by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,齊藤聡 Akira Saito & 吉田野乃子 Nonoko Yoshida
ティム・バーン Tim Berne
NYでは、ティム・バーン Tim Berneのバンド・スネークオイルSnakeoilが、先鋭的なアンサンブルのトレンドであり続けている。この4年間で3作目となる『You’ve Been Watching Me』(ECM, 2015)は、その領域を激しく拡張した。NYでもっとも輝かしい才能たちをグループに加えたためだろう。マット・ミッチェル Matt Mitchell(ピアノ、エレクトロニクス)とチェス・スミス Ches Smith(パーカッション)が、イレギュラーな構造とリズムとを持ち込んでおり、それにより、音楽が前に進み、新たな形を取っているのである。ミッチェルとスミスは、うまく狙いすまして不安定さを創り出し、全体を推進している。バーン(アルトサックス)とオスカー・ノリエガ Oscar Noriega(クラリネット)がこれに肉付けし、ときに柔軟に、ときに構造内の移動や構造自体の変革・拡張に踏み込む。さらに、バーンはライアン・フェレイラ Ryan Ferreira(ギター)を加えている。エレキギターでは爆ぜるような暗い火が、アコースティックギターでは繊細さが付加されるというわけだ。バーン独特の方法論による曲は、バンド全員で演奏するときには力強く、またトリオやデュオになると微妙な感覚になってくる。この第3作は、グループ名を冠したデビュー作(ECM、2012年)、『Shadow Man』(ECM、2013年)に続いた作品だが、もっとも革新的でありながら愉しめるものとなった。
Tim Berne Official Site (Screwgun Records)
http://www.screwgunrecords.com/
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Snakeoil, photo by Wes Orshoski | Snakeoil, photo by Wes Orshoski | 『You’ve Been Watching Me』![]() |
ネイト・ウーリー Nate Wooley
トランぺッターのネイト・ウーリー Nate Wooleyによるシリーズ4作品目『Seven Storey Mountain III / IV』(Pleasure of the Text、2014年)も注目盤だ。NYにおいて最もエキサイティングで、もしかすると過小評価されているプロジェクトである。バンドには、C・スペンサー・イー C. Spencer Yeh、クリス・コルサーノ Chris Corsano、ポール・リットン Paul Lytton、マット・モラン Matt Moran、ライアン・ソーヤー Ryan Sawyer、クリス・ディングマン Chris Dingman、デイヴィッド・ グラブス David Grubbs、ベン・ヴァイダ Ben Vidaといったイノヴェイターたちが参加している。この最新作(2回のライヴ演奏)は、別世界の音楽であり、抜群に素晴らしく、その衝撃がずっと持続する。ウーリーは当代きってのトランぺッターだが、同時に、完成された作曲家であり、美的な幻想家であることもわかる。2枚のCDには、それぞれ40分ほどの1曲の演奏が収録されている。1枚目は刺激的で、大きな吸収と排出のようなものだ。静寂から、ゆっくりじっくり、次第に賑々しいピークへと到達し、そしてまた元の静寂に戻ってゆく。2枚目はより微妙・深遠。揺れ動き、傷つきやすく、近づきやすく、人間的なヴォイスが中心に座ることによって、深いところにある感情が喚起される。ウーリーのヴィジョンには注目すべきだ。かれはNYにおいてもっとも深遠で革新的な演奏者のひとりであり続けている。
Nate Wooley Official Site
http://natewooley.com/
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Nate Wooley, photo by Peter Gannushkin | 『Seven Storey Mountain III / IV』![]() |
ベン・ガースティン Ben Gerstein、ショーン・アリ Sean Ali、ベン・ベネット Ben Bennett
アンダーグラウンドのライヴ・シーンに目を向けてみよう。ベン・ガースティン Ben Gerstein(トロンボーン)、ショーン・アリ Sean Ali(ベース)、ベン・ベネット Ben Bennett(パーカッション)が、8月8日(アリの誕生日)に、クイーンズ地区のとある家で、素晴らしい即興演奏を繰り広げた。3人とも鋭い耳と音楽へのハングリーさを持っている。ガースティンはNYのレジェンドのような存在であり、トロンボーンを微妙に吹き、スライドを切り離したり取り付けたり、微調整したり、果てはバスーンのリードを使ったりした。アリは、ぎざぎざしたエッジや脈動する衝動のような感覚をもって、マッチョなストリート・サウンドを追及している。そして、ベネットは夜の星。尽きないエネルギー、想像力、決意によって演奏した。
Ben Gerstein Official Site
http://www.bengerstein.com/
Sean Ali Official Site
http://seanali.com/
Ben Bennett Official Site
http://milmin.nixsyspaus.org/
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Ben Gerstein, Sean Ali and Ben Bennett, photo by Michael Foster | Ben Gerstein, Sean Ali and Ben Bennett, movie by Michael Foster
https://m.youtube.com/watch?v=AdTrcpXXyEI |
以上がニューヨーク・シーンの最新動向である。
シスコ・ブラッドリー 2015年8月31日
