# 1277
『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』
text by Yumi Mochizuki 望月由美
ピットインレーベル Jシリーズ PILJ-0009 2,500円+税 |
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大友良英スペシャルビッグバンド;
大友良英(gtr) 江藤直子(pf,el-p) 近藤達郎(kbd,hca) 斉藤 寛(fl,picc) 井上梨江(cl,b-cl) 鈴木広志(sax,rec) 江川良子(sax) 東 凉太(sax) 佐藤秀徳(tp) 今込 治(tb) 木村仁哉(tuba) 大口俊輔(acc) かわいしのぶ(b) 小林武文(s) 上原なな江(mar.perc) 相川 瞳(perc) Sachiko M(sinewaves)
1. ソング・フォー・チェ(C.ヘイデン)〜リデューシング・エージェント(大友良英)
2. エンターテインメント・ワールド(大友良英)
3. サムシング・スイート・サムシング・テンダー(E.ドルフィー)
4. OLOのテーマ(大友良英)
5. ガッゼローニ(E.ドルフィー)
6. 海(大友良英)
7. ストレイト・アップ・アンド・ダウン(E.ドルフィー)
8. 三里塚に生きる(大友良英)
9. 孤独の歳月(A.ピアソラ)
10.ラジオのように(B.フォンテーヌ、A.ベルカセム)
11.あまちゃんのテーマ(大友良英)
プロデューサー:大友良英
共同プロデューサー:品川之朗(ピットインミュージック)
エンジニア:菊地明紀(ピットインミュージック)
録音:2014年12月28、29日 新宿ピットインにてライヴ録音
場面展開が鮮やかでグイグイ聴きこまれていく...
昨2015年は「新宿ピットイン」の50周年にあたり、なにごとにも「ピットインイヤー」であった。
その50周年を記念して「新宿ピットイン50周年記念・新宿フェスティバル2015」が昨年の12月26,27日の2日間、のべ12時間にわたって新宿文化センターで繰り広げられた。
初日12月26日は菊地成孔のMCで始まり、新宿ピットインの創業者であり50年間オーナーをしてこられた佐藤良武さんの<1965年12月24日の開店から50年あっという間にすぎてしまいました…。これから60年、70年と記録を伸ばして行きたい、ピットインは永遠に続きます…>という心強い挨拶、そしてピットイン創業時から深くかかわりのあった相倉久人さんとピットインの名物PAオペレーター藤村保夫さんに捧げる黙とうから始まった。
新宿ピットインのキャパはおよそ100人、新宿文化センター大ホールは2000人、ほぼ20倍の観客の前で13グループ延べ100名以上の新宿ピットインゆかりのミュージシャンが2日間で13時間という一大イヴェントをくり広げ客席には『ライヴ・アット・新宿ピットイン』の熱気がその拡張版としてそっくりそのまま伝わり大盛況であった。
老舗ピットインに長年通い続けてきたファンも多く、若干年齢は高めに見えたが曲席には若い女性客も多く見られこれからの希望の灯もともっているようである。
こうした中でこの新宿フェスティバルの3番手に「大友良英スペシャルビッグバンド」がゲストに梅津和時(reeds)、太田恵資(vln)、水谷浩章(b)を加えて登場、大友良英ご自身の巧みな話術で師匠、高柳昌行との確執からピットイン朝の部に出演するまでのエピソードなどを話しながら本アルバム『大友良英スペシャルビッグバンド ライヴ・アット・新宿ピットイン』に収録したレパートリーを生き生きと演奏、通路でリズムをとって踊りだす人が出たりしてステージと会場を一体化して大いに盛り上げた。
大友良英は2011年から毎年新宿ピットインの年末、数日間の昼夜連続公演を行っているが本アルバムは一昨年2014年の「大友良英年末4デイズ6連続公演」のうちの12月28,29日の演奏の中からセレクトされたもので、新宿ピットインの50周年を記念してリリースされたアルバムである。
ここで演奏されている曲は「あまちゃん」や映画音楽として書いた大友良英のオリジナル曲と大友良英ニュー・ジャズ・オーケストラ(ONJO)で録音した『Otomo Yoshihide's New Jazz Orchestra Out to Lunch』(doubtmusic、2005)からの再演曲を中心にA・ピアソラの曲なども取り入れるなどバラエティーに富んでいる。
この「大友良英スペシャルビッグバンド」は2012年にNHKの朝ドラ「あまちゃん」の音楽担当時に結成した「大友良英&あまちゃんスペシャルビッグバンド」が母体となっており、2013年の大晦日にバンド名を発展的に解消し、新たに「大友良英SPECIAL BIG BAND」と命名し再スタートしたのである。
総勢17名中11人が東京芸術大学出身と云うサラブレッドそろいのこのバンド、普通のバンドの楽器編成に加えてハーモニカやアコーディオン、チューバ、サインウェイヴ、更に二人の女性パーカッションが音の彩り、華やかさを際立たせている。
(1)<ソング・フォー・チェ〜リデューシング・エージェント>はONJQの『テイルズ・アウト』(Disk Union、2003)で演奏したものをオーケストラで再演したもの。もの悲しいアルトのリードでスタートするが自然にエレクトリックサウンドがしみ込んでくる、チューバが効果的で厚みのあるサウンドが展開し、気持ちがよい。
(3)<サムシング・スイート・サムシング・テンダー>と(5)<ガッゼローニ>、(7)<ストレイト・アップ・アンド・ダウン>の3曲は云うまでもなくONJO『Out to Lunch』(doubtmusic, , 2005)からの再演。
本家本元のドルフィーのブルー・ノート盤『Out to Lunch』(Blue Note、1964)ではボビー・ハッチャーソンのヴァイブが効いていたがここではマリンバとチューバが隠し味以上の効果をあげている。
(10)<ラジオのように>はブリジット・フォンテーヌ(vo)とアレスキ(vo)がAEC「アート・アンサンブル・オブ・シカゴ」と共演したアルバム『COMME A LA RADIO』(SARAVAH、1970)からの曲で、70年代フリーの懐かしさと大友の新奇性が同居していてとても面白い。
大友良英の曲のなかでは「あまちゃん」で耳なじみの(6)<海>でアコーディオンやハーモニカのソロがゆったりとしたムードを醸し出し(11)<あまちゃんのテーマ>と共に朝ドラ「あまちゃん」を思い出す。
大友良英スペシャルビッグバンドは17人と云う大所帯ながら選曲をはじめとして場面展開が鮮やかであきないどころかぐいぐいひきこまれてしまう辺りに大友良英のリーダーシップ、発想のユニークさが発揮されている。
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<ピットインは永遠に続きます!>と挨拶をする ピットイン社長・佐藤良武さん |
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大友良英スペシャルビッグバンド at 新宿文化センター |
* 関連リンク
http://www.jazztokyo.com/five/five1013.html
http://www.jazztokyo.com/five/five1086.html
http://www.jazztokyo.com/live_report/report542.html
http://www.jazztokyo.com/live_report/report556.html
http://www.jazztokyo.com/live_report/report623.html
望月由美 Yumi Mochizuki
FM番組の企画・構成・DJと並行し1988年までスイングジャーナル誌、ジャズ・ワールド誌などにレギュラー執筆。 フォトグラファー、音楽プロデューサー。自己のレーベル「Yumi's Alley」主宰。『渋谷毅/エッセンシャル・エリントン』でSJ誌のジャズ・ディスク大賞<日本ジャズ賞>受賞。
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#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
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