Live Evil #010
Ky Japan Tour 2014「生きるという営み」
2014.11.30@東京・千駄木「記憶の蔵」
text & photo: 稲岡邦弥 Kenny Inaoka

スライド・ショー「ウイグル民族の記録」(2009):谷内俊文
ドキュメンタリー映画『黒い肺・黄金の腹』(1976):エリック・ピタール
演奏:Ky
仲野麻紀(alto-sax/clarinet/percussion)
ヤン・ピタール(oud/guitar)

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今回のKy(キィ)のジャパン・ツアーは1ヶ月前後続いたはずなのに、スケジュールの都合がつかず、僕が潜り込めたのは最終近くの千駄木の「記憶の蔵」。「蔵」はあくまで抽象的な意味に捉えていたのだが、着いてみると文字通り住宅地の中の民家の蔵だった。僕は青梅の廃業した質屋の蔵をレコード倉庫として使わせていただいているのだが、民家の蔵がミニ・シアターとして映画館やライヴハウスに早変わりするとは想像もしなかった。キャパは詰めに詰めて30人くらいだろうか。僕は出演者が出入りする真ん中の通路に座布団を敷いて立膝を両手で抱え込んで座った。しびれを切らさないように時折り膝を倒したり開いてみたり..。
オープニングは谷内俊文のスライド・ショー。2009年撮影の新疆ウイグル自治区でのウイグル族の記録。自らのアイデンティティを守るために漢民族との文化的同化を拒み中国とさまざまな軋轢を抱える彼らの表情は暗く、むしろ無表情に近い。銀塩と思われるフィルムが醸し出す手触りは温もりに満ち、Kyのはまった演奏に呼応し今にも彼らが動き出しそうな錯覚に襲われるのだが。終演後、彼らのDNAを埋め込んだインクで印刷したという写真集『Lineage』を観た。ドキュメンタリー映画『黒い肺・黄金の腹』は、70年代フランス北部の炭鉱夫の一日を追った短編。炭塵を吸い込んだ炭鉱夫の黒い肺と石炭で儲けた経営者の黄金の腹。ウード奏者ヤン・ピタールの父親の作品という。Kyの演奏はここでも映像と付かず離れず、観客のイマジネーションの振れを増幅する。この日、時間の関係でエリックの長編『危機的時代におけるセックストーイの使い方』は上映されず、仲野のヴォーカルとアルト、ピタールのギターでメインテーマが披露されたが、シャンソン風のとても印象的なメロディで、映画を離れて充分自立する楽曲だった(会場で買い求めたサントラ盤はセンスとウィットに満ちとても楽しめる内容だった;http://www.jazztokyo.com/gallery/gallery30.html)。Kyの演奏はあえてカテゴライズするならワールドミュージック的といえようが、「生きるという営み」というシリアスなテーマにヒューマンな温もりを与え、「それでも生きる」という悦びを引き寄せることに成功していたと思う。その象徴がアンコールで演奏されたブルターニュ地方のフォークダンスのロンドではなかったか。

Live Evil #011
Mike Nock Trio
2014.12.6 @東京・銀座「ノー・バード」
text & photo: 稲岡邦弥 Kenny Inaoka

マイク・ノック・トリオ
マイク・ノック(piano)
杉本智和(bass)
大村 亘(drums)
ハクエイ・キム(MC)

