『江戸京子/C.ドビュッシー 前奏曲集第1巻』

財団法人 日本伝統文化振興財団 VZCC-84 ¥3000(税込)

演奏:江戸京子(pf)
曲目1.デルフィの舞姫 2.帆 3.を渡る風 4.夕べの大気に漂う音と香り 5.アナカプリの丘 6.雪の上の足跡 7.西風の見たもの 8.亜麻色の髪の乙女 9.とだえたセレナード 10.沈める寺 11.パックの踊り 12.ミンストレル

録音:2007〜2008@岩手県久慈市アンバーホール
録音・編集・マスタリング:今泉徳人
制作協力:アリオン音楽財団

1937年生まれの江戸京子の実演を、私は知らない。「東京の夏音楽祭」の芸術監督を長く務め、怜悧なエッセイの書き手であり、才能豊かな青少年を門下から輩出する教育者でもある彼女のマルチな辣腕振りは知っていても、ピアニストとしての彼女に直接触れることはなかった。このディスクを手にしてはじめて、こういう音を出し、こういうピアノを弾くひとだったのか、と知ったが、それはそれまでの江戸京子像を覆すものではなく、むしろそのままだった。まさに、筋の通った音楽家である。
巷にあふれる音の厚化粧や演出、媚びというものの一切ない、素っ気なくも、ときおり野性的ですらある面構えで、音をはじき出してゆく。第1曲「デルフィの舞姫」の最後を、びっくりするようなフォルテでしめくくり、第2曲「帆」のアルペジオなど淡々サラリ、第3曲の無窮動的パッセージはつんのめったりすっとばしたりの自在運転で涼しい顔、と聴き続ければ、いわゆる「これぞドビュッシー」的絵画性や、ストーリーがどんどん耳から削ぎ落とされ、「そうだったのねドビュッシー」となるわけだ。第6曲「雪の上の足跡」の衒いない静けさを、とくに私は愛する。続く「西風の見たもの」の暴れ方も思い切りよく、第9曲「とだえたセレナード」や第11曲「パックの踊り」の緩急心得た諧謔味も、エッセイでの彼女の筆そのままで、終曲へと突っ込んで行くのである。
ふと、彼女がパリ国立音楽院で学んでいた頃、当地のサロンでは、きっとこういう演奏が聴けたのだろうな、と思った。JT

(丘山万里子)

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