Vol.06 | 神田神保町 アディロンダック・カフェtext by Kimio OIKAWA

The Adirondack Cafe
千代田区神田神保町1-2-9 4F
TEL 03-5577-6811
http://r.gnavi.co.jp/e450100/

私の主治医 前田純医師からメールが届いた。知人の滝沢 理さんが、神保町にジャズカフェをオープンされ、JBL LANCER 99が鳴っていますとの知らせ。

神保町はかつてのオーディオ最盛期に、「レコパル」誌を刊行していた小学館でなじみの土地である事も手伝って早速出かけた。神保町交差点付近を懐かしく眺めながら路地を入ったところのビルの4階。ドアを開くと、もうそこはジャズサウンドの渦。シックな茶色に統一されたカフェの内部の壁に飾られた、ニューヨークのフラットアイロンビルを背景とした写真が印象的だ。JT稲岡編集長とキース・ジャレットの録音時に滞在した時の記憶が甦る。

心地よいジャズサウンドが音空間を満たしている。
かかっているCDは『Carsten Dahl Trio/Blue Train』。続いてLPで『Bobby Timmons/Chicken and Dumplin’s』、TIME盤の『Bennie Green』と切れ目なく続く。ふと、思ったことは、これはCDだ、これはLPだと、あからさまな音の変化がないこと。やはりデジタルはジャズにはしっくり来ない、とは言えない包容力がある。もう一つ、私が強烈にショックを覚えたのはヨーロッパ録音もニューヨーク録音と同じように聞こえること。ピアノの骨太サウンド、ベースの腰の強い粘りの音、ドラムスの反発力を力強く伝える音、何処を取ってもアメリカ録音の世界だ。

長い間ニューヨークでレコード販売を手がけ、帰国後、九段下で名盤レコード店を開いた、その耳学がサウンドを構築していると推察。いやはや、手強いジャズ親父の店に来てしまったなと思ったが、JBLサウンドが心地よく、ゆったりした気分が支配する。

接客の手の空いた合間をねらって、何故JBL LANCERにしたの?と、まずは切り出す。

「これしかないと狙っていてね、買ったのは7年前。中古店で状態の良いのを見つけたのよ」と。音空間に聞き入っていると、「カウンターの中に入っていいからここで聞いてよ!ここが一番いい音がしているよ!」。オーナー気分でカウンターの中に。オーナー気分はいいものだが、確かに音も良い。店内に設置された左右のスピーカーの焦点はこのカウンターの中だが、店内の何処にいても、濃密な音の渦は洪水のごとく自分を取り巻く。天井からの吊り下げが、抜けのいい音の根源と判断。

LANCERね! 私がFM放送局の技術の世界に飛び込んだ時期、つまり60年代だが、JBLやALTECは夢のまた夢の世界だった。欲しかったねえ。格子模様のグリルを見ると、あの頃の重厚な感触のスピーカーが、今、皆無に近い不思議を感じ、高分解能至上主義のサウンドが主流となった今のオーディオコンポーネントを憂う。

ここで音の洪水を聞いていると、故富樫雅彦との会話を思い出す。「シンバルとかってさあ!何でもいいからグッシャって感じの、図太い音で録ってくれない!」。今いる空間に、ジャズミュージシャンの思いがあることに、滝沢さんのレコード再生術の技の確かさに感服した。オーディオシステムのうんちくを聞くのは愚。

ドリス・デイがかかった。うっひゃ!いい音している。「ボーカルが難しいんだよね」。そう、その通りです。録音だってボーカルが一番難しいと、返事をする。何故、この様に耳に快適なボーカルが響くの?と。

アディロンダックというネーミングの由来は? 名盤レコード販売を始めたとき、店の名前を付けなくてはと奥様の名付けに始まる。ニューヨーク市民、ボストン市民の憩いの場、自然公園の名だ。「アディロンダックは、音がいいんですよ!」と奥様。一瞬、私は???状態。自然公園の音空間の佇まいを感性として受け止めた言葉に私は感動した。

CD保管のケースにはLPが紙ジャケ化した状態で収納されていて、手間暇かけた仕事を見た。それも国別分類だ。ドイツ等と書かれていると、ドイツのジャズってどの様なものが?と、つい聞きたくなる。LPジャケットの傷みのない綺麗な保存もビックリ。滝沢さんのこだわりの頂点を見た!

ライブもある。3月のプログラムを見ると中牟礼貞則さんのお名前が。昨年のコンコード・ジャズフェスでの渡辺香津美との丁々発止が記憶に甦る。35年の時が過ぎているが録音でお目にかかっている。

滝沢さんが声高らかに仰ったのは、「神保町を元気にしたいのよっ!!」。それにつられて、神保町のジャズを聴きに、こまめに出かける事としよう。

アディロンダック・カフェの名物はランチタイムのアメリカンバーガー。サウンドに負けず濃厚激美味なビッグなバーガーは、まさにニューヨークそのもの。

NYの喧騒と緊張の中で過ごした日々を思い出す。

システム・ラインナップ
□アナログプレーヤー:
モーター GARRARD 401
アーム ORTOFON RMG#212
カートリジ SPU-G
MCトランス T-30
□CDプレーヤー:
TASCAM CDR
プリアンプ CROWN IC-150
プリメインアンプ DYNACO SCA-35
パワーアンプ DYNACO#70
スピーカー JBL LANCER 99
電源ケーブル ドイツ製(otopal-hioki謹製)

photo by Kenny I.

及川公生:1936年、福岡県生まれ。FM東海(現・FM東京)を経てフリーの録音エンジニアに。ジャスをクラシックのDirect-to-2track録音を中心に、キース・ジャレットや菊地雅章、富樫雅彦、日野皓正、山下和仁などを手がける。2003年度日本音響家協会賞を受賞。現在、音響芸術専門学校講師。著書にCD-ROMブック「及川公生のサウンド・レシピ」(ユニコム)。

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