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マイク・ノックは、帰国中のパートナーのミャンマー伝統音楽研究家高橋ゆりさん(公演については、LiveEvil #009参照:http://www.jazztokyo.com/column/liveevil/003.html#liveevil009)に合流するためシドニーから来日、1回限りのライヴ公演を行った。マイク・ノックは、ECMに1981年に録音したトリオ演奏による名盤の誉れ高い『Ondas』(ECM1220)に執着するファンと、70年代前半のジャズ・フュージョン・バンド「フォース・ウェイ」を愛するファンに2分されるようだ(この日もマイクのLPを抱えてサインを待つファンが列を成した)。しかし、マイクは1985年にシドニーに移住後は、ひたすらオージー・ジャズ(オーストラリアのジャズ)の育成と発展に注力しており、自ら育てた若手ミュージシャンと毎年のように素晴らしいアルバムを発表している。また、ここ数年は、彼らを引率して東京JAZZで今のオージー・ジャズを披露している。そろそろ日本のファンもマイクの若い頃の音楽と同時に現在のオージー・ジャズにも耳を傾けてはどうだろう。
ノー・バードには初めて足を踏み入れたが、銀座7丁目の外堀通り(旧電通通り)に面したレストラン・クラブ。急な告知のマチネーにも拘らずほぼ満席。MCにピアニストのハクエイ・キムが登場したのには驚いたが、ハクエイはシドニー留学中はマイクの生徒だったという。ドラムスの大村亘はオーストラリア生まれで、やはりマイクの生徒、ベースの杉本智和はハクエイ・トリオのベーシストですでに実力者として折り紙付き。ガーシュウインの<イット・エイント・ネセサリー・ソー>でスタートした1部は、やや硬さが見られたが、むしろそれが快い緊張感を生み、快調に流れ出した2部よりも楽しめたほど。1部の3曲目で突然タブラが聴こえたが、シンセではなく大村はインドで学んだ本格的なタブラ奏者でもあると知らされた。マイクはピアノのタッチが強靭で音楽性も若々しくまったく年齢を感じさせない。オープナーを除いてすべてオリジナルで通すなど、週末のマチネーとは思えない本格的なトリオ・ジャズを披露、その妥協を許さないミュージシャンシップには頭が下がる思いがした。同時に、ベテランのマイクに立派に伍した杉本と大村の申し分のない演奏も賞賛に値する。
なお、ハクエイと大村は、ベテラン・ベーシスト鈴木良雄率いる「ジェネレーション・ギャップ」のレギュラーで、近々リリースされる新作が楽しみだ。

Live Evil #012
「織茂サブ/地無し尺八ソロライヴ」
2014.12.07@鎌倉「onariya」
text & photo: 稲岡邦弥 Kenny Inaoka

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2年ほど前、織茂サブのアルバム『鎌倉十二所』を耳にする機会があり、その独特の音色と音楽に興味を持ち、直接本人に質問をぶつけたことがある。織茂の音色はいままで聴いてきたどの尺八ともまず音色が違っていた。古くは海童道祖(わたつみ・どうそ)、横山勝也、山本邦山から近年では田辺頌山(たなべ・しょうざん)、ごく最近では“野性尺八”を名乗る大由鬼山まで。当時織茂はまだ30代前半の青年で、すでに一家を成した大師範クラスとは違って当然なのだが、僕の疑問は、彼が手製の竹を吹いているという答えで氷解した。
「onariya」はJR鎌倉駅を出て御成り通りを左へ10メートルも行ったところにある小さなカフェ。店の奥が裁ち落としの竹の葉やもみじ、南天などで里山の風情を醸し出していたが、これは庭師でもある織茂のアイディアだという。なるほど、テーブルの上に置かれた数本の尺八はどれも切り出した尺八に穴を開けただけのような地無し尺八。そのうちの1本は黒く変色している。海岸で拾った流木ならぬ“流竹”? 一部ひびが入っており限られた音域で短い曲が息を潜めて演奏された。解説によると、地無し尺八とは節を抜いただけで漆なども塗らず、いわば素のままの竹をいう。音程は竹任せではなく、奏者が竹の素性を見抜いて微妙に調整する。自然農法に興味を持ち庭師を生業とする織茂が地無し尺八を選んだのは当然と言えるかも知れない。織茂の演奏はどれも静かで鎌倉の古刹の竹林を渡る風の如し。大地と自然と共存する織茂ならではの境地である。自作曲と思いのままに吹くインプロヴィゼーションを織り交ぜてのプログラム。まさに禅の鎌倉を象徴する音色で、いつかは自分でも手にしてみたいと思わせる枯れた優しさではあった。

稲岡邦弥 Kenny Inaoka
兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。音楽プロデューサー。著書に『改訂増補版 ECMの真実』編著に『ECM catalog』(以上、河出書房新社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。Jazz Tokyo編集顧問。
https://www.facebook.com/kenny.inaoka?fref=ts

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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


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