Vol.48 | レイ・チャールズ チェンジング・セイム_ブルース 1970 東京text by Seiichi SUGITA

チェンジング・セイム_ジャズ。
 シカゴはサウス・サイド(黒人ゲットー)の<アフロ・アーツ・シアター>のオフィスには、リロイ・ジョーンズの写真が飾ってある。プロデューサー、ブラザー・ベニーは、ぼくの命の恩人。
 「ハイ、ブラザー! リロイ・ジョーンズは、ぼくが最も尊敬するジャズ・クリティックだよ」
 「えっ、日本でも読まれてるの?そいつは驚きだね」
 「ほとんどの評論家は単なる商業解説屋というか、レコード会社に飼いならされた宣伝屋どもばかりだ。とくに日本なんてひどいもの。だけれども、リロイだけは別格さ」
 「そう、リロイは、生き方そのものがブルースなんだよ。で、ブラザー・セイイチは、何を読んだの?」
 「『ブルースの魂』とか『根拠地=ホーム』とかだね」
 「へえ、そいつは驚きだ。僕もその2冊は愛読書だよ」
 「ぼくが学んだのは、日本人であっても、ブルース・インパルス=衝動を共有しうるってこと。そして、ジャズもブルースも“チェンジング・セイム”(変わっていく同じもの)だってこと」
 「そう、その通り」
 「ブラザー・ベニーの<アフロ・アーツ・シアター>は、まぎれのない“チェンジング・セイム”の情報発信基地ってこと」
 「そう、ブラザーの大好きなAACMと同じく、“チェンジング・セイム”ってわけさ」

 ブラザー・ベニーは、ブラザー同志としかやらない独特の握手を求めてくる。

 「いま、リロイはどこにいるの?」
 「リロイは、確かニューアーク(ニューヨーク近郊)のテンプルにいるはず」
 「テンプルってイスラムの?」
 「そう、その通り。“赤・黒・緑”の指導者=同志ってわけ」

 “赤・黒・緑”とは、アフロ・アメリカンの解放旗。マイルス・デイヴィスの『オン・ザ・コーナー』のジャケットをぜひ見直して欲しい。CTIは、“KUDU”という“赤・黒・緑”のレーベルを創っている。つまり、70年代になると、アフロ・アメリカンだけの新レーベルが商業的に成り立つようになったのです。『オン・ザ・コーナー』はハーレムなんだろうけど、ここサウス・サイドも“赤・黒・緑”一色である。『オン・ザ・コーナー』は、いま聴いても超カッコいい。まぎれもないブラック・ピープル共和国の胎動=脈動そのものである。

 

 ところで、ぼくは最近レイ・チャールズにどっぷりとはまっている。というのは、このところめっきり視力が落ち、目の見えるうちに、もういちど写真を撮り続けてみようかと思っている。愛用のニコンFやライカM3、そしてハッセルブラドをいじり始めたってわけ。それと、最近になってブラインド・ビートを共有できるようになったことが大きな理由。
 伝記映画『レイ』をひきあいに出すまでもなく、レイはもともとジャズ・ピアニストである。ここでちょっとおさらい。生まれたのは1932年9月23日、ジョージア州アルバニー。失明したのは6歳。プロ・デビューは15歳。そのナッキン・コール・スタイルで人気者に。ルーツはいうまでもなく、ゴスペル?ブルース。クインシー・ジョーンズ(tp)は、マブ友。ピアノの巨人アート・テイタム(盲人)にも認められる。初アルバムは、『レイ・チャールズ・ストーリー』(アトランティック)。
 黒人差別が激しかった時代、レイはジョージア州で唄うことを一切拒絶した。しかし、その後、「ジョージア・オン・マイ・マインド」は、ジョージア州の州歌となる。2004年6月10日、ビバリーヒルズの自宅で死去。死因は肝臓疾患による合併症で、享年73歳。
 ぼくが初めてレイの生と出会ったのは70年、新宿厚生年金ホール。ジャズというと、妙にアーティスティックな面が強調され、ことさら敷居を高くしている。レイなんてジャズじゃねえなんていう輩も日本には多い。ジャズもまた、エンターテインメントであり、ショウ・ビジネスのひとつなんですよ。そう、ブルースもジャズも“チェンジング・セイム”なのだ。
 レイは、最後の曲を唄い終わっても、何曲も何曲もブルージーにエキサイティングに唄うことをやめようとはしない。ついにマネジャーがステージに出て無理矢理レイをソデに引っ張っていってしまう。と、レイは今度はマネジャーをひきずって、ステージに出て来る。
 このゴキゲンな演出は、J.B. (ジェームズ・ブラウン)の場合にもしばしば見られる。J.B.は、ステージで突然バッタリと気絶しちまう。心配して共演者やスタッフ、主治医&看護婦(?)までもが出て来る。やがて、J.B.はむっくり起き上がり、再び唄い踊りまくる。ロックでお決まりのギターをぶっ壊すシーン。アレって、壊していいギターとすりかえてるって知ってますか?コレって、山下洋輔が燃やしていいピアノに火を付けて、消防服着て弾くのと同じ見世物ですよね。(こんなのくそ真面目に評価するのオバカな取り巻き共だけだよね。本気なら愛用のベーゼン(?)でやってみろってんだ!)。
 おっと、筆がすべっちまった。
 閑話休題。

