# 1256
サックス奏者ジョン・イラバゴンのリーダー作2作品
『Jon Irabagon / Behind the Sky』
『Jon Irabagon / Inaction is An Action』
text by 剛田武 Takeshi Goda
『Jon Irabagon / Behind the Sky』 Irabbagast Records (2015) |
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Tom Harrell (tp)
Jon Irabagon (ts)
Luis Perdomo (p)
Yasushi Nakamura (b)
Rudy Royston (ds)
1.One Wish
2.The Cost of Modern Living
3.Music Box Song (For When We're Apart)
4.Still Water
5.Obelisk
6.Sprites
7.Lost Ship At the Edge of the Sea
8.Mr. Dazzler
9.Eternal Springs
10.100 Summers
11.Behind the Sky (Hawks and Sparrows)
Recorded at the Samurai Hotel on 4/24/14 by David Stoller
Edited by Scott Anderson
Mixed and mastered by Colin Marston
Design by Bryan Murray
All compositions by Jon Irabagon, F Magellan Music (ASCAP)
『Jon Irabagon / Inaction is An Action』 Irabbagast Records (2015) |
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Jon Irabagon (ss)
1.Revvvv
2.Acrobat
3.What Have We Here
4.The Best Kind of Sad
5.Hang Out a Shingle
6.Ambiwinxtrous
7.Liquid Fire
8.Alps
Recorded in Chicago, IL, on 12/29/14 at the Lake View Presbyterian Church by Chris Cash
Mixed at the House of Cha Cha by Jon Irabagon and Ben Rubin
Mastered by Colin Marston
Design by Bryan Murray
Cover painting, Still Life with Sopranino, by Kyunghee Kim
All compositions by Jon Irabagon, F Magellan Music (ASCAP)
現実世界と異世界が交錯する即興演奏の陰と陽。
1978年シカゴ生まれ、現在はニューヨークを拠点に活動するサックス奏者ジョン・イラバゴンの演奏を初めて観たのは今年1月10日六本木スーパーデラックスだった。ノルウェーのノイズユニット「ジャズカマー」のメンバーのJohn Hegre(g)とNils Are Dronen(ds)によるハードコアノイズ演奏に激烈なフリークプレイで真っ向から応酬するイラバゴンの表情が、まったく平静そのものであることに不思議な気持ちを覚えた。終演後物販コーナーでニューヨーク・シーンについて雑談したときのもの柔らかで落ち着いた語り口には、ミュージシャンというより学者か研究者に似た雰囲気を感じた。販売していたCDを「これが最新作か?」と尋ねたところ「そうだ」と言うので買い求めた。帰宅して確認したところ、最新どころか2010年のアルバムで、しかも内容は同じ曲のバージョン違いを12曲収録したもの。新作云々のやりとりについては、恐らくざわついた会場での聞き違えだと思うが、ビキニ女性の写真をあしらったCDジャケットと内容のギャップに、真面目だけれど掴みどころのない不思議な人物という印象が残った。
その時、年内にリリース予定、と語っていたリーダー作品が同時に2作リリースされた。先に届いたのが『Behind the Sky』と題されたクインテット作品。期待感に満ちてプレイボタンを押したのだが、流れてきたのはフォービートのモダンジャズ。一瞬CDを間違えたかと思ったが、間違いなくジョン・イラバゴンのCDである。トランペットにベテランのトム・ファレルを迎えて奏でる11曲はすべてイラバゴンのペンになる作品。何度か聴くうちに単なるフォービート・ジャズではなく、現代的な感性に満ちたコンテンポラリー・ジャズで、高度なテクニックに裏打ちされたイラバゴンやハレルのソロ・プレイが時にジャズのフォーマットを逸脱しそうになるスリルを感じることが出来る。それにしてもリリース記念ライヴをNYの名門ジャズクラブ「ジャズ・スタンダード」で開催するとは、ブルックリンの屋根裏からマンハッタンのセレブ街への転身か?
しかし思い出すべきはイラバゴンが2008年セロニアス・モンク・サクソフォン・コンペティション優勝に輝く紛れも無いサラブレッドだという事実である。前衛ジャズやフリー・インプロヴィゼーションに限定されることなく、ストレート・アヘッド・ジャズで活躍する可能性も大いにある。イラバゴンがレギュラー・メンバーとして参加する『モーストリー・アザー・ピープル・ドゥ・ザ・キリング』(MOPDtK)にしても、希代の変態コンボと呼ばれる一方で、基本となるスタンダードやモダンジャズを解体し逸脱していく方法論の現出が本質にある。「空の向こう側」というタイトルには、輝かしい大空の裏側にある異世界への誘(いざな)いという意味があるのかもしれない。
そう考えると同時発売のソプラノ・サックス・ソロ・アルバム『Inaction is An Action』は、逆に異世界の住人から現世人へのラヴレターと言えるだろう。最初の一音から想像もつかない唸り、軋み、喘ぎ、抉り、捻る音響が否応無しに放出される。収録トラックの半分がそのような未確認飛沫音響。かろうじてサックス、もしくは管楽器の一種と判別のつく残りのトラックも、メロディ認識可能なのは更にその半分、あとはピーピーひゅーひゅーガーガーという、例えば壊れた水道管の中を下水が通り抜ける時の音、に終始する。かつて考察した通り、おおよそNY即興シーンの器楽演奏家がソロ作品を制作する際の関心は、自分の楽器から幾通りの方法で、幾通りの音を出すことが可能か、という知的好奇心が最大の動機である。イラバゴンにとって初のソロ作品である今作にも、そんな自己探索欲求が渦まいていることは間違いない。しかし「無行動こそが行動である」というガンジーの非暴力主義を思わせるタイトル(恐らく何かのの引用だろう)は、アクション・ペイティングを思わせる本作の制作意図が、無為自然という老子の思想に帰依することを示唆しているのかもしれない。
すなわち、ジョン・イラバゴンの宇宙(コスモス)のバランスは、この対照的な陰陽二作品にドキュメントされているのである。
イラバゴンの充実ぶりは同時期にリリースされたMOPDtK:ロン・スタビンスキー(p)、ケヴィン・シェイ(ds)、ジョン・イラバゴン(as)、モッパ・エリオット(b)の8thアルバム『Mauch Chunk』と、名ベーシスト、バリー・アルトシュル率いるBARRY ALTSCHUL’S 3DOM FACTOR :バリー・アルトシュル(ds, perc)、ジョン・イラバゴン(ts, ss, fl etc.)、ジョー・フォンダ(b)の2ndアルバム『Tales of the Unforeseen』(TUM CD 044)にも明らかである。
参考リンク;
*Live Report #774
SuperDeluxe & TEST TONE present!!
http://www.jazztokyo.com/live_report/report774.html
*#891(アーカイヴ編)『Jon Irabagon with special guest Barry Altschul/FOXY』 by 望月由美
http://www.jazztokyo.com/five/five891.html
*#1088『Jon Irabagon/It Takes All Kinds』by 望月由美
http://www.jazztokyo.com/five/five1088.html
剛田 武 Takeshi Goda
1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。レコード会社勤務の傍ら、「地下ブロガー」として活動する。
ブログ「A Challenge To Fate」 http://blog.goo.ne.jp/googoogoo2005_01
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#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
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JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
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#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
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#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
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#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
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Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
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#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
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