(Jazz Right Now http://jazzrightnow.com/)
シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley
ブルックリンのプラット・インスティテュートで教鞭(文化史)をとる傍ら、2013年にウェブサイト「Jazz Right Now」を立ち上げた。同サイトには、現在までに30以上のアーティストのバイオグラフィー、ディスコグラフィー、200以上のバンドのプロフィール、500以上のライヴのデータベースを備える。ブルックリン・シーンの興隆についての書籍を執筆中。http://jazzrightnow.com/
齊藤 聡(さいとうあきら)
環境・エネルギー問題と海外事業のコンサルタント。著書に『新しい排出権』など。
ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong
みなさま、こんにちは。今年のニューヨークは、結局そんなに気温もあがらず、終始過ごしやすい夏だったように感じます。肌寒い夜も増えてきました。
現在、私はサックスソロアルバムの制作中で、11月上旬には完成を予定しております。どうぞよろしくお願いいたします。
ソロアルバムのレコーディング中@ブルックリンのDIYベニュー、The Silent Barn内のスタジオにて。
撮影、サウンドエンジニアのJoe Plourdeくん
<白石民夫さん追っかけウィーク>
8月には、前衛音楽界の大ベテラン、サックス奏者の白石民夫さんの演奏を、恐縮ながらようやく、初めて生で拝見いたしました。アルトサックスで、とにかく高音を鳴らしまくる白石さんの一貫したスタイルのお噂はかねがね伺っておりましたし、有名な、深夜のNYの地下鉄駅でのゲリラライヴの映像は拝見させていただいておりましたが、実際のライヴでの迫力は本当に凄まじいものでした。
■8月10日(月)
Tamio Shiraishi Solo Sax @ 『Abasement Vol. 4』Max Fish
ロウアーイーストサイドのバー“Max Fish”の地下スペースで、月に一度企画されているノイズ-エレクトロアコースティック-実験即興音楽イベント『Abasement』の第4回目にお邪魔しました。トップバッターに白石さんがソロで登場。超音波のような高音を、パワー全開、ひたすら鳴らし続け、体全体で息を吸い、たまに勢い余ってフラッとよろめかれるお姿には圧倒されました。なんという緊張感でしょう。サックスだけではなく、エレクトロニクスも操作されて、時たま、スピーカーからの謎の轟音と共に演奏をされていました。
演奏終了後、白石さんに「エレクトロニクスのノイズはなんの音ですか?」と伺ったところ「地下鉄の音だよ。」と予想通りのお答えをいただきました。NYの地下鉄の音をフィールドレコーディングして使用しているアーティストは数多くいると思いますが、白石さんほど、NYの地下鉄のノイズをライヴで使うのにふさわしいプレイヤーはいらっしゃらないと思いました。
■ 8月12日(水)
“大凶風呂敷” (Cammisa Buerhaus + Tamio Shiraishi) @ Trans Pecos
2日後にはブルックリンのライヴハウスで行われた、白石さんと、サウンドアーティストのカミッサさんの、来日公演も行われたデュオユニット“大凶風呂敷”を拝見しに。すっかり白石さんの追っかけです。この日、カミッサさんは自作の木製のオルガン(!?)を演奏。中が空洞になった、四角く長い木の筒のようなものが並び、(どのような仕掛けになっているのか全くわかりませんでした、申し訳ないです…。)“優しげなドローン”のといったような暖かいノイズが響きました。白石さんは背広にネクタイというお姿で登場、Trans Pecosは、ステージに向かって会場の反対側にバーがあるのですが、ライヴの前半、白石さんはそのバーカウンターの上に立って演奏をされました。もちろん超音波のような爆音高音ノイズです。お客さんはカミッサさんと白石さんに前後から挟まれてライヴを見る形に。中盤にはカウンターから飛び降り、ステージまでゆっくり歩きながら演奏される白石さん。なんとも不思議でかっこ良いデュオでした。
以前に、私のライヴを見に来てくださった白石さんが、私の演奏と音楽のバックグラウンド(全く大したことはないのですが…)に対して、暖かいお言葉をかけてくださったのですが、白石さんの芸術に対する姿勢と、決してぶれることのないスタイルの前には、「私はなにを、チャラチャラといろんな音を吹いているんだろう…」と、なんだか恥ずかしい気持ちになってしまいます。以前に、ジョン・ゾーン師匠が、「アヴァンギャルドとはスタイル(ジャンル)ではなく、生き方だ。」と言っていたことがありましたが、ひとつのスタイルを極め、長年それを突き詰めて活動するという道を選んだ、白石さんを始めとする、前衛芸術家の方々の偉大さを感じました。
TAMIO SHIRAISHI & CAMMISA BUERHAUS LIVE AT ISSUE PROJECT ROOM
https://www.youtube.com/watch?v=smxJi-JnlqA
<The Stoneレジデンシーにおける前衛音楽シーンのロックな人たち>
(※前衛ライヴハウスThe Stone(ストーンと表記)は、現在、同じアーティストが一週間毎晩連続で演奏する、レジデンシーというシステムでライヴをお届けしています。詳しくは第一回の『NY日誌』をご参照くださいませ。 "http://www.jazztokyo.com/column/jazzrightnow/003.html#03" )
レジデンシーに任命されるのは、一人のアーティストとは限らず、クラシックのアンサンブルや、バンドが一週間を受け持つこともあるのです。7〜8月にかけてのストーン・レジデンシーは前衛ロックシーンの面々が多くみられました。今回は簡単にリストアップして各バンドを紹介したいと思います。
■ 例えば、7月、第三週目(14〜19日)は西海岸で活動をする、元Mr. BungleのギタリストとしてもおなじみのTrey Spruance氏率いる“Secret Chiefs 3”が演奏しました。…が、しかし!私は完全に全て見逃してしまいました。大好きなバンドなのになんたる不覚。ご存知のない方はぜひチェックしてみてください!
