text by Kimio OIKAWA
スタジオモニター・シリーズのミドルサイズ。85年に登場した4425はホーンの形態がいかにもモニター!という威容を持つ。SACD等、デジタルの広帯域化に即した時代に適応すべくモデルチェンジが繰り返されて4429が登場。JBL新製品試聴4319同様に、これも聴かなきゃと試聴室に直行した。
スタジオモニター・シリーズは、JBLの真骨頂が、まる裸で出ているスピーカーだと思う。エンジニアの心を掴むことは当然だが、魅力の一番はミュージシャンの気持ちをわしづかみにする効果があることだ。出音が生きいきとしていること。仕事上で言うなら一歩間違うと、JBLサウンドに酔わされている!に気をつけろ!だ。これに惹かれてプロ現場をはみ出し、ジャズオーディオ愛好家がスタジオモニター・シリーズのファンとなる。
「ロバータ・ガンバリーニ」を聴く。高音域、超高音域のコンプレッション・ドライバーが強烈効果を現し、ヴォーカルの解像度鮮明な再現に驚嘆。やっぱり、こういう音源で差が出ると納得だ。言葉は悪いが喉ちんこが見える、と表現しても差し支えない。と、言いつつヴォーカルの質感もしっとりとしていて、かすれた所は一切無い。マイクとの距離感、オンマイクとブースのデッドな空間の状況が、ぞっとするくらい生々しい表現で出てくる。ベースの弾ける力の勢いを聴かせる様も、中音域の充実感に誘われ弦の張力を身近に感じ、これがたまらないと、ジャズオーディオの世界を聴かせる。
ビッグバンドを聴く。「ジャズ・オーケストラ・オブ・コンセルトヘボウ」の音像の鮮明さを聴くと、このスピーカーの持ち味が勢いよく吹き出す。音像が鮮明だからビッグバンドのステージが明瞭に広がり、ライブ録音の空間の広さが読み取れ、聴いていてまさにライブ、その場にいる気分だ。録音はJT録音欄掲載の通り素晴らしく、その意図したマイキングをずばり表現している。コンプレッション・ドライバー構造の心髄を気持ちよく開放感を伴って聞かせ、金管楽器群の音色の多様な表現が快感だ。ゴージャスとは、このことだ。
「マイク・デル・フェロー」を聞く。ドラムスの表現力は驚異だ。スネアーの表面の皮の厚さが分かるような表現力を持ち、さらにキックは直径が一回り大きくなった様な唸りの余韻が聞こえる。低音域の重心の重く裾野の広がった安定感は凄みだ。リズムに衝撃波が有るような快感を覚える。
ピアノのソロを聴く。「スティーヴ・ドブロゴス」の優秀録音のテクニックと演奏の魂が存在するクール・ビューティの音空間が広がる。最高の音色でエンジニアのヤン・エリック・コングスハウクの仕掛けを味わい、大きく息をのむ。音数の少ない一音一音に、コンクリート打ちっ放しの空間の跳ね返りを想像させ、鋭敏なピアノの音像エナジーを感じる。これもコンプレッション・ドライバーの効果だろう。
さらに、ピアノの低音部再現の凄みだ。低音部の和音に濁りっけなしの透明な響きには、マイキングに熟慮の仕掛けを見るようだ。低音域の再現にピアノの大きさが見えてくる。JBLがコングスハウクに敬意を評した試聴であった。
試聴システム:
モニター | MODEL 4319/MODEL 4429 同一 |
SACDプレイヤー | Mark Levinson No 512 |
プリアンプ | Mark Levinson No 326S |
パワーアンプ | Mark Levinson No532H |
試聴ディスク:
『ロバータ・ガンバリーニ/ソー・イン・ラブ』
55Records FNCJ 5529
録音:アル・シュミット@キャピトル・スタジオ、ロサンジェルス
2008年3月、6月
録音レヴュー:http://www.jazztokyo.com/oikawa/disk77/disk77.html
CDレヴュー:http://www.jazztokyo.com/newdisc/553/gambarini.html
『マイク・デル・フェロー/メイド・イン・ブラジル〜過ぎ去りし夏の日』
ONOFF MZCO1202
録音: Rodrigo 'Grilo' Aires@Estudio Acousico, Belo Horizonet,Brazil
録音レヴュー:Aires estudio Acousico, Belo Horizonet,Brazil
CDレヴュー:http://www.jazztokyo.com/oikawa/disk95/disk95.html
『スティーブ・ドブロゴス/ゴールデン・スランバー ~plays レノン/マッカートニー』
BOMBA BOM23001
録音:ヤン・エリック・コングスハウク
@レインボウ・スタジオ、オスロ 2010年5月5日
録音レヴュー:http://www.jazztokyo.com/column/oikawa/102/column_102.html
CDレヴュー:http://www.jazztokyo.com/column/oikawa/102/column_102.html
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及川公生:1936年、福岡県生まれ。FM東海(現・FM東京)を経てフリーの録音エンジニアに。ジャスをクラシックのDirect-to-2track録音を中心に、キース・ジャレットや菊地雅章、富樫雅彦、日野皓正、山下和仁などを手がける。2003年度日本音響家協会賞を受賞。現在、音響芸術専門学校講師。著書にCD-ROMブック「及川公生のサウンド・レシピ」(ユニコム)。
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
:
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
:
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
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