コーラスのオーストラリアン・グルーブ AG
前回の オーストラリアン「リアル・フュージョン」 RF は、お分かりいただけたでしょうか。
ちょうどWEST順一が登場したところでした。
さむらいギタリスト
WEST順一の話をする前に。
オーストラリアの音楽シーンには実に「グルーヴ(GROOVE)」のある歌を展開する人たちがいる。
コーラスも見事な重層性をなしている。
例えば、ボーカリスト ミゲール (Miguel Heatwole ….『The People Have Songs』というアルバムがオーストラリアで出ている…. お薦め) の自宅のホームパーティに招かれたときの驚き。
ミゲールは私のお世話になったアンジェリーナ(Angeline Tranchida)の友人のお母さんの友人・・・ややこしい。
友人のお母さんも歌手でギタリスト(マーガレット Margaret Bradford…『Ten Years On』というアルバムが2007年にオーストラリアでリリースされている)。この人とは今回6月にシドニーの郊外 Gymeaのトレードセンターで一緒に演奏している(これはまたの機会に記す)。
さて、そのパーティですが、彼の自宅は、Rozelle Bay (シドニーの西の入り江にある町)、シドニーからトラムに乗って30分ぐらい。
とにかく、アンジェリーナに言われて 行きなさい面白いからって….
駅まで迎えに来てくれたミゲール 190cmはあるだろうという長身の体躯から喜びが綻び出ていた。
くっしゃっくしゃの笑顔と真っ白な歯の輝きで僕を迎えてくれた。なんか無性に嬉しい。
家に案内されると10人位の人がいて、和やかな雰囲気の中、女性がケルト風の歌を詠っていた。どうなるのかと思いきや…. ユニゾンでだんだん歌が重なっていくとなんか 声の倍音みたいなものが荘厳に唸りを揚げている。
しばらくすると、ユニゾンが何人か残ったまま、三度のハモリ 五度のハモリ そして 上 も下も 目の合図だけで合唱の役割分担が出来上がっている。 すごいというよりはもう恐ろしい。
全員が歌詞を覚えていて、一体化している 私の入る隙間なんかあるはずがない。とんでもないグルーヴ… 次に曲が変わる。カントリィーもあればゴスペルもある…. 女性も男性もいるのでクラシカルな混声四部のようなハーモニーも見事。アバウトに誰からともなしに曲が始まるのだけれど、歌っている間にどんどん精密に仕上がっていく。(アイ・コンタクトだけでコーラスの役割が決まっていく。) これが、すべてアカペラだから信じられない。
まるで手練手管を知り尽くした錬金術師の集まりのようだ。
私は、氷穴の中に放り込まれた梟のように、固まっている。でも気持ちがいい。 歌の渦の真っ只中にいることは至上の喜びであった。このとてつもないグルーヴは何だ… 。
このコーラスのオーストラリアン・グルーヴ AG を読み解くには、
私の考える「グルーヴ」の三要素について書く必要がある。
三要素とは
1.リズム...これは、まさしく、楽譜を見て拍子がとれる。拍数がわかる。 シンコペーションを理解し、身体から打ち出すことができる。ある意味、科学的な音の長さの細分化。実際には、楽譜が読める読めないとは、関係ない次元にある感覚。
2.リズム感...これは、リズムの軸。まずは、継続的にある一定のリズムで演奏できること。リズムが途切れたり、止まったりしないで、持続可能であること。例えばCDを聞いていて拍子をとり、途中でボリュームをゼロにして、そのあとも音なしで今聞いていた音通りに拍子をとり続け、ボリュームをアップしたときにリズムが合致する。いわばリズムの根っこ。これがしっかりしている人は、ソロ演奏の時のフレームワークがぶれない。例えば、ジョー・パスのように... 。
3. 乗り...いわゆる「ノリがいいねーー」というものとほぼ同じと考えていい。私は、身体から湧き出てくる魂の鼓動だと思っている。内面の必然が人間の本能を呼び覚まして身体を鳴動させる。雅楽や邦楽に見られる「和」のゆらぎもこれに属すると思う。山本邦山先生と演奏していると、通常の拍子と関係のない世界に入っていく感じがある。すごくゆらいでいるのだけれど本当に心地よい心持ち。
この三つの要素が三位一体に重なって初めてグルーヴが生まれる。ただ単にハーモニーが美しいのでない。それぞれの歌い手のグルーヴがすごいのだ。一人ひとりの歌い手のグルーヴが共鳴しあって、得もいわれぬグルーヴが生まれる、 これこそオーストラリアン・グルーヴ AGの真髄。
アポリジニの発する本物のデジュリドゥの響きには、大地の鳴動がある。この鳴動こそが、グルーヴだと思う。
現代のオーストラリアのミュージッシャンはこの鳴動に背中を後押しされている。
私はこのオーストラリアならではの歌の世界 コーラスの世界 グルーヴの世界に魅了されている。
次回は、このグルーヴの中で私とのセッションが始まる。
高谷秀司(たかたに・ひでし)
1956年、大坂生まれ。音楽家、ギタリスト。幅広いジャンルで活躍。人間国宝・山本邦山師らとのユニット「大吟醸」、ギター・デュオ「G2us」でコンサート、CDリリース。最新作は童謡をテーマにしたCD『ふるさと』。2010年6月から約1ヶ月間、オーストラリアから招かれ楽旅した。
www.takatani.com
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
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#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
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#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
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