ジョン・ゾーンと一緒に来日していた頃のネッド・ローゼンバーグにカーラが好きだと私がいうと“イェー!カーラはファニー・レデイね!ベリー・チャーミング!”という言葉が返ってきた。日本のミュージシャンにもカーラのファンは多く、特に渋谷オーケストラではよく耳にする。
カーラ・ブレイはなんとも形容しがたいほどかわいいチャーミングな女性である。彼女のことを魔女に例えて解説されることがままあるが、それは多分に彼女のトリッキーなステージ衣裳や振る舞いに対してのものであることが多い。しかしファインダーでみるカーラは天真爛漫で純粋、シャイのかたまりである。
カーラの生をはじめて見たのは1984年の5月、五反田郵便貯金会館大ホールのステージであった。おおきな金髪をなびかせ、レース編みのような真紅のセーターに真紅の皮のパンツ、真紅のブーツという出で立ち。それまでレコードで馴染んでいたはずなのに、最初の一音で何か新しいものが見つかるような、未知のものに対する期待がふくらんで胸がわくわくしたのを26年の年を経た今でもはっきりと憶えている。
ステージ上のカーラは、自分だけの遊園地でたわむれている少女のように無邪気なふるまい、素っ気なさ、ちょっと毒のある遊び心、そして可憐さをただよわせる。彼女の指先が宙を舞うごとにカラフルなサウンドが客席に降り注ぐ。カーラが創り出すテクスチャーはエリントンが何度聴いてもエリントンであるのと同じようにいつでもあたり一面にカーラの香りがたちこめる。指揮をしているときのカーラの幸せそうな顔を見ていると素朴な子供の頃に戻ったような気分になって音のパノラマへと誘ってくれるのである。
カーラは1936年カリフォルニア州オークランドの生まれだから今年で74歳になる。最近のカーラの姿は『ザ・ロスト・コーズ・ファインド・パオロ・フレス(2007)』(WATT/ECM)のリーフレットで見ることができるが、写真で見る限り容姿は昔と少しも変わっていない。カーラのバイオグラフィーによると彼女の音楽のキャリアは一風変わっている。3歳のときから教会のオルガン奏者だった父から音楽を学んだが、8歳でやめている。それ以降はすべて独学である。ハイスクール時代にジャズにあこがれ単身ニューヨークに移り住み“バー
ドランド”のシガレットガールとして働きながらジャズを吸収する。この頃にポール・ブレイ(p)と知り合い、二人でロサンジェルスに移り住む。ここでオーネット・コールマン等と出会いウエスト・コーストで作曲やプレイをするようになったようである。60年代の初めに再びニューヨークに戻り“ジャズ・ギャラリー”のクロークをしながらカーラはさらに多くのミュージシャンと交流。そして、そのころ設立されたジャズ・コンポーザース・ギルドに加入し、そこでの会議の席でマイク・マントラーと出会う。この出会いによりカーラとマイク・マントラーはJCOAを立ち上げることになる。50年代から60年代というジャズのもっとも輝いていた時代にカーラはジャズ・クラブでの仕事をしながら多くのトップ・ミュージシャンの演奏を体験し、ポール・ブレイ〜マイク・マントラーという二人のミュージシャンとの生活を通して自分の音楽を創りあげていったのである。マイク・マントラーは1991年にアメリカを離れヨーロッパで活動しており、カーラはスティーブ・スワローと現在も行を共にしている。
カーラの作品というと先ず頭に浮かぶのがゲイリー・バートンの「葬送」(RCA)、そしてチャーリー・ヘイデンの『リベレーション・ミュージック・オーケストラ』の諸作であるが、カーラの最初の大編成バンド「カーラ・ブレイ・バンド」は1977年から1985年まで続き、1981年の『艶奏会』(WATT/ECM)から 2006年の『アピアリング・ナイトリー』(WATT/ECM)までカーラのここという作品にはスティーブ・スワロー(elb)やゲイリー・バレンテ(tb)など、この頃の中枢のメンバーが常に顔を連ねている。丁度、エリントン・オーケストラにジョニー・ホッジスやハリー・カーネイが永年勤続したように30年以上にわたって連綿とカーラのコミュニティが築きあげられてきているのである。そうした最中での1984年5月に日本に初来日したのである。ICP(1982年)とは違った底抜けに明るい遊び心にすっかり共感しハッピーになったのが懐かしい。因みにその2ヶ月前(1984年3月)には西ドイツ、ミュンヘンでコンサートを行っており、このときのステージを本誌の編集長であるKenny稲岡さんがビデオ化している。スティーブ・スワローやマイク・マントラーにかこまれて無邪気に音と戯れているカーラがリアルに写し出されており時々ひっぱりだしては楽しんでいる。
望月由美:FM番組の企画・構成・DJと並行し1988年までスイングジャーナル誌、ジャズ・ワールド誌などにレギュラー執筆。 フォトグラファー、音楽プロデューサー。自己のレーベル「Yumi's Alley」主宰。『渋谷 毅/エッセンシャル・エリントン』でSJ誌のジャズ・ディスク大賞<日本ジャズ賞>受賞。
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
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#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
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#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
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