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私の音楽を書いたのは私ではない。たぶんそれは私が匂いをかいだ花や、私がした身振り見たことのある動物だったり、星だったり。誰も知らないのです。音楽は愛です、この世界の全てのものが愛であるように。クロード・ヴィヴィエ(1948-83)

「C.ヴィヴィエは孤児として育ち、神学校を退学処分となった後モントリオール音楽院で作曲を学び、その後ヨーロッパでシュトックハウゼンのもとで当時の前衛的な作曲法を体験しながらもそれを否定し、全く固有のスタイルを築いた。そのスタイルは既存の何にも基づいておらず、作曲者の人間そのものに手がかりをおいている。直接、あるいは間接的に作品は彼の知ることのない両親、1977年からの中欧・アジア・バリ島への長い旅、同性愛や35年間の短い人生等への情熱的な想いの結晶であるといえる。彼の見つけたスタイルとは旋律への偏愛であると言える。」

おととしのコンサートでピーピコ賞となった、濃厚にロマンチックで狂気をのぞかせる、しかもあのECMが時代と添い寝していた70年代に、現代音楽の枠の外側に存在した作曲家ヴィヴィエ(■http://www.jazztokyo.com/niseko/oyaji02/v02.html)。来たる3月19日(金)に、アンサンブル・ノマドが、そのヴィヴィエ特集をするというニュースが入った(■http://www.ensemble-nomad.com/concert/index.html)。音楽は愛です、という、彼が言う愛というのは、その色彩から察するに、むしろ、えも言われぬ熱情とか、ひじの関節が痛むような本能の乾き、とか、湿った体温のにおい、とか、そういうもわっとした揺らぐ空気そのもの、だけ、を、指しているように思える。

track 001

<track 011>
モーツァルト:ピアノ・ソナタ第15番ハ長調K545
第1楽章 / 牛牛 Niu Niu from『Niu Niu Plays Mozart』(EMI) 2008

薬局の待合室にあるテレビでニュウニュウ(1997〜)が演奏するのをみてた。平日の午前中、主婦向けの番組でトルコ行進曲のライブ映像。かー、12さい、ガキの見世物かよ、さすが中国雑技団、まー、あざといくらいうまいわな、・・・でも、なに?このピアノ・タッチは?・・・。仕事が手につかない。あわててCDを聴いてみた。世の中にはおそろしい音楽があるものだ、と、つくづく思う。トラック1だけでいい。どんな場面で耳にしても、視界の焦点を失うような、こんなことを書いてしまって恥ずかしいけれども意識の中に青空のようなイメージが浮かんで、くる。聴く足掛かり、が、ない。このモーツァルトは、いわゆる名演というモーツァルト演奏のこれまでのカテゴリーに入らないもので、語弊はあるけれども下手だと言っても通るくらいに、なにもなくて純粋な、このトシになって言うも言ったり、生きるトキメキに横溢している、そんな形容に。この演奏に出会うために音楽聴いてきたかもしれない、なんて思ってしまうのだ。早朝の山手通りが雨上がり、あたらしい神さまが世界を透明にしてくれたワイパーの水滴。

キラキラ星もトルコ行進曲もいらない。この最初のトラックは、何か特別な、録音時11さいという子ども、の、初々しい純真さ、が、モーツァルトの楽想に内在する精神、と、稀有な一致、モーツァルトとはこれなのか、と、感じさせるもの。ニュウニュウは成長する、そして、このようには弾くことはない未来が訪れる。



<track 012>
Henry Threadgill & Zooid from 『This Brings Us To, Vol. I』 (Pi Recordings) 2009

ヘンリー・スレッギル(1944〜)。CDジャーナル2月号、ジャズ評論家・村井康司さんの年間ベスト5をチェックしてて、うち輸入盤が2まい、村井師匠のあいくちのようなセレクトだぜ、クリス・ポッターの『Ultrahung』とこのスレッギルの新譜が。・・・いけね、買いそびれてた。スレッギルの新譜はなんと8年振りである。wikiでは05年にLPだけのリリースで『Pop Start the Tape, Stop』という作品があったらしい(■http://pub.ne.jp/Sightsong/?entry_id=1301264)。01年のスレッギル、ダブル・リリースはメイク・ア・ムーブ名義の『口承 Everybodys Mouth's a Book』と、ズォイド名義の『ふたつの唇の音色 Up Popped the Two Lips』で、ディスク・ユニオンが国内盤化していた。ちなみにスレッギルの奥さんセンティ・トイ(■http://www.jazztokyo.com/newdisc/komado/senti_toy.html)、娘のPyeng Threadgill(■http://www.jazztokyo.com/newdisc/komado/of_the_air.html)が、その間、新譜を発表している。それぞれよろし。



さて、この新譜。1曲目から3曲目、スレッギルはフルートだ。そんで戯れる偏愛の要にあるのはチューバだったりするもので。あとギター、ベースギター、ドラムの5にん編成。フルートとチューバによるクインテット、おれなら絶対に手を出さない苦手なサウンドだ、しかし、これがじつに変幻自在なサウンドに効果的で、どの響きの瞬間にも魔法がかかってしまう。しかもグループは隙のないタイトな演奏に仕上がっており、それはスレッギルの秀逸なコンポジション、未踏のトーンを編み上げるようなコンポジション、の、必然ではある。若林さん!マルサリスの『ヒー・アンド・シー』に、・・・この盤なら対抗できますぜ(<track 009>参照)。


