『Ganelin Trio Priority/Live at the Lithuanian National Philharmony Vilnius 2005 』

NEMU Records(独) NEMU 005 (DVD/86分

Vyacheslav Ganelin(p, syn, per), Petras Vysniauskas(as, ss), Klaus Kugel(ds, per)

1) Conversation I 2) Conversation II 3) Homage to Friends

Recorded live at the Lithuanian National Philharmony, Vilnius, Lithuania on May 27, 2005

 ガネリン・トリオ・プライオリティのリトアニア国立フィルハーモニーでのライヴを収録したDVDがリリースされた。ヴャチェスラフ・ガネリン(p,syn,per)とリトアニアの逸材ピャトラス・ヴィスニャウスカス(as,ss)、ドイツ人だが国境を超えて幅広く活動しているクラウス・クーゲル(ds,per)とのガネリン・トリオ・プライオリティは、CD化された(注)1999年のヨーロピアン・ミュージック・フェスティヴァル・ミュンスター出演以降も継続的に欧米で演奏活動を行っている。
 旧ソ連でフリージャズを最初に演奏したミュージシャンの一人として知られるガネリンだが、彼は作曲家でもあり、その即興音楽もジャズ、フリージャズ的なものに多種多様な音楽要素が折り込まれた高度な折衷性をもつ。ここでの演奏でも、アブストラクトではあるがメロディアスなモチーフが用いられている。多彩なマテリアルを用い、抜群の構成力でシンフォニックな空間を創り出す。トリオの演奏であるが、とてもサウンドが豊かなのだ。非凡な感性と美学でサウンドを構築していく手腕は見事としかいいようがない。彼のシンセサイザーの扱いもまた秀逸で、懐かしさを伴った独特の雰囲気を醸し出す。映像を見て初めてわかったのだが、ピアノの上にシンセサイザーを置くというセッティングで、時々片手はピアノ、片手はシンセサイザーを弾くということも。ヴィスニャウスカスはとても美しい音色を持つサックス奏者で、そのフォークロア的なリリシズムも随所に現れ、演奏を色彩豊かなものにしている。繊細さと鋭さも併せ持つクーゲルのフレキシブルなプレイもガネリンやヴィスニャウスカスとの相性が抜群。長尺の即興演奏だが、イマジナティヴで、聴く者を疲れさせず、また飽きさせない。それは情景を喚起させる詩編のようであり、浮かび上がるイメージはどこかで観たロシア映画に映っていた景観にも繋がる。西欧の即興演奏とは全く異なった美的感性であるが、それはココロの中に持っている風景の違いなのだろう。ガネリンの音楽的特性は、フリージャズ的なものが過度に求められた時代よりも異郷化が進む今の時代こそ親和力があるかもしれない。
 イスラエルに住むガネリンだが、彼の故郷はリトアニア。ホールは多くの人で埋まっている。会場の雰囲気が伝わるのもDVDの長所。画質も映像もとてもよい。JT

注:Disk Review No.201『Live in Germany / Ganelin Trio Priority』Auris Media aum005
関連リンク: http://www.jazztokyo.com/
newdisc/komado/mars.html

NEMU Records: http://www.nemu-records.com
日本のディストリビューターはPopBiz社:http://www.popbiz.co.jp/

(横井一江)

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