John)

ECMニューシリーズを代表するエストニア出身の作曲家アルヴォ・ペルトがラテン語詞で書いた<ヨハネ受難曲>。1935年生まれのアルヴォが47歳、1982年に書いており、時期的には故郷エストニアはまだソ連に併合され先の見えない冷戦期だった。1988年、ヒリヤード・アンサンブルによる『Passio』(ECM NS1370)が初録音となる。オルガン、バイオリン、チェロ、オーボエ、バスーンにコーラスという、シンプルな編成だが、沈黙の上に浮かび上がる深遠な音響に包まれる至福の時間となった。

#257 5/3 21:30-22:15 Hall D7

児玉麻里、児玉桃

メシアン:アーメンの幻影
Messiaen: Visions de l'amen
創造のアーメン Amen de la creation
星たちと環のある惑星のアーメン Amen des étoiles, de la planète à l'anneau
イエスの苦しみのアーメン Amen de l'agonie de Jésus
願望のアーメン Amen du désir
天使たち、聖人たち、鳥たちの歌のアーメン Amen des anges, des saints, du chant des oiseaux
審判のアーメン Amen du jugement
成就のアーメン Amen de la consommation

第二次大戦中にドイツの収容所から釈放されたメシアンが最初に手がけた曲で、1943年5月に占領下のパリで後に妻となるロリオとメシアンで初演。メシアンは敬虔なカトリック教徒であり、神学の深い知識を持ち、1931年から最期までパリ・サントトリニテ(聖三位一体)教会のオルガン奏者を務めた。児玉桃は本人のオルガン即興演奏を聴く機会があったという。メシアンの祈りのパシオンは、教会に差し込む光、ステンドグラスの色彩などの体験も含め、光と色と希望に向かう。そして児玉桃によれば、それはバッハに見られる宗教を背景にした根源的なパシオンから、宇宙や自然にも向かう広いパシオンだという。またこの作品でもメシアンは鳥にもフォーカスするが、鳥の鳴き声はきっちりしたリズムを持たないが、「ゆらぎ」の中に根源的な音楽がある。低音の響きと高音域の高度な表現が要求されるが、児玉麻里と桃の姉妹は、確かで美しいピアノの音に裏打ちされ、力強く、歓びと希望を秘め、光と色彩を感じさせながら弾ききった。

【5月4日】

#341 5/4 10:00-11:15 Hall C
パシオンの邂逅〜さまざまな涙の作品集

レミ・ジュニエ(p)、鈴木康浩(vn)、オーベルニュ室内管弦楽団

J.S.バッハ:ピアノ協奏曲 第5番 へ短調 BWV1056
ペルト:ベンジャミン・ブリテン追悼のカントゥス
ブリテン:ラクリメ
スーク:セレナード op.6

5/4 18:30-19:30 G402
マスタークラス特別編「パシオンを語る」

ミシェル・コルボ Michel Corboz(指揮)、飯田有沙 Arisa Iida(音楽ライター)

宗教声楽曲の大家で、LFJでの演奏の機会も多かったミシェル・コルボが人生を振り返りながらパシオンを語るマスタークラス。叔父によるレッスンで音楽に開眼する子供時代。美しいハーモニーとの出会いについて、なんとピアノの弾き語りをしてくれたのは鳥肌だった。「バッハも聴かせてくれたが、その音楽が私に語りかけて、音楽が大切な物になった。」「ヨハネ受難曲は私へのギフト。」そして高等師範学校でのことからローザンヌ声楽アンサンブル結成や初来日のことなど。「バッハは心を揺さぶり、音楽のおかげで私たち人間は、自分を解き放つことができる。」今回のテーマを理解する特別の機会となった。

#374 18:30-19:45 よみうりホール Yomiuri Hall
あふれる想い〜ポルトガル郷愁の歌

アントニオ・サンブージョ
Antonio Zambujo (vo, g)
Bernardo Couto (Portuguese guitar)
Richard Cruz (b)
Joao Moreira (tp)
Jose Conde (cl, bcl etc)