8年まえにディスク・ユニオンで国内盤化したのは現在doubtmusicをやっている沼田さんだったのかな。たしかJazz Tokyo稲岡編集長が仲介に入って、国内盤化するライセンス契約金がべらぼうに高いスレッギル側(さすがAACMだけある)に対して「申し訳ないが日本におけるスレッギルの知名度はその契約金に見合わない」と話をまとめたはずだ。考えてみると、Jazz Tokyo主幹悠雅彦さんは70年代にWhy Notレーベルを立ち上げて若きスレッギル率いるエアーに着目してLPを制作している。彼らの来日公演の招聘を企画したがAACM側が高いギャラを譲らなかったので断念した、と、20ねんくらい前にレスター・ボウイが四谷いーぐるで講演したときに聞いた記憶がある。




スレッギルにはエアーの『80° Below '82』で、出会った。82年の吉祥寺のビルの2階にあったジャズ喫茶、店名不詳数年で閉店、で、オーネット・コールマンの『Of Human Feelings』とジャケが並んでいた。二枚ともジャズのレーベルではないしアンティルズ(レーベル)からの新譜だった。当時は激しくカッコ良かった。、音楽もジャケ(左写真)も。こないだ久しぶりに聴いたら、音楽も音質も痩せこけた犬のようにすかすかで、哀しかったな。おまえもっとスゴかっただろー!とLPジャケをにらんでやったよ。


スレッギルのことで言うと、さ、80年代後半から90年代半ばまで、スレッギルの輸入CDがキチンと入荷していたのはディスクイン立川店と吉祥寺店だった。ユニオンには入荷数が少なかったのかすぐ売れたのか。立川の馬券売り場に毎週土日に通い、当たったときだけCDをしこたま購入する、そういう生活をしていた。そののち、ディスクイン立川の仕入れを仕切っていたのは村上寛さんだと業界のひとからおそわる。村上さんは、現在国立(くにたち)市でNO TRUNKS(■http://notrunks.jp/profile.htm)というライブのできるお店をやっている。・・・おや!NO TRUNKSでなんと3がつ15にちにカート・ローゼンウィンケル・トリオが!まさにシークレット・ギグだ!むかしメセニーが六本木でシークレット・ギグをしたことがあるが、カートのとんでもないグルーブが聴けるのかもしれない・・・。いずれにしても、さすが村上さんの店だ。

YouTubeのこの演奏、このグルーブ、地味ですね一般的にはたぶん、おいらには能の舞台を観ているようなスレッギルのフルートの入り、といい、あぶら汗ながす速度を感じるのです>■http://www.youtube.com/watch?v=fENHtFAceqU&feature=related


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<track 013>
Janeko Jaugenya (Live at Kericho) / Anyango from 『Nyatiti Diva』 (JOWI music) 2009

ラジオでアニャンゴ(■http://www.kenyarep-jp.com/newsletter/070514_letter.html)を知る。ケニヤの奥地でニャティテイという8弦の楽器に出会う。ガラという鉄鈴をつけて足ぶみをしながら歌う。おとこにしか弾かせられないと何度も弟子入りを再三断られるが、押しかけて一緒に生活をし始めたんだそうな。「おまえの名前はアニャンゴ(午前中に生まれた女の子)だ」と名付けられる。・・・ラジオで話すアニャンゴは前向きハイテンションな女の子で、とても渋みと地味目と恍惚を旨とするコンテンポラリージャズなおいらとは合いそうもない、が、音楽を聴いて圧倒された。声の通る日本人の女の子が民族音楽を習って、というレベルのものではないような気がする。この突き抜けかた、だよなー。なにか、20世紀の経験尺度で測定しようとするおいらなんかおいてけぼりにして、新しい生活の価値観までを放つような表現に思える。■http://www.youtube.com/watch?v=It-wYRd6XvE&feature=related



むかし、イカ天で知ったKUSU KUSUというバンドに夢中になったことを思い出す。アフリカ・リズムとJポップの幸福な複合。CDで「世界が一番幸せな日」〜「すべては自然の中」と続くエンディングがたまらんかったのう。彼らはイカ天に出演する前に、インクスティック芝浦でJAGATARAのオープニングアクトをつとめていた。ぼくが今アニャンゴに聴くものと、クスクスに聴いていたものはとても近い。


・・・ネットで調べてみたら、「2009年7月、『ニューズウィーク』誌の「世界が尊敬する日本人100人」に選ばれる。」、「著書『夢をつかむ法則 アニャンゴのケニア伝統音楽修業記』(角川学芸出版)アマゾン1位」、などなど、あらまあ、おいらがアニャンゴの活躍を知らなかっただけなのね。



世界が尊敬する・・・といえば。真央ちゃんには泣けたよ。荒川静香が金メダルとって、日本は次に浅田真央が控えていて。独走状態にあった真央ちゃんは今にも4回転を跳ぶ勢いにあったのに、跳ぶ足と着地する足に対するルール変更がなされ、おれには浅田真央ターゲットだと思うが、それはさ、左利きのおはしでオリンピックレベルに達した人間に右手のおはしじゃなきゃダメというに等しいハンディ、とーぜんスランプなり足踏みはあって、それでも真央ちゃんは乗り越えてがんばった、たしかにミスはあった、だけどあの健気ななみだには・・・。どんな逆境にもまっすぐに取り組む真央ちゃんに、おれは見習わなきゃならん。スキーのジャンプにも柔道にもいろいろあるけど、さ。どんなんでも、勝ってやろうぜ。


Niseko-Rossy Pi-Pikoe:1961年、北海道の炭鉱の町に生まれる。東京学芸大学数学科卒。元ECMファンクラブ会長。音楽誌『Out There』の編集に携わる。音楽サイトmusicircusを堀内宏公と主宰。音楽日記Niseko-Rossy Pi-Pikoe Review。

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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


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