♪ 子供の頃、エレクトーンでクラシックを演奏していた
ノルウェーの首都オスロにあるNorwegian Academy of Music (ノルウェー国立音楽大学)。その大学のImprovised music/jazz科で、私は2011年の8月からピアノを学んでいる。
なぜ、Jazzを学ぶのにアメリカではなくノルウェー?と不思議に思う人も少なくないだろう。留学前にこのような質問を何度もされた。私も数年前までは一体ノルウェーってどこにある国でどんな国なのかさえよく知らなかった。ノルウェー=サーモン?くらい。
私は3歳の頃から両親がたまたま入れてくれた音楽教室でエレクトーンを学んでいた。主にクラシックを演奏していた。その時々でコンクールなどの課題があって、その練習をしないといけないのだけど、暇を見つけては無数にあるエレクトーンの音色からピアノの音を選んで、即興で遊び弾きをしていた。ずっとピアノの音と即興演奏に憧れていた。とにかく即興演奏が好きで、それができる音楽って何だろうと考えた時、ジャズなのかな?と思って、ジャズの演奏を聴きに行ったりCDを聴いたりしてジャズに興味をもつようになった。でも、その頃はいわゆるアメリカのミュージシャンが演奏していたような伝統的なジャズがどうしても馴染めなかった(今はすごく好き)。また出会うミュージシャンはそういったジャズが特別好きな人が多くて、その頃の私は、どうしても彼らとうまく打ち解けられないこともあった。そんな時、友人の薦めでヨーロッパ、特にノルウェーやスウェーデン、フィンランドなどのスカンディナビアのミュージシャン達の存在を知った。彼らの音楽はすごく美しくて自然で、自分にはとてもフィットしているように感じた。ずっと探していた音楽に巡り逢えたような気持ちだった。同時にそのようなミュージシャン達が沢山いる国があるということを知ってすごく嬉しかった。2010年にノルウェーの隣りの国スウェーデンに1ヶ月間滞在し、ジャズ科のある学校を見学したり、学生と一緒に演奏してもらったりコンサートを見たりした。彼らはすごく自然にそれぞれがやりたい音楽をしていて、その様な学生たちのいる所で一緒に学びたいと強く思うようになった。そしてスカンディナビアのいくつかある学校の中から、ノルウェーの国立音大を選びオーディションを受けた。
♪ ノルウェー国立音大即興音楽/ジャズ科に入学する
Improvised music/jazz科は4年制で、1学年ずつそれぞれ4人から8人程の学生が在学している。毎年入試で各楽器ごとに1人か2人ずつしかとらないので(時にはゼロ)すごく少人数でみんなお互いの事をよく知り合える環境。学生は色々な人がいる。ジャズだけでなく、ポップスやロックが好きな人、即興音楽が好きな人、ノイズ音楽が好きな人、など様々だ。それぞれが自分のやりたいことを追求している。先生はノルウェーや国外でも活躍しているミュージシャンで、音楽はもちろん、人としてもとても素晴らしい人たちだ。ちっとも偉そうじゃなくて、学生と同じ目線に立って様々なことをシェアしようという気持ちがとても感じられる。先生と学生が一緒にコンサートをすることもあるし、先生が学生のコンサートを見に行ったりすることもよくある。
授業は1日1つか2つ。あとは、個人レッスンを週に1、2度。ゆったりとした感じだが、その他の時間は自分がしたいことに充てることができる。必須科目として1年生は、セオリーの授業や音楽の歴史の授業、音楽家としての心の持ち方について考える授業、身体の問題を減らすために運動したり心を整えたりする授業、即興演奏の授業、アンサンブルの授業、コンピューターを使って音楽を作る授業などを受ける。また、週に一度ジャズフォーラムという授業があって、そこで学生が演奏して学生と先生とで話し合う場が作られている。ときどきゲスト・ミュージシャンを呼んで学生にレクチャーしたりすることもある。