ぼくが大好きなアルバムをあえてしぼってみよう。
 まずは、『レイ・チャールズ・アンド・ベティ・カーター』(Paramount)。こいつは何度聴いても泣かせる。男と女のデュオ=愛とは、かくありたい。
 もう1枚あげるとすれば、『レイ・シングス、ベイシー・スイングス』(Concord)。
コイツはまさに“Ray+Basie=GENIUS2”でる。ダウン・トゥ・アースなブルースにどっぷりとひたれること請け合いですゾ。ここには「打ちのめされて」他カントリー&ウエスタン・ナンバーがいくつも収められている。大ヒット曲 「愛さずにはいられない」も実はカントリーなのです。あらげていうと、カントリーのルーツとは、白人のブルースだってわけ。

 

レイは、ビートルズの「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」やメラニーの「傷ついた小鳥」もすべからく自分のもの、つまり、“変わっていく同じもの”にしてしまう。そして、ラストを「わが心のジョージア」でキメる。
 レイの愛聴盤にはもう1枚ある。レイの死後発売された『レイ・チャールズ/ジニアス・ラバーズ・カンパニー』(Concord) である。知ってるとは思うけれども、共演者が凄い。ノラ・ジョーンズ、ジェームス・テイラー、ダイアナ・クラール、エルトン・ジョン、ナタリー・コール、ボニー・レイット、ウィリー・ネルソン、マイケル・マクドナルド、B.B.キング、グラディス・ナイト、ジョニー・マティス、ヴァン・モリソン__。
 ワァーオ!だからこのアルバムを買ったわけじゃないので、念のため。お目あては日本盤ボーナス・トラック「エリー・マイ・ラブ?いとしのエリー」なのです。な、何とレイが唄ってる!!本当に超ゴキゲンです。
 チェンジング・セイム__ブルース。

杉田誠一
杉田誠一:
1945年4月、新潟県新発田市生まれ。
1965年5月、月刊『ジャズ』、
1999年11月、『Out there』をそれぞれ創刊。
2006年12月、横浜市白楽に
cafe bar Bitches Brew for hipsters onlyを開く。
http://bbyokohama.exblog.jp/
著書に『ジャズ幻視行』『ジャズ&ジャズ』
『ぼくのジャズ感情旅行』。
http://www.k5.dion.ne.jp/~sugita/cafe&bar.html
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09 Sun レゲエ・ナイト/DJ
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20 Thu 鈴木 勳(b) 川上さとみ(p)
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22 Sat 関根敏行(p) 仲石祐介(b) 黒崎 隆(ds)
28 Fri 平山順子(as) 佐藤えりか(b)
29 Sat ジャム・セッション:
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追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
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