Fatallidade (Fatality)
Casa Fechanda (The Abandoned House)
Valsa dum pav a o ciumento (Walz for Jealous Peacock)
Finstones
Barata tonta (Silly monkey)
Con c a o de Brazzaville (Brazzaville Song)
Pema dos Olhos da Amada (Poem to the Ryes of my Beloved)
Em quarto Luas (Four Moons)
Foi deus (Was God)
Apelo (Appeal)
Fado desconcertado (Discouncerted Fado)
Despassarado (Schatterbrain)
Chamatea (Traditional)
Algo estranho acountece (Something Strange Happens)
Reader’s Digest
Flagranbte (Red-handed)
Pica do sete

ルネが今最もパシオンを強く感じる音楽の一つとしてサプライズで呼んできたポルトガルのグループ。アントニオは1975年ポルトガル南部の生まれ。トランペットとクラリネットの2管を含む変則的編成で、ポルトガルのファドをベースにしながらも、そこに留まらずにブラジル音楽やジャズの領域へも自由に行き来する。そもそもポルトガル語で歌う段階でブラジルとの壁は消えているし、”ポルトガルのカエターノ・ヴェローゾ”と呼ぶ向きもあるが、本人は影響を認めつつも謙遜するし、特にその方向を目指してはいないという。ともあれ、1,101席という中規模の会場ながら、静かに溢れ出るパシオンを感じつつ、会場が暖かい空気に満たされ、ステージと客席の間がとてもよいコミュニケーションで結ばれた素晴らしいライブだった。

#316 21:00-22:00 Hall A
LFJ2015の大団円を飾るパシオンの響宴

Amanda Pabyan アマンダ・パビアン(soprano)
Alessandro Liberatoreアレッサンドロ・リベラトーレ(tenor)
Yulianna Avdeeva ユリアンナ・アヴデーエワ(p)
Sinfonia Varsovia シンフォニア・ヴァルソヴィア
Robert Trevino ロベルト・トレヴィーノ(cond)

プッチーニ:オペラ《ジャンニ・スキッキ》より <私のお父さん>
プッチーニ:オペラ《ラ・ボエーム》より <私の名前はミミ>
ドニゼッティ:オペラ《愛の妙薬》より <人知れぬ涙>
ヴェルディ:オペラ《ラ・トラヴィアータ》より <乾杯の歌>
グリーグ:ピアノ協奏曲 イ短調 op.16
ショパン:ワルツ第5番 Op.42 (アンコール)
マルケス:ダンソン2番
ドヴォルザーク:スラブ舞曲 Op.46から第1番 ハ長調 (アンコール)
ヴェルディ:オペラ《ラ・トラヴィアータ》より <乾杯の歌>(アンコール)
Puccini: O mio babbino caro, excerpts of "Gianni Schicchi"
Puccini: Mi chiamano Mimi, excerpts of "La Bohème"
Donizetti: Una furtiva lagrima, excerpts of "L’ Elixir d’Amour"
Verdi: Brindisi,excerpts of "La Traviata" Marquez:Danzón no.2
Grieg: Piano Concerto in A minor op.16
Chopin: Waltz No.5 Op.42
Marquez: Danzón no.2
Dvorak: Slavonic Dance Op.46 No.1, C major
Verdi: Brindisi,excerpts of "La Traviata" Marquez:Danzón no.2


フィナーレでは、イタリア・オペラのアリアから恋のパシオンで盛り上げる。次いで、ユリアンナ・アヴデーエワのグリーク<ピアノ協奏曲>、ピアノの美しさと表現力に圧倒される。なお、ユリアンナはナントではショパン<ピアノ協奏曲>を演奏していた。最後の曲に選ばれたのは、メキシコ生まれのマルケスによる、中米の音楽とダンスをモチーフにした<ダンソン第2番>。1994年作曲で、ベネズエラのグスターヴォ・ドゥダメル指揮 シモン・ボリバル・ユース・オーケストラの演奏で有名になり、昨今、管弦楽はもちろん、吹奏楽での演奏も多い。ラテン的な哀愁を強く感じるメロディー、静かにやがて熱く燃えていくリズム。以前、ルネに「今回、20世紀アメリカ作品やジャズは取り上げないのか?」と質問したところ、「取り上げない」との回答だったが、広義のアメリカ地域、そしてそのグルーヴという意味でこんなオチを用意していたとは。知名度の点で不安はあるものの、締め括りの1曲の選択として的を得たものだと思う。
今年はパシオンというテーマの下で、実は観客それぞれが本当に多様な音楽を聴いているために、すべての人にわかりやすい共有体験としてのフィナーレコンサートのプログラムは難しくなってきている。正直、曲目だけ見たときはこれがパシオンのフィナーレ?と少し戸惑った。その意味では今回ならバッハを一つ入れておくのは手であったかも知れない。人物や時代によらないテーマが続く中では、その年の印象と後味に大きく影響するフィナーレコンサートにはこれまで以上の十分な検討とサプライズを期待したいと思う。

