『アルヴェ・ヘンリクセン/カートグラフィー』

ECM/ユニバーサル・ジャズ UCCE1109  2008/12/10発売

Arve Henriksen trumpets, voice, field recording
Jan Bang live sampling, samples, beats, programming, bass line, dictaphone, organ samples, arrangement
Audun Kleive percussion, drums
David Sylvian voice, samples, programming
Helge Sunde string arrangement and programming
Eivind Aarset guitars
Lars Danielsson double-bass
Erik Honoré synthesizer, samples, field recordings, choir samples
Arnaud Mercier treatments
Trio Mediaeval voice sample
Vérène Andronikof vocals
Vytas Sondeckis vocal arrangement
Anna Maria Friman voice
Ståle Storl?kken synthesizer, samples

1.ポヴァティー・アンド・イッツ・オポジット
2.ビフォー・アンド・アフターライフ
3.ミグレーション
4.フロム・バース
5.ウイジャ
6.レコーディング・エンジェル
7.アッセンブリー
8.ラヴド・ワン
9.ジ・アンリマーカブル・チャイルド
10.ファミンズ・ゴースト PART1/PART2
11.サーマル
12.ソロウ・アンド・イッツ・オポジット

傑作ですよ、これは。

おいみんな、デヴィッド・シルヴィアンがECM作品に登場だぞ!と、書き出すのは誤った紹介アプローチの典型ですが。

虚心になって聴き始めよう、即座に連れて行かれるはずだ。くぐもったトランペットのかすれ音、技巧に裏打ちされた戸惑いの語り出し、すでに背景にオペラのオーケストラのようにフィールド・レコーディングなのか気配を漂わす舞台を表象する音がわきたっている。ヘンリクセンの世界だ。00年代ECM名盤のひとつであるクリスティアン・ヴァルムルー・アンサンブル『ア・イヤー・オブ・イースター』(ECM1901・ユニバーサルUCCE1058)2004を濃厚に彩っていたペットが彼だった。それ以前に、Supersilentのメンバーであることのほうが、この作品の土台を説明するのに納得がたやすい。

パタパタパタ・・・と羽根の音が鳴っているのは、稲垣足穂や鈴木翁二、あがた森魚の世界を連想しますね。

2曲目でデビシルの朗読がカットアップ・重奏されてます。3曲目にはデビシルの弟ジャンセンが音源を提供。カートグラフィー=地図作成技法というアルバムタイトル、各楽曲のネーミングはシルヴィアンだという。ヘンリクセンが2005年から2008年までの間に録りだめてきたライブ録音・スタジオ録音が集積された作品である。結果的に、曲ごとに演奏家や取り扱われた音源の位相に変化があるのは、正しいと思う。

ニルス・ペッター・モルヴァル(1960-)だったのか。まだ学生だったヘンリクセン(1968-)に尺八のテープを手渡したのがモルヴァルだったというエピソードは、このペットの鳴りようを雄弁に説明する。これは、まさに尺八だ。言われると、もうそういう風にしか聴こえなくなるのが怖い。ヘンリクセンが2001年にRune Grammofonで制作した最初のリーダー作は『Sakuteiki 作庭記』というタイトルだから、日本好きは相当なもんだ。彼はモルヴァルに導かれたのだな。

日本好きというと、浪人というグループを組むニック・ベルチュを連想するが・・・。あいつはノルウェー出身じゃなかったな。

ところでモルヴァルは元気にしてるのか?モルヴァルはせっかく『クメール』(ECM1560)でスターダムに乗り、『ソリッド・エーテル』(ECM1722)で前進していた(ただし、行き詰まりはあった)のに、ユニバーサルに移籍してあっと驚く駄盤『MP3』を発表して(ある意味当然か)いたので、おれ的には消し・・・、マーケット的にも次作に続かない・・・。あやや、モルヴァルはSULAという自主レーベルを作って細々とやっているようではないか。サイトに流れている宣伝サウンドは・・・メジャー感のない、町工場を思わせる小心サウンドだが、悪くはない。彼はこれを演りたかったのだろう。でもECMでの2作にあった構想がない。おそらく、モルヴァルにはプロデュース能力がない。実際に、サウンド構築力や電子音響的な感覚の良さはヘンリクセンにはかなうべくもない。その意味でヘンリクセンはモルヴァルの躓きを学習しているとも言える。

このECM盤は、デヴィッド・シルヴィアンのレーベルsamadhisoundの作品でもある。

6年前にCDジャーナル誌に「迷宮世界の入り口で ── ECMレーベル案内」をわたしと堀内宏公が執筆したとき、『hyde(ラルク・アン・シエル)のシングルを聴きながら、その耽美性にデヴィッド・シルヴィアンを連想し、そのシルヴィアンの作品に参加する、「釣りびとが緩やかに凍死してゆくかのような演奏」と形容されるスティーヴ・ティベッツの恍惚ECMサウンドまで、を、耳の手ほどきしてしまう不良中年である、私は。』と書き出したものだ。9年前からおいらが騒いでいたマーク・ターナーもECMに登場した。そこらへんのわたしたちの耳の自慢話はまたどこかでするとして。プーさんのソロやカルテットの作品を早く出せよな、アイヒャー。三善晃の作品をニューシリーズでリリースするまで、あとどれくらいかかるんだ?アイヒャー。JT

(多田雅範)

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