『k7 box (カセット・ボックス)/鈴木昭男』

ALM-URANOIA, URCD-7 (2007年) ¥2,625 (税込)

●鈴木昭男 (アナラポス他)

●Analapos (A-1) 横須賀美術館開館時用/Analapos (B-1)/De Koolmees (G-1)/Analapos (A-2)/Bottle/Analapos (B-2)/De Koolmees (G-2)/Analapos + De Koolmees/De Koolmees (G-3) 横須賀美術館閉館時用

●企画・制作:ALM Records/Kojima Recordings, Inc.
●録音:小島幸雄

 2007年4月にオープンした横須賀美術館の依頼で美術館開閉館時に流す音楽を1曲目と最後に収録したサウンド・アーティスト鈴木昭男の新作CD。2007年1月にオープン前の横須賀美術館で録音したその2曲を含め、鈴木昭男が考案したエコー音具「アナラポス」を使ったものが多く収録されている。

 身近な素材を使ったり、自らが考案した音具を使い生み出す彼の音は、サウンド・アート、サウンド・デザイン、サウンド・インスタレーションと呼ばれ、即興性を帯びながらも即興演奏音楽と区別されることが多いように思う。インスタレーションとして美術の範疇で語られることが多い。
 本CDのライナーノーツで谷川俊太郎が、鈴木昭男の生み出す音といわゆる音楽について (たとえばと前書きして、音楽として、ワーグナーの楽劇を引き合いに出している)、「目にはない異次元の通路が耳にはあって、物音をまたは音楽を聴くとき、私たちをつかの間どこかへ連れ去ってくれるのだが、その場所が多分鈴木さんとワーグナーでは違う」と書いている。
 ここでも鈴木昭男の生み出す音と「音楽」の線引きがなされているが、決して鈴木昭男のそれが音楽ではないと言ってるのではない。

 私事だが、高校生から大学生の頃、絵を描く時に問題だったのが、無地のキャンバスやスケッチブックを前にして、これから絵を描くぞという、心のこわばりをどう無くすかという点だった。学校の授業中に教科書の余白に、あるいは友人との長電話の最中に電話の脇に置かれたメモにいたずら画を描く時の、こだわりのない自由な心持ちをもって作画作業ができないものか…
 表現をしようとする際の意気込みやこわばりを疎ましく感じていたのだ。いたずら画を描く時のように、無心に戯れながら絵を描くことを理想としていた。

 鈴木昭男が音を鳴らす時、音と戯れているようだと形容されることがある。
 彼はアーティストであるが、ミュージシャンではない。職業音楽家ではないし、既成の楽器を使うことはない。習熟すべき楽器が無いということは、楽器が持つ背景や歴史に規範を求め得ないかわりに、それらに左右されたり束縛されることがない。
 彼が自家製の音具や身近な素材を使って鳴らす音は、音楽の歴史や背景が無く身軽で、我々がかつてどこかで聴いた物音や自然の音、感じた気配そのものに限りなく近い。
 だから受け手は、彼の音を聴く時に風通しの良い自由を感じ、彼の所作に無心を感じるのだ。
 そしてわたしは、音楽の、あるいは即興音楽の、そして表現行為のひとつの理想の姿をそこに見てしまうのだ。JT

(原田正夫)

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