レオ・スミスのニュー・アルバム、ジャック・デイジョネットとのデユオ作品「America」(tzadik7628、May 2009)がロサンゼルスタイムやボストングローブ紙の“Top 10 CD's of 2009”に選出された。また、AllAboutJazz.comの2009年度ミュージシャン・オブ・ザ・イヤーにも選出された。レオの元気な活躍の便りが伝わってくるのは私にとっても大変嬉しい。
レオは1982年から1993年までしばしば(私の知る限り6回)日本を訪れ、トランペットで、その甘い歌声で、そして様々なパーカッションを駆使して即興という至福の音空間を与えてくれた。レオの一瞬の間に緊張と解放の両極を行き来するパフォーマンスに惹きこまれるようにシャッターを押した感触は今でも指に残っている。
1993年の4月、品川でレオと会って話をした。レオのECMのCD「KULTURE JAZZ」( ECM1507)に私の撮った写真を使いたいとのレオの要望でお互いに気に入ったショットを確認するためであった。インナースリーブでは結局5点の写真が使われたがレオの最も気に入った写真は愛娘の編んだ帽子をかぶったポートレイトであった。その場に居合わせた人のだれをも包み込むような優しい澄んだ眼をもっているレオの横顔である。ECMの作品でレオはトランペット、フリューゲルホーン、箏、ムビラ、尺八、パーカッション、そしてボーカルをたった一人で操りソロと呼ぶにはあまりにも宇宙的な壮大な空間を描いている。なぜソロ・アルバムをつくりたいと思ったのかそのとき聞いた。“ピアノソロとちがって自分の操る楽器からいっぱい景色がみえるし、それを作品に残そうと思ったんだ”そしてライブでもそうだがトランペット以外に色々な国の楽器を使うことについても聞いた。“いろいろな種類の楽器を25年くらい前から勉強していてね、箏も14年前から演奏していたよ。どれも自分の表現手段として使っているんだ、だから楽器としての個性をそのまま表面に出すのではなくて、どんな楽器でも自分の言葉として音にしているんだ”とレオは語る。レオ独特の広がりのあるサウンドはこうした発想から創られるのである。
レオは1941年12月18日ミシシッピの生まれ、68歳、パールハーバーの10日後にミシシッピで生まれたという。“ミシシッピではみんながブルースに親しんで生きていたんだ”周囲は黒人ばかりで白人が殆どいないブラック・コミュニティーで育ったからコンプレックスをもたないで、自分はどういう人間なのか、誰なのかということを小さな時から自ら感じることができたのだという。義理の父親がミュージシャンだったのでいつも色々なミュージシャンが家に来て行うセッションを聴いて育ったという、8歳位の頃の話である。レオ自身も13歳からトランペットを吹き、19歳までナイトクラブなどでプロとしてブルース等を演奏していた。レオのファーアウトな即興に強い衝撃を受ける反面大きなやすらぎを感じるのはその根底にブルースが息づいているからなのだろう。レオはジャマイカへ旅した時にラスタファリズムに共鳴しWADADAを名乗るようになった、そして現在はモスレムをあらわすイシュマエルをつけている。
品川で会ったときレオの隣には詩人で書道家の美しい日本人女性がいた。レオはやがてこの女性と結婚し、夫人が朗読する詩との共同作品「Condor、Autumn Wind」(WOB-001)を残しているが、10年ほどで二人は別れてしまった。その後の私生活については知る由もないが近年の諸作品をみても創作意欲は以前にも増して旺盛である。
知的で優しいイシュマエル・ワダダ・レオ・スミス。13歳の時トランペットを手にしてから55年、一貫して「CREATIVE MUSIC」を提唱してきたレオは聴くものの心を打つ表現者としていま、ミシシッピ・デルタの日の出のように、燦然と輝いている。
望月由美:FM番組の企画・構成・DJと並行し1988年までスイングジャーナル誌、ジャズ・ワールド誌などにレギュラー執筆。 フォトグラファー、音楽プロデューサー。自己のレーベル「Yumi's Alley」主宰。『渋谷 毅/エッセンシャル・エリントン』でSJ誌のジャズ・ディスク大賞<日本ジャズ賞>受賞。
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
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#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
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JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
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#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
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