作曲者や時代、地域をテーマとせず、「Passions パシオン」に始まり、より概念的なテーマへ踏み出す。2016年は「Nature 自然」を考えているという(主催者の公式発表ではなく決定事項ではない)。その先には「ダンス」「亡命(国外生活)」など。ルネによれば、これまでのLFJは「入門」、これからが本当の「音楽の冒険」だという。バロックから現代までの音楽を俯瞰するのは素晴らしいことであり、時代を超えて音楽を創るものを浮かび上がらせることができて、一定の成功を収めたと評価できるし、この方向性に安心して進むことができる。

他方、入場者数は2014年よりもダウンし、入場券の販売率は約80%にとどまった。現実は小中規模会場のほとんどが売り切れ、ホールA公演に多めの空席が残ったということであり、この点でも「パシオン」は失敗ではないことを示すが、東京都を背負ったイベントでもあり興業的、財務的にホールA席を埋めることは重要であるとともに、当日に来て参加したいと思った層の指標でもある。
LFJは11年を経て、「知っている人は知っている」「知らない人は知らない」の乖離が見えるところはあり、リピーターで成立するにしても、LFJの理念から言って「初めてのLFJ」客を取り込むことに大きな意味がある。

バッハ、モーツァルトというテーマが、クラシック音楽を示すキーワードとして機能してきた従来に比べて、「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン PASSIOS」という名称と今回のヴィジュアルでは、クラシック音楽祭であることが伝わりにくく、「初めてのLFJ」客には響かなかったかも知れない。テーマ性を変更するということは、芸術面で妥協しないとしながら、プロモーションの点ではより分かり易さが必要となり、メディアや都営など公共交通機関も活用した幅広い告知が必要になると思う。また文化の面では国名よりも都市名に魅力を感じる時代になっており、東京都関連の東京国際フォーラムが主催となって文化振興を目指していることを考えれば、「オ・ジャポン」は発展的に「トキオ」となり「ラ・フォル・ジュルネ東京音楽祭」となってよいと思う。同会場での季節イベントとして「東京JAZZ」との比較や連携も役に立つかも知れない。また、幅広い音楽の取り組みと、観客それぞれの選択の中でも、同じものを見たという一定の共有体験をこじつけることも必要かも知れないと思った。

LFJテーマ性の変更は素晴らしい前進であり価値があるとともに、その道は険しい。いや、だからこそ、取り組む価値があり、その中で見えてくるものもあると思う。ルネ・マルタンとともに、さまざまな意味で本当の「音楽の冒険」に踏み出すことを楽しみにしたいと思う。

【追記】
会場と収容人数:
ホールA(5,008席)、ホールB7(822席)、ホールB5(256席)、ホールC(1,494席)、ホールD7(221席)、ガラス棟G409(153席)、よみうりホール(1,101席)、相田みつを美術館
その他、無料コンサートが地上広場、展示ホール(有料コンサートの半券が必要)で開催される。

【JT関連リンク】
ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 2014 「祝祭の日」
http://www.jazztokyo.com/live_report/report688.html
http://www.jazztokyo.com/live_report/report691.html
ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 2013 「パリ。至福の時」
http://www.jazztokyo.com/live_report/report533.html
http://www.jazztokyo.com/live_report/report528.html
東京JAZZ 2014
http://www.jazztokyo.com/live_report/report739.html
東京JAZZ 2013
http://www.jazztokyo.com/live_report/report581.html
『児玉 桃/鐘の谷〜ラヴェル、武満、メシアン:ピアノ作品集』
http://www.jazztokyo.com/five/five1043.html

【関連リンク】
ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 2015
http://www.lfj.jp/lfj_2015/
Le Folle Journee de Nantes
http://www.follejournee.fr

神野秀雄 Hideo Kanno
福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。東京JAZZ 2014で、マイク・スターン、ランディ・ブレッカーとの”共演”を果たしたらしい。

WEB shoppingJT jungle tomato

FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.