# 251
上原彩子 ピアノ・リサイタル
2010年1月23日@ サントリーホール
reported by Mariko OKAYAMA
photo by
林 喜代種
2002年チャイコフスキー国際コンクール優勝の上原は、ジャズの上原ひろみと同じヤマハ・コース出身。強靭かつパワフル、ヴィヴィッドなピアニズムも共通する。
昨今、日本のアカデミックな音楽教育とは異なった場(海外育ちも含め)から新鮮な人材が登場しているが、グローバルな音楽環境やマーケットの変化を物語ると言えよう。
今回はバッハを軸にプログラムを構成、とのことだが、ベートーヴェン、リスト、タネーエフ、西村朗と並べたそこにあったのは、音楽の物語性の強調だった気がする。
平均律の第1番をソット・ヴォーチェのピアニシモで開始したバッハは、音列の粒立ち、運動性、フーガの構築性といった面がペダリングにより曖昧となり、その分、バッハのさまざまな話し声が聴こえて来るしかけ。ベートーヴェンも然りで、ロマンの濃い彩色がモノローグ性を際立たせ、ここでもフーガは音響の重なりの中へ溶ける。作品自体、超絶技巧の開陳とピアニスティックな極彩絵巻にとどまる(と私は思う)リストの4作については、パワフル彩子の面目躍如だが、近代ピアノの覇者たるリストの高笑い(語り、ではない)が鳴り響くこととなった。
その間にあって、ピカリと光ったのがタネーエフと西村作品。バッハのあと、一転してのタネーエフではペダリングが奏効し音の綾が見事に美しい。フーガでは獰猛なまでのダイナミズムを漲らせ、ロシアものなら任せて!の上原らしい抒情と熱情を迸らせたのであった。
一方の西村の『薄明光』は、クリスタルな高音の瞬きが、まさにトワイライトゾーンそのもので、繊細な中にも鋭利な音質を仕込み、玲瓏かつファンタスティックな音世界を描出。上原のピアノ扱いの巧さ、ソリッドな感性がこの2曲に結晶した。
一方、アンコールの2曲目、カプースチン『プレリュード』でジャジーなスウィングを見せた彼女、こういう曲が一番「素」なのではないか。だったらバッハも、もう少し違ったアプローチがあったとも思えるが、いや、それこそ御し易し、と回避しての物語性だろうか。
全般に左手領域が強く、音楽の重心が左に傾きがちで、それが彼女の逞しさを支えてもいるのだが、全体のバランス・コントロールにもう少しきめ細かさが欲しいところだ。
ピアニストとしての真価、深化が問われるのはこれからだろう。
追悼特集
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#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
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