# 654
マイラ・アンドラーデ/ストーリア・ストーリア(むかし、むかし)
text by Kei WAKABAYASHI
RCA-Victor/Sony France P ヴァイン ¥2,500(税込)
輸入盤が発売されてから9ヶ月あまり。国内盤が出たのが昨年の12月。だいぶ遅まきのレビュウとなってしまったが、前作のファーストアルバムも本サイトで紹介した行きがかりもある。応援しまっせ、マイラちゃん。というわけで、取りあげさせていただく。
アフリカ西海岸、セネガル沖の小島、カポヴェルデの期待の歌姫である。前作ではジャック・エアハート プロデュースのもと、どこか鄙びたハスキーな歌声を、シンプルで骨っぽいプロダクションとともに堪能させてもらったが、本作ではカポ・ヴェルデとゆかりの深いブラジル(奴隷貿易が行われていた時代にアフリカと南米を繋ぐ中継地点だったことから、この島の音楽は、ブラジル、ポルトガル、アフリカの影響が絶妙に交じり合う)の音楽家を投入し、キューバ生まれ、アンゴラ、ベルギー育ちというさすらいのお嬢さまのハイブリッドな感性をさらに促進させるような作品に仕上がった。
前作の紹介で、比較対象としてブラジルのマリーザ・モンチを引き合いに出したのだが、本作でマリーザの右腕として知られる異才アレ・シケイラがプロデューサーとして起用されているのを見て、まずは唸った。ジャンルに規定されることなく、といって、ことさら先鋭性を押し出すわけでもなく、けれども時代を的確にとらえた都会的な音作りで知られるシケイラに、マイラの声を委ねたのは誰の判断であったにしろ炯眼といえる。
複雑にスウィングする多彩なリズム。哀愁をおびたメロディ。そこに、パンデイロやバトゥカーダ・ドラムが彩りを添え、ホーンセクションがそよ風に揺れる椰子の木のように呼応し、ジャジーなピアノが軽快にそれを煽ったかと思えば、アコーディオンの音色やストリングスがゆったりと身を寄せる。ここにあるのは、どこの音楽とも特定できない、滅法心地の良いグローバルミュージックだ。
音のひとつひとつ取り出して、その「出自」を論ずるのはあまり意味がない。カポヴェルデという明確なルーツはあるものの、ここに描き出されているのは、むしろひとりの放浪者の旅路だろう。彼女が見てきたあらゆる風景、聴いてきたあらゆるメロディ、踊ってきたあらゆるリズムが、分け隔てなく同居する。その音楽地図は複雑だ。シケイラはそこに新たなレイヤーを加え、繊細な手つきで陰影を描きこんでより複雑化するが、それでも彼女はひるまない。マイラはルーツにおびえることがない。
同じカポヴェルデ出身の歌手、サラ・タヴァーレスがルーツを強く意識しながら堅実にその音楽をアップデートしようとしているのに対して、マイラの歌は、それと知らぬまにふらりと自分の出自さえをも踏み越えてしまいそうな大胆さと危なっかしさがある。それは弱みでもあり強みだが、なんにせよ、怖いもの知らずの少女は、そうであるがゆえに愛さずにはいられなくなる。
ジャケットを見てみてほしい。アフリカを明確に意識したサラに対して、マイラは普段着のまま、あけっぴろげに世界に身をさらす。チャーミングな笑顔を振りまきながら、普段着のまま世界中をさすらうカジュアルにして優雅な旅人。そんなものとして、ぼくはマイラを歌声をイメージする。(若林 恵/Wakabayashi Kei)
関連リンク:
http://www.jazztokyo.com/newdisc/komado/navega.html
http://www.mayra-andrade.com/en/discographie.php
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#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
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