『Original Silence/The First Original Silence』

Smalltown Superjazz, STSJ124CD (2007年)

●Mats Gustafsson (bs, slide sax, electronics), Massimo Pupillo (el-b), Terrie EX (el-g), Thurston Moore (el-g), Jim O'Rourke (electronics), Paal Nilssen-Love (ds)

●If Light Has No Age, Time Has No Shadow/In the Name of the Law

●Produced by Original Silence/Co-produced by Joakim Eaugland
●Recorded live in concert on sept. 30, 2005 at Teatro Ariosto, Reggio Emilis, Italy
●Recorded by Matteo Spinazze and Alberto Mattaroccia

 先日(2007年10月1〜2日)、新宿ピットインで濃密なライヴを繰り広げたザ・シング (The Thing) の拡大判とも言えるプロジェクト「オリジナル・サイレンス」の1st.アルバムは、2005年のイタリア公演で録音されたもので、ザ・シングのアルバムでお馴染みのノルウェーのレーベルから今春リリースされた。長尺の演奏が2曲収録されているが、おそらくフリー・インプロヴィゼーションと思われる。
 バリトン・サックスによる強烈なインプロヴィゼーションで名を馳せるスウェーデンのマッツ・グスタフソンと、欧州フリー・ジャズ第一世代を引き継ぐドラミングが素晴らしいノルウェーのポール・ニルセン・ラヴがザ・シングのメンバー。オリジナル・サイレンスも彼らがリーダー格のようだ。そして米国・イタリア・オランダから、それぞれに係わりや共演歴のあるミュージシャンが結集して、まるでスーパー・バンドのごとくのプロジェクトである。

 グスタフソンは2004年にサーストン・ムーアの「ソニック・ユース」と共演盤を出しており、「ディスカホリクス・アノニマウス・トリオ」というユニットは、グスタフソン、ムーア、ジム・オルークによるトリオ編成で2006年にCDがリリースされている。
 エレクトリック・ベースのマッシモ・プッピーロは、イタリアのハードコア&アヴァン・ロック・バンド「ズー (Zu)」の中心メンバーで、グスタフソンやムーア、オルークと共演歴がある。2005年のドイツのメールス・ジャズ祭では、オランダのロック・バンド「ジ・エックス (The EX)」がオーガナイズするステージにズーのメンバーとして出演している。
 エレクトリック・ギターのテリー・エックスは、そのジ・エックスのオリジナル・メンバー。ジ・エックスは70年代末から活動するポスト・パンク・バンド。80年代に入ってオルタナティヴ度を増し、ICPオーケストラの面々と共演を重ねたり、トム・コラと2枚のアルバムを作ったり、トータスやソニック・ユースと共演し、ムーアやオルークと繋がりがある。2000年のメールスでは Ex Orkest という名で、ジ・エックスの面々を中心としたオーケストラ編成でステージに立っている。

 1曲目の冒頭からジャッジャッジャッと歪んだ音でギターのカッティングを入れてくるのはテリーだろう。上記のようにジ・エックスは、ICPやトム・コラなどと共演を重ねオルタナ度を増しながらも、パンク・ギター・バンドとしての矜持を守り続けている面白いバンドだ。ここでもプッピーロと共にこのユニットの音にハードコア・ロックやパンク・バンドのざらりとした質感と肉感を供給していてさすがの存在感だ。
 2曲目は1曲目と雰囲気が変わり、冒頭から演奏のテクスチャーにエレクトロニクスが絡んできて、音に隙間がでてくるあたりは、オルークやムーアの存在を強く感じる展開。ミキシングの関係だろうが (あえてそうしているのかも知れないが)、全体にグスタフソンのブロウイングやニルセン・ラヴのドラミングは思ったほど強く前面に出てこない。このあたりはライヴ録音といっても、CDにするにあたって6人全体の「音場」を重視したと推察される。
 6人が一堂に会して音を出すのは、今回がおそらく初めてに違いないが、彼らがそれぞれの地で個別に活動しながら、時間を作っては共演してきた経緯が、このプロジェクトで音として重なり合い、円環として眼前に現れるさまに興奮する。この「円」は今も現在進行形の「音場」なのだ。

 たとえば…
 今世紀に入ってイタリアで生まれた Qubico という新興レーベルがある。フリー・ジャズ、エクスペリメンタル・ミュージック、スピリチュアル・ファンク、アヴァン・ロックを提供するレーベル (困ったことにアナログ盤でしかリリースしない。しかも500枚限定といったものが多いのですぐに完売してしまう) で、阿部薫の未発表音源を2枚組のレコードで出したりする興味深いレーベル。前記のズーの存在と併せると、イタリアにもエクスペリメンタル・ミュージックやアヴァン・ロックのシーンがあるということがわかる。
 オランダのジ・エックスとICPの共演は、いわばハードコア&アヴァン・ロックと欧州フリージャズの邂逅でもある。ノルウェー+スウェーデンのザ・シングの演奏は、ハードコア・ロックとフリー&スピリチュアル・ジャズの一体化だ。
 今世紀に入って世界のあちこちで、かつてのロックとジャズのフュージョンとは違うロックとジャズ (というよりフリージャズやフリー・インプロヴィゼーション) のミクスチャーが表面化してきて、それは現在進行形の動きである。
 オリジナル・サイレンスの6人が見せてくれる「音場」を記録した本CDは、まさにそうした流れを象徴する1枚なのだと思います。JT

(原田正夫)

Close >>