確実に存在するオーストラリア独自の音楽シーン


プロローグ

でっかいお月様が音を立てて、揚がっていく。月というのはこんなに大きいものか。そして音を立てて落ちていく。

車で、アデレードからダーウィンに向かおうとした途中に見た月、とても地球から見ているとは思えない。

また、逆に、新月のときに驚いたのは、月が出てないから真っ暗と思いきや意外と明るい。そんな中で、どうも自分の後ろをついてくる人がいる。最初は何だろう、って、ほぼ真後ろをついてくる。

ちょっと気持ち悪いから、早足で逃げてみても、追いかけてくる。同じ速度で追いかけてくる。じっとしていると、そのまま真後ろにとどまっている。なんだこれは・・・

そう、星影なんです。同じ地球とは思えない。そんな中で生きている人たちはやはり感性が違う。途轍もなく大きく、豊かだ。

僕は、スコーピオンが好きだ。7月はこのさそり座が、天上の真上に来る。さそり座の心臓が赤い星。尾っぽのところに、魚つり座、隣りがてんびん座。

この自然の中で生きているこの国の人々はどこまでも受容的で寛容だ。この環境から、確実に存在するオーストラリ独自の音楽シーン。



ニューヨークにもヨーロッパにもないジャズの音楽シーン

確かな演奏力と感性を持ったトップ・プロとの競演のなかで感じた事。ありがとう SOLIDARITY CHOIR CHOIR Migeul Heatwole Mark Davis
RF

本気で受容的。今までコラボレーション、フュージョンという使い古された言葉がある。演奏家の私にはどうもこれらの言葉にぎこちなさがあった。

とってつけた様な、気を衒った様な、目立つことだけを目的にした様な、ちっとも新しくないのに新しいことをやっている振りをしたような....

ところが
オーストラリアのトップ・ミュージッシャンはそういうものとは違って 「リアル・フュージョン」RF
世界中に存在する音楽を本当の意味で自分の中に取り込んでいる。

音楽の形式美だけではなく、感性ごと丸呑みにして自己表現を確立している。外から来る音楽に対して極めて受容的、そして柔軟に対応する。そして即座に対応する。そこに紡がれる音は、ヨーロッパやアメリカにない音を綴る。出てくるフレーズもジャンル分類不能。しかし確かにたおやかで豊か...この音の場には得もいえぬ独特の空気が流れる。演奏家としてのこの感覚はユーラシア大陸では体験した事のないものだ。
そういう人たち同士が集まるセッションは独特の音の場が形成される。

あらゆる流派を極めた剣客同士の真剣の果し合いの中での寸止めのような....認めるからこそすべてを受け止める。

すべてを受け止めることによってこそ生まれる音の融和。これが、オーストラリア リアル・フュージョン RF ここに音楽の次代の創造の可能性を見出すことができる。

これらのことは、逆説的な言い方になるが、この大陸に後から来たヨーロッパ人が原住民(アポリジニ)の生き様に影響されていると思う。

ヨーロッパ人が初めてオーストラリアに来たとき、先住民からの抵抗はほとんどなかった。3万年の間、外的から侵入を受けることのなかったアポリジニの社会は、先頭を前提とした組織社会ではなかった。彼らは、好戦的な民族ではなく柔和な愛に満ちた人々の社会であった。
南アフリカのバンツー族やニュージーランドのマオリ族や、アメリカのインディアンのように抵抗することを知らなかった。棒や槍やブーメランは小銃の前には敵ではなかった。彼らは弓さえ持っていなかったのだ。そして、小銃を手に入れて戦いを挑むこともなかった。こうして、ヨーロッパの入植は、今日までほとんど何のトラブルもなく、先住者からの組織的な攻撃を受けることもなく、容易に行われてきた。

この容易さこそ、反対から見れば、寛容であり、受容である。まさしくこのパラダイムを、現代オーストラリアのトップ・ミュージシャンたちが、先住民(アポリジニ)の生き様を背中から学んだのだと思う。この皮肉めいたパラドキシカルな歴史が、オーストラリア独自のジャズジーン RF(リアル・フュージョン)を生み出している。  

もう少し具体的に考えてみよう。







オーストラリア的R&Bにクラッシク・アンサンブルの受容

5月28日 Steve Clisby SESSION パークハイアット・ホテル

シドニーで一番のホテル。そこのラウンジ。AJAC(Australia Japan Acadmeic Center)の山口さんの紹介

BassはVictor Rounds。オランダ生活の長かったSteveの真摯な姿勢に脱帽。曲は、<Stormy Monday><Summertime><Georgia on My Mind>などなどスタンダードなんだけど、そこここにインテリジェンスの高いメンタリティが見え隠れするのは、ヨーロッパ・クラシカル・スタイルのR&Bだからだ。ここで言うクラシカル・スタイルというのは、ヨーロッパに伝統として大バッハ以降脈々と息づいているクラッシック・アンサンブルの様式や演奏方法がブルーズ、 R&Bに適応されているということ。だから、アメリカ的にはファジィーなシンコペーションがカッコいいところだが、(つまり、ややいい加減な決めがカッキー)彼の場合には実に見事に洗練されている。クラッシク・アンサンブルの極みって感じだけに、合奏するのは大変。譜割りの見える16ビートって言うか、なんて言うか...。黒人ブルーズが江戸美学の粋(いき)、粋(すい)、通(つう)のようなカテゴリィーに昇華されている。これもブルーズがクラッシクを受容したという証拠だと思う。ただ「せーのー」でやっていない真摯で精密なR&B。

そのあと、St.LeonardsのJJBCという日本人で組織されているJAZZの愛好会に招かれる。ここで初めてWEST順一という“さむらいギタリスト”に遭遇する。(続く)

高谷秀司(たかたに・ひでし)
1956年、大坂生まれ。音楽家、ギタリスト。幅広いジャンルで活躍。人間国宝・山本邦山師らとのユニット「大吟醸」、ギター・デュオ「G2us」でコンサート、CDリリース。最新作は童謡をテーマにしたCD『ふるさと』。2010年6月から約1ヶ月間、オーストラリアから招かれ楽旅した。
www.takatani.com

JAZZ TOKYO
WEB shoppingJT jungle tomato

FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


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