特別寄稿
From Russia with Jazz

Francois Carrier(フランソワ・キャリエール)



Intense and inspiring!(情熱とインスピレーション!)

ロシアを端的に言い表す時に僕がいつも使う2つの言葉である。

この東方へのコンサート・シリーズは大分前に企画したものだが、いつものことながら、実現までには忍耐が必要だった。レオ・レコードのオーナーでロシア出身のレオ・フェイゲンにリクエストを出したのは2010年9月だったのだが、それが突然実現したのだった。3日後にはサンクト・ペテルブルグのピアニスト、アレクセイ・ラピンからも、モスクワとサンクト・ペテルブルグで3回のコンサートを開催すると伝えてきた。まさにシンクロニシティ(共時性)というべき事態だった。

12月18日、モスクワ入りした。僕の第一印象はデジャブ(既視感)に近いもの。天候や自然の環境が僕の地元モントリオールとまったく同じだったのだ。何年も続いた抑圧から来るものと思われる重苦しさや厳しさは感じたものの、この街がすぐ好きになった。現地では生きることが容易(たやす)いことではなかっただろうし。

僕らは音楽を演奏するためにロシアに来たんだ。だから、演奏をしようぜ。ピアニストのアレクセイ・ラピンがモスクワの中心地にある僕らの居所(BB、いわゆるBed & Breakfastというやつ)にやってきた。僕も同行のミシェルもアレクセイとは初対面だ。この居所から最初のギグの会場、DOM文化センターへは歩いて行ける距離。ロシアに出発する前、僕らは初めての顔合わせだけど、きっとお互い交感し合えると思っていた。午後、数曲インプロヴィゼーションを録音してから、DOMから歩いて赤の広場へ出掛けた。その日は、フリーのメロディアスな即興音楽(free melodic improv music)を演奏した。事前には知らされていなかったのだが、コンサートが終わってその夜の夜行列車でサンクト・ペテルベルグへ向かうことになっていたのだ。汽車の旅は10時間に及んだが、その間眠れたのは7分もなかったと思う。モスクワ滞在中はアレクセイの義理の兄弟であるヴァレラ・ゴザロが何かと世話を焼いてくれて、僕らは、今、この美しい都市、サンクト・ペテルブルグに居るというわけだ。20分ほど歩いてアレクセイの自宅へ到着し、シェタが用意してくれた暖かい朝食をいただいた。

 


その間、アレクセイが僕らにあてがわれていたひどいホテルをキャンセルして代わりのホテルを探してくれていた。その晩、つまり、12月20日の夜、僕らはJFCジャズ・クラブで演奏した。幸いにもアレクセイがその夜のコンサートをうまく録音してくれた。翌火曜日、僕らは2時間ほどサンクト・ペテルブルグの街を散策してから、ESG-21へ出掛けた。アヴァンガルドと即興演奏向けの本当に小さなクラブだった。

サンクト・ペテルブルグの最終日はヴァレラが街を案内をしてくれた。ありがとう、ヴァレラ!駆け足の1日が終わって、アレクセイとシェタの家で皆で食卓を囲んだ。シェタ、暖かいもてなしをありがとう。

モントリオールへ戻って演奏を聴き直し、この演奏を公開することを皆で決めた。リリースしたのは3回のコンサートのすべて。モスクワで演奏した1部を『Inner Spire』として2011年3月にレオ・レコードから。次いで、2011年の12月には『All Out』をFMRレコードから、さらに2012年の1月にはレオ・レコードから『In Motion』をそれぞれリリースした。これらの3作を通じてロシアのスピリットを感じとってもらえると思う。生きざま、発見、ユーモア、刺激、道、旅立ち、地図、静穏、サンクト・ペテルブルグ、物語、厳しさ、団結、テクニック、激しさ、モントリオール、共生、犠牲、天空、タイミング、旅路、静謐、危急、これらのすべての要素。

2011年の12月6日、ロンドンのヴォルテックスで、『In Motion』と『All Out』のリリースを祝うイベントがあり、ベーシストのジョン・エドワーズとピアニストのスティーヴ・ベレスフォードがゲスト参加してくれた。どんな演奏だったかって?それは、今年リリースされる『Overground to the Vortex』を聴いてのお楽しみ。

やるべきことはたくさんあるが地上での生はとても短い。だから、聖人でもない限り、生きている以上つねに前を向いて創造的であることがとても重要になる。

真の友達であるOlivier Chevillot, Édith Fortier, Jacques Fortier, Valera Godzhalo, MichelLambert, Alexey Lapin、そしてこの地球に住むすべての生き生けるものに心からの感謝を。(2012年3月14日)

♪ モスクワにて

♪ サンクト・ペテルブルグにて

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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


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