Live Report #873 |
デヴィッド・サンボーン |
---|---|
新作『Time and the River』をひっさげての日本公演。このアルバム何が凄いかって、ジャケットが日本語の漢字で「サンボーンガワ」。5年ぶりのリーダー・アルバムで、15年ぶりのマーカス・ミラーとのコラボレーション。ただ、今回マーカスの参加はなかったが、その分、デヴィッドをじっくり聴ける感はあった。
1曲目は<Comin’ Home Baby>、いきなりマイナーブルースを持って来るだけにブルージーなプレイを見せつけ、そして、ボブ・ジェームスとのコラボによる『Double Vision』に収められた<Maputo>。信頼するリッキー・ピーターソンの仕切りと、ニック・モロックとアンドレ・ベリーがサポートに身を委ねて、サンボーン節が炸裂する。
『Time and the River』からは<Ordinary People>、<Spanish Joint>の2曲に留まったが、メロウなバラードから、ノリのよい1曲へ。その前後にマーカスゆかりの<Camel Island>と<Run for Cover>を配している。この4曲がシームレスにつながっていく中で特徴的であったのは、パーカッションとドラムスが叩き出すリズムを大切に使っている点であり、これは『Time and the River』でも一貫している。そこでドラムスのクリス・コールマンとともに大活躍を見せたのが、我らが岡部洋一。コンガなどに加えて、タブラも持ち込んだ。気鋭のヴォーカリストNobieとの共演などブラジルを意識したライブを何度か見る機会があり、ワールドミュージック、J-Pop、前衛まで活躍しながら吸収したその幅広いヴォキャブラリとテクニックに驚いてはいたが、世界での活躍という視点で見ていなかった。デヴィッドとの共演の経緯はわからないが、単なる臨時メンバーではなく、このバンドのサウンドの中核を担う存在であり、スタープレイヤーでもあるように、観客を湧かせていた。クリスとの掛け合いも素晴らしい。あらためて世界での活躍を楽しみにしたい。
鳴り止まない拍手に、アンコール<The Dream>で応え、定番となったこのバラードを心を込めて歌い上げ、観客を酔わせ、素晴らしい余韻を残した。
なお、この最終日第一セットでは、ギタリストのジョン・マクラフリン(74歳)がサプライズ・ゲストで登場し、<Spanish Joint>から<Run for Cover>まで参加したという。『Electric Guitarist』(1978)での<Every Tear from Every Eye>が思い出され、ぜひ聴きたかった。
サックスの面白さのひとつに、まだまだ未知の音色や奏法が生まれて来る未開拓な楽器である点があげられる。他の楽器はそこまでの自由度を残していない。デヴィッド・サンボーンは、ジャズに限らず音楽の全域にわたって、アルト・サックスのサウンドを大きく変革したオンリーワンの存在である。それだけに後続のアルト吹きはその影響から逃れる難しささえある。そのデヴィッドも1945年生まれの70歳。同い歳にキース・ジャレットとスティーヴ・ガッドがいる。巨匠であり円熟の領域に入る。デヴィッドもボブ・ジェームスやスティーヴ・ガッドと共演した際は、サックスの音色も高音域の鳴りを控えめにして、よい意味で「枯れた」円熟を見せてくれたが、この若手〜中堅メンバーのサポートの中では、サックスの音色も変わらず、パワーと若さを確認させてくれた。「巨匠」ぶりを聴きに行ったつもりが、現在進行形での力強い活躍を魅せてくれた公演だった。
Time and the River | Mike Stern / All Over The Place |
【関連リンク】
David Sanborn Official Website
http://www.davidsanborn.com
Montreux Jazz Festival Japan 2015
http://www.montreuxjazz.jp
岡部洋一 オフィシャルウェブサイト
http://okabeyoichi.com
【JT関連リンク】
ボブ・ジェームス&デヴィッド・サンボーン featuring スティーヴ・ガッド&ジェームス・ジーナス (2013)
http://www.jazztokyo.com/live_report/report577.html
東京JAZZ 2013
http://www.jazztokyo.com/live_report/report581.html
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
:
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
:
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.