一番興味深い授業は即興演奏の授業。ノルウェーに来るまでは即興演奏って本当に自由にするだけのものかと思っていたけれど、いろんなアイデアを教えてくれる。例えば、音質の違いだけを使った即興演奏。アイデアや絵をスケッチし、それに基づいて行う即興演奏。「木になった気持ちで演奏してみて」とか「楽器を初めて触る人になった気持ちで演奏してみて」とか、色んなシチュエーションに自分を置いて演奏する即興演奏などがあった。授業の一環として参加した現代音楽祭では、楽器を使わない即興演奏も行った。ラジオだけを使った即興演奏や、周りにあるものだけを叩いて演奏する即興演奏。また、部屋の中にいる様子を即興的に身体表現して観客に見せる作品も演った。ノルウェーの人たちはそういうシチュエーションにすごく慣れていて、みんなびっくりするくらい自然で、しかもユニークでとても興味深い。
♪ ミシャ・アルペリンに個人レッスンを受ける
個人レッスンはジャズ・ピアノとクラシック・ピアノを受けている。私のジャズ・ピアノのレッスンをしてくれているMisha Alperinはウクライナ出身のコンポーザー=ピアニスト。素晴らしいレーベル、ECM Recordsから作品を出していて、すごく音色が美しくてまるで物語をみているかの様な演奏をするピアニスト。レッスンに行ってまずはじめに、「私にジャズのことは聞かないで」と言われた。ジャズ科の先生なのに面白い。音楽のことは話しができるけど、ジャズの事はあまりわからないと言う。いつも、『音楽はドラマだよ』って教えてくれる。一般的なことではなく、自分自身にとって大切なものを表現することの大切さをいつも話してくれる。本当に素晴らしい先生に出逢えたなぁと思う。
♪ 違いを認めた上で自分自身を大切にする人たち
また数ヶ月に一回プロジェクト・ウィークという週間があって、普段の授業とは違うプロジェクトを行う。ノルウェーの民族音楽を学ぶプロジェクト、ジャズ科と民族音楽科の学生でバンドを作ってコンサートをするプロジェクト、インドからミュージシャンが来てインド音楽を演奏するプロジェクト、ノルウェーのミュージシャンが来て彼の曲をアンサンブルするプロジェクト、他国の音楽大学に行ってそこの学生と交流するプロジェクトなどがある。ジャズの枠にはまらず、幅広く体験できるのが素晴らしい。
学校には二つのホールがあり、ほぼ毎日、様々なコンサートが行われている。学生や先生によるコンサートや学校外の演奏家によるコンサートなどがある。それらは無料や格安で、学生に限らず誰でも気軽に音楽を楽しむことができる。学校外の人たちに学生の演奏を聴いてもらう良いきっかけにもなっている。
自分が求めれば何でもでき、それぞれが個性を大事にし、互いを尊重し合える環境。人の真似をするのではなく違いを認めた上で自分自身を大切にする人たち。例えばジャズの話をするときに、「アメリカの人はこういう風に弾くけど、私達ノルウェー人はこうやって弾くんだよね」って話しをしていたり。そのような縛られなくて自由にのびのびと自分を表現できる環境だから、ノルウェーには素晴らしい個性的なミュージシャンが沢山いて独自の音楽文化が築かれているのかなと思う。
田中鮎美:
3歳から高校卒業までエレクトーンを学ぶ。エレクトーンコンクール優勝、海外でのコンサートなどに出演し世界各国の人々と音楽を通じて交流できる喜びを体感する。
その後、ピアノに転向。ジャズや即興音楽を学ぶうちに北欧の音楽に強く興味を持つようになり、2011年8月よりノルウェーのオスロにあるノルウェー国立音楽大学(Norwegian Academy of Music)のjazz improvisation科にて学ぶ。Misha Alperinに師事し、彼の深い音楽性に大きな影響を受ける。
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
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#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
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#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
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