The Bennie Maupin Ensemble/Penumbra
『The Bennie Maupin Ensemble/Penumbra』

Cryptogramophone - CG 129

Bennie Maupin(b-cl,ts,ss,a-fl,p) Darek "Oles" Oleszkiewicz(b) Michael Stephans(ds) Daryl Munyungo Jackson(per)

1. Neophilia 2006 2. Walter Bishop, Jr. 3. Level Three 4. Blinkers 5. Penumbra 6. Mirror Image 7. Message To Prez 8. Tapping Things 9. Vapors 10. One For Eric Dolphy 11. See The Positive 12. Trop On A Rope 13. The 12th Day 14. Equal Justice

Recorded by Nolan Shaheed, June 16, 17 2003, at No Sound Studio, Pasadena, CA(Only track 14 was recorded in December 11, 2006)
Mastered by Rich Breen
Produced by Bennie Maupin

 なんとベニー・モウピンの久々のリーダー作が登場。しかも麻薬的かつ静謐なる音像詩学を貫く前衛ジャズ・レーベル「クリプトグラモフォン」からのリリースである。モウピンといえば、マイルスのエレクトリック時代の諸作(『ビッチズ・ブルー』『オン・ザ・コーナー』等)、またハンコックのムワンディシ・バンド、ヘッド・ハンターズへの参加でも有名な、独特なスピリチュアリティを聴かせる屈指のリード奏者であるが、その輝かしい経歴に比してリーダー作は非常に少ない。前作『Driving While Black』(1998)は、シンセサイザー奏者のパトリック・グリーソンと組んだエレクトロ・コラージュを横溢させたダークで洗練されたフューチャー・トランス・ジャズだったが、今回は全編アコースティックな音像からなり、しかも効果音的なパーカッションを重視した特殊な編成で非常に冒険的なサウンドを聴かせている。「ネオフィリア(新しもの好き)」という曲名を付けるだけのことはある。これまでになく空間(スペース)、余白(マージナル)、流動性(リキッディティ)の関係性が重視され、モウピンならではの大地の奥底から招来する(変拍子を含む)グルーヴィーな律動がストイックに抑制され、地面から霧が湧き上がるように個々の音像がもうもうと浮かんでは消えていく。太古の地層を絨毯をめくるように設(しつら)える魔術的な手さばきだ。瞬間のなかに途方もない時間と距離が内包されている。どこか東洋的な世界観にも連なるリアリティを漂わせているのは、仏教徒である彼の心象風景との関わりゆえなのか。そういえば、モウピンがECMに残した名作『ロータスの宝石(The Jewel In The Lotus)』(1974)は未CD化のままだが、ジャケットに蓮の花をあしらった仏教的作品だった。昨年、ECMはジュリアン・プリースター『ラヴ、ラヴ』(1973)を初CD化し、また今年はテリエ・リピダルがマイルスをモチーフに創作した『ヴォッサブリッグ』(録音は2003年)がドイツ批評家賞を受賞、さらにはトリオ・ビヨンドの新作など、60年代末から70年代初頭にかけてのジャズとの関連が目立っている。アイヒャーにはそろそろモウピンの復刻マスタリングに向けて重い腰を上げてほしいところなのだが・・・。 JT
(堀内宏公)

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