text by Kimio OIKAWA
真空管に魅せられて、発売から時は経っているが試聴に出向いた。真空管!今時、何故?なのだが、動機がある。JTコラム「いい音空間見つけた #6」アディロンダック・カフェ(http://www.jazztokyo.com/column/oikawa/otokuukan/index.html)取材時の真空管アンプの音に触発されて、真空管アンプの製作をやってしまった。その道の専門家のアドバイスで仕上がったアンプは、まさにジャズ・オーディオ。真空管にすればジャズになる、なんて簡単なモノじゃない事を痛感した部品選び等の経緯があって今回の試聴になる。真空管アンプと言えばLUXMANがある。それも「38」という伝統がある。出来ることなら、2009年10月発売の、音の出口に真空管アンプを採用したCDプレーヤーと組み合わせて聞きたいと思ったのだ。
真空管はアナログ的な音。そのアナログ的という曖昧な表現からジャズを聴いて何が出てくるかが、テーマだ。
持参した試聴CDから『Mizuho & タイガー大越/スターズ・アンド・ア・ムーン』を聞く。ヴォーカルの澄んだ伸びと声量感、声音らしい暖かみ、が飛び出し、いかにも真空管らしいと思うのだが、かたやヴォーカルのリバーブに、録音技術上の隠し味のテクニックが明解に出てくる。仕掛けを解き明かす明瞭な再現性は、半導体アンプの優れた音質を想像させ、アナログ的という曖昧さを突き飛ばす。しかし、聞き続けると、このディスクに収められた低音部の重量感に、こんな音を聴いていなかった!と戸惑いも感じるほど、この重しの利いた音こそ球だと、ひざを叩く。質量を感じると表現されようか、隙間無く濃密な音の塊が押し寄せる。
ベースの力強さのエナジーを感じ、弦と胴体の響きに加味された、これぞ真空管といえる魅力の味付けは、プッシュされた音圧感だ。以降、管球って、これだなと感動となる。さらにドラムスなどのパーカッションの音像のエッジだ。半導体アンプにない魅惑の音だ。
トランペットの音に、真空管ならではの音を聴く。何が本物かはさておいて、耳で感じているトランペットの音に近い。人間が感じている音の周囲にある、梱包された音の容量を感じ、トランペットの倍音に心地いい、彩りの音が乗る。ここで、CDプレーヤーに付属の半導体回路通過の音に切り替え、聞き比べる。
うん!鮮明な倍音と音像のエッジがクリアーな感触となり、真空管ファンとして、これも有り!か、アンプのSQ-38uが持つ、したたかさに驚き、底辺に勢いを感じさせる音の重厚さは維持されたままだ。
『平林牧子/ハイド・アンド・シーク』を聞く。ドラム、パーカッションに真空管らしさが出ていてその特長を知る。躍動感に伴う音の厚み、音像エッジの輪郭に濃厚なメリハリがあり体験的に、これが球の音と感動をする。ベースの重圧感もしかり、密度の濃い音のグラデーションを感じ、半導体の音に加味される味わいがある。真空管アンプの特質として出力にトランスを用いる回路は、この様な濃密なサウンドを持っている。
ジャズ録音に管球式マイクを重宝とするが、実に求めたいサウンドの傾向が一致する事の検証だ。
真空管アンプで、どの様に再現されるか興味を持ったのが『スティーブ・ドブロゴス/ゴールデン・スランパー』だ。クリアーでクールな印象のヤン・エリック・コングスハウクのサウンドに、暖房の効いた空間、しかも木造壁面の音響空間の音が加味されて、何か、音に重さがあるような印象だ。まさにピアノの極くごく側で聞いている音に近い。耳の感触に合うと、真空管を語る時に言われるが、まさに、それだ。
試聴システム:
試聴スピーカー | B&W 800 |
試聴ディスク:
『MIZUHO & タイガー大越/スターズ・アンド・ア・ムーン』
house of jazz HOJ-100326 ¥2,800 (税込)
録音レヴュー:
http://www.jazztokyo.com/column/oikawa/106/column_106.html
Live Report:
http://www.jazztokyo.com/live_report/report258.html?
CD Review:
http://www.jazztokyo.com/five/five674.html
『平林牧子/ハイド・アンド・シーク』
Enja/Muzak MZCE-1219 \2,500(税込)
録音レヴュー:
http://www.jazztokyo.com/column/oikawa/105/column_105.html
『スティーブ・ドブロゴス/ゴールデン・スランバー ~plays レノン/マッカートニー』
ボンバ BOM-23001 ¥2,415(税込)
録音:ヤン・エリック・コングスハウク
@レインボウ・スタジオ、オスロ 2010年5月5日
録音レヴュー:http://www.jazztokyo.com/column/oikawa/102/column_102.html
CDレヴュー:http://www.jazztokyo.com/column/oikawa/102/column_102.html
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及川公生:1936年、福岡県生まれ。FM東海(現・FM東京)を経てフリーの録音エンジニアに。ジャスをクラシックのDirect-to-2track録音を中心に、キース・ジャレットや菊地雅章、富樫雅彦、日野皓正、山下和仁などを手がける。2003年度日本音響家協会賞を受賞。現在、音響芸術専門学校講師。著書にCD-ROMブック「及川公生のサウンド・レシピ」(ユニコム)。
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
:
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
:
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
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