Live Report #872 |
コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ |
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岡山駅の西口に奉還町という商店街がある。地方の商店街の衰退は、地方再生の街作りの課題ともなっているが、ご多分に漏れずこの商店街もシャッター街になりつつある。しかし学生の往来が多いので、若い人たちの新しい感覚による店舗が増えてきている。その奉還町商店街を一歩脇に入ったところにあるKAMPという外人向けの木賃宿も、若い感性が創り出した一軒であろう。ライヴハウスというわけではないが、一階のフロント兼ラウンジというのか、カフェのスペースは若者の文化の発信に一躍買っている。
去年の5月1日、岡山大学出身でバークリー音楽院を特待生で出た橋爪亮督さんの帰省に合わせ、岡大ジャズ研を中心にライヴ&ワークショップ・イヴェント、ドリーム・ジャズ・セッションをKAMPで開催した。その時のライヴ・メンバーだったコジマサナエさんと大野こうじさんが、今回も橋爪さんの正月の帰省に合わせて、この1月3日にライヴをすることとなった。だから、この面子による顔合わせは、今回で2度目である。コジマサナエさんは、岡山出身で2003年よりNYで活動していたジャズ・ボーカリストだが、ジャズというジャンルに捕らわれず心に響いた歌を歌うシンガーだ。橋爪さんとは、彼が岡山にいた頃何度か同じステージで演奏をしている。そして、大野こうじさんは大阪のギタリストで、木訥とした人柄とは対照的にその端正なギター・フレーズは不思議な魅力をもっている。いま、西日本では注目のプレイヤーだ。サナエさんは、最近は好んで大野さんとのデュオ活動に力を注いでいる。つまり、この3人のセッションは出会うべくして出会った必然的偶然のセッションなのだ。
コジマサナエさんはジャズのスタンダード曲以外にも、70年代80年代のアメリカン・ポップスも歌う。KAMPの泊まり客は、このような催し物には基本的にフリーで参加できる。白人の40?50代くらいの客が4?5人「So far away」や「Say you Love me」などに合わせて、ビールを片手に体でリズムを取っている。橋爪さんはポップな曲にも、自分のスタイルで曲を展開して行く。もっと、ソウルフルに展開して欲しいと思っても淡々とサックスを吹いている。大野さんもそうである。ミルトン・ナシメントの「Travessia」(ブリッジ)も、ぐっと盛り上がってゆく曲のくだりの部分にさしかかって、ここはサナエさんは歌い上げたいのだろうなと、私は思いながら聴いていたが、2人はぐっと押さえて演奏している。そして、サナエさんの昔からの十八番「Afro Blue」が始まった。ジャングルのざわめきを想定したフリー・スタイルのイントロから演奏が始まって行く。いつもはメインテーマから彼女は弾けて歌い出す。しかし今回はそのようには行かない。歌の次にサックスとギターにソロが回ってくると、二人はクールにアフロ・ブルーを展開してゆく。ジム・ホールとジミー・ジェフリーのサウンドを思い出してしまった。結局彼女も、飛び跳ねること無くクールにアフロ・ブルーはフェイドしていった。まだ、未完ではあるが、新しいアフロ・ブルーの解釈に私はためらいながら、驚いた。
余談ではあるが、サナエさんがニューヨークにいた頃、ダウンタウンのライヴハウスでこのアフロ・ブルーを歌っていると、ヨボヨボのじいさんが客席からステージに上がってきてコンガを叩きだした。すると店中が大いに盛り上がり、渾身のライヴになったらしい。ライヴの後で、そのじいさんに名前を訊くと、モンゴ・サンタマリアだったそうだ。アフロ・ブルーの作曲者本人だ。また、昔岡山にリー・コニッツが来た時も、飛び入り共演してリー・コニッツにえらく褒められたコトがあった。彼女は、ビックリするようなエピソードを色々と持っている。
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2部構成の三人のライヴが終えると、第3部は岡大ジャズ研、ジャズ研OB、地元ミュージシャン等が参加するセッション・タイムとなった。ジャズ研副部長・鈴木啓一郎君のピアノ、ジャズ研OB金山隆圭君のベースは、これからが楽しみなミュージシャンだ。ドラムの國廣理正さんは、往年の安定したドラミングで終始みんなをサポートしていた。大野さんは裏技のフルート、橋爪さんはピアノを披露してくれた。ジャズ・セッション初体験のサックスのリコさん、ギタリストのMizushimaくん、即興詩人のことはさん、ピアノのメグさんなど参加して、大いに盛り上がったのだが、場所が住宅街なのでリミットは10時半とあいなる。演奏の合間は、DJ.ケンタロウがソウルフルなコンテンポラリー・ミュージックで会場をクールに演出。彼はサナエさんの同窓生で、東京帰りのユニークなDJだ。
この新春ライヴで、三人の新しい可能性が見えたようで幸先のよいライヴであった。今年は、サナエさんの新作レコーディングの話も持ち上がっている。一昨年前、発売になった『Unconditional Love』と同じ安カ川さんのDaiki Musicから発売する。大野さんとのデュオをレコーディングする予定だったが、今回のライヴで橋爪さんにも何曲か参加してもらう話になったようだ。(2016.1.15)
*関連リンク
http://www.jazztokyo.com/column/mochizuki/chapter-041.html
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
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#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
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JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
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#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
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