Trey氏のレーベルのページが一番、バンドのオフィシャルHPに近いようです。
http://www.webofmimicry.com/
■ 7月21〜26日 “Cleric”
Matt Hollenberg (guitars) Dan Kennedy (bass) Larry Kwartowitz (drums) Nick Shellenberger (keyboards, voice)
フィラデルフィアを拠点に活動をしているこの4人組のハードコアメタルロックバンドは、最近、ジョン・ゾーンの曲を様々なバンドが演奏するMasada Book IIIのプロジェクトに参加し、NYダウンタウンミュージックシーンでも頻繁に演奏してくれるようになりました。レジデンシー期間中は、通常のバンド演奏、ゾーン氏の曲のみを演奏する日、ゲストを迎えての即興演奏の日などもありましたが、難解な曲をパワフルにこなしていくメンバーのエネルギーを感じる、勢いのある一週間でした。
彼らについての情報には、Facebookのページが一番アクティブなようです。
https://www.facebook.com/iamcleric
サウンドチェック中のCleric
撮影、吉田野乃子
Cleric - IMMA - John Zorn Masada Book 3 - Town Hall NYC - 3.19.14
https://www.youtube.com/watch?t=48&v=d96Gga14VLE
■ 8月18〜23日Mick Barr
前衛ロック即興シーンでは最速と言われるギタリスト、Mickもレジデンシーを行いました。私が見に行ったのは、インプロユニット“Overishins”(Mick Barr (guitar) Johnny Deblase (bass) Chuck Bettis (throat, electronics) Mike Pride (drums))と、ミックの所属する大人気のメタルバンド“Krallice”(Mick Barr (guitar, vocals) Colin Marston (guitar) Nicholas McMaster (bass, vocals) Lev Weinstein (drums))でした。
Mickのインプロビゼーションは、超高速奏法(所謂早弾きですね!)による畳み掛けるようなボキャブラリーが魅力で、つい前のめりになって聞いてしまいます。“Krallice”のセットは言うまでもなくNYのメタルファンによって超満員になり、熱いライヴが繰り広げられました。(でも、みんな真面目に会場の椅子に座って見てくれるので、ストーンでのロックライヴはなんとなくレアな風景になります。)
Mick Barr - Made in NY 2015
https://www.youtube.com/watch?v=X4yZ7YZ8-Sg
■ 8月25〜30日Toby Driver
NY前衛ロックシーンの重鎮的存在の若手ミュージシャン、Tobyのレジデンシーには、本当に多くのお客さんが訪れました。“Kayo Dot”という彼の現在のリーダーバンドが一番有名ですが、Tobyは他にも、即興や弾き語り、クラシック作曲もこなす、多彩なアーティストで、毎晩、毎セット、彼の違った一面が見える、バラエティに富んだ素敵な一週間でした。
Kayo Dot オフィシャルHP
http://www.kayodot.net/
ストーンで、実に様々なジャンルのライヴが行われているということからも感じられる通り、ジャズ、ロック、クラシック、エレクトロニクス…元々の“出身”のジャンルがなにであっても、前衛的、創造的なものを目指すミュージシャンはみんな、どんどん繋がって行くようでとても興味深いです。
実のところ、私もストーンのレジデンシーアーティストに任命されておりまして、11月10〜15日に6夜連続でライヴを行います。お近くにお住まいの皆様、ご旅行でいらっしゃる皆様、どうぞよろしくお願いいたします。スケジュールはストーンのウェブカレンダーでご確認くださいませ。
http://www.thestonenyc.com/calendar.php
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
:
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
:
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
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