# 656
Allan Holdsworth/ Alan Pasqua/ Jimmy Haslip/ Chad Wackerman ? Blues for Tony
text by Nobu Stowe
Moon June Records MJR029
Allan Holdsworth (guitar)
Alan Pasqua (keyboards)
Jimmy Haslip (bass guitar)
Chad Wackerman (drums)
Disc1:
Blues for Tony/ The Fifth/ It Must Be Jazz/ Fred/ Guitar Intro/ Pud Wud
Disc2:
Looking Glass/ To Jaki, George and Thad/ San Michele/ Protocosmos/ Red Alert
Recorded live during the European tour, May of 2007
Edited by Jimmy Haslip
Produced by Holdswoth, Pasqua, Haslip, Wackerman
Executive production by Leonardo Pavkovic
マイルス・デイヴィスtpの元を離れたトニー・ウィリアムスdsが結成したフュージョン・ユニット “ライフタイム”と言えば、ジャック・ディジョネットdsが、ジョン・スコフィールドgとラリー・ゴールディングスorgと組んで“トリオ・ビヨンド”名義でECMより『Saudades』(2006年度作品)というトリビュート作を発表している。ジャックの作品は、ウィリアムスに加え、ジョン・マクラフリンgとラリー・ヤングorgの破天荒なプレイが革新的な、第1期ライフタイムにインスパイアーされた内容だった。
対する本作『Blues for Tony』は、第2期ライフタイム(正式名称は、The New Tony Williams Lifetime)に在籍した、アラン・ホールズワースgとアラン・パスクァkeyが、ジミー・ハスリップb(イエロー・ジャケッツ)とチャド・ワッカーマンds(フランク・ザッパ・バンド他)を率い、2007年5月に敢行したヨーロピアン・ツアーの実況版。本誌で度々紹介してきているMoon June レコードより、2009年暮れにリリースされた。
フュージョン/ジャズ・ロックに詳しくない読者のために、中心メンバー2人の経歴について少し記したい。
1970年代初頭の英国ロック・シーンに於いて“ニュークリアス”、“ソフト・マシーン”や“テンペスト”他での独創性溢れる超絶プレイで名を馳せていたホールズワースが、ウィリアムスの誘いで渡米したのは、1974年の事。パスクァとトニー・ニューマンbを迎えた『Believe It』(Columbia:1974年)と『Million Dollar Legs』(Columbia:1976年度作品)の2作品に参加(この2作は『Tony Williams Lifetime − The Collection』として1992年に“2 in 1”でSonyよりCD化されている)。同時期に単独ソロ・デビュー作『Velvet Darkness』(CTI:1976年)を、パスクァの協力を得て発表している。その後は、プログレ界のスーパー・グループ“U.K.”の結成に参加するも、第1作『U.K.』(E.G.:1978年)発表後、ビル・ブルフォードdsと共に脱退。ブルフォードのリーダー・ユニット“Bruford”結成に参加したものの、第1作『One of a Kind.』(E.G.:1979年)発表後、脱退。以降、ジャン=リュック・ポンティvln、ジャック・ブルースb、スタンリー・クラークb他のプロジェクトに参加したが、その後はソロを中心に活動してきている。
パスクァは、“ライフタイム”でプロ・デビュー以降、70~80年代を通じて、ボブ・ディランやカルロス・サンタナ等ロック畑での活動が目立つ。80年代の終わりには、“Giant”というメロディックなハードロック・バンドを結成、バラード〈I’ll See You In My Dreams〉他のヒットを飛ばす。ジャック・ディジョネットds、デイヴ・ホランドb、マイケル・ブレッカーts他が参加し1994年に発表したソロ・デビュー作『Milagoro』(Postcards)で、ジャズ界に復帰。以降、ホランド、ポール・モチアンds、ランディ・ブレッカーtp、ゲイリー・バーツasが参加した『Dedications』(Postcards:1996年)やソロ・ピアノ作『Russian Peasant』(Blue Forest:1999年)等精力的に、リーダ作を発表。特に、ピーター・アースキンdsのレーベル=Fuzzy Musicから発表されたアースキン、デイヴ・カーペンターb(最近惜しくも亡くなった)との『Live at Rocco』(2000年)、『Badland』(2002年)、『Standards』(2007年)のトリオ作は、何れも素晴らしい出来で、キース・ジャレットpやECM/ヨーロッパ系のピアノ・トリオが好きな方に、アピール度が高いと思う。
『Blues for Tony』のレビューに際し、第2期ライフタイムの作品を久しぶりに聞き直してみた。気づいたことは、ウィリアムスのプレイは「8ビートを刻んでも、かなりジャズ寄り」という事だ。即興的な“閃き”では、天才ウィリアムスに比べるべくもないが、いわゆるフュージョン的なワッカーマンのドラミングは、堅実なハスリップのベースと共に、演奏にストレートな推進力を与えている。(批判を承知で言えば、ウィリアムスのプレイは、ロック的ダイナミズムに劣る)そのリズム・セクションをバックに、パスクァのメロディックで多彩なキーボードと、ホールズワースが“ビロード”の肌触りを持つトーンで流れるように描く抽象的ラインのギター・ワークが、密度の高い音楽空間を創出している。『Believe It』収録の〈Fred〉、〈Protocosmos〉、〈Red Alert〉の再演を始め、結構優れた楽曲が並んでいるが、タイトル曲〈Blues for Tony〉と共に、マクラフリン的アルペジオが印象的な〈San Michele〉が出色の出来。近年“フュージョン”を敬遠していたが、録音も優れているし、結構楽しめた。好作品だと思う。
因みに、同メンバー/同趣旨で、カリフォルニア州オークランドの名門ジャズクラブで録画された『Live at Yoshi’s』というDVD作品も2008年に発売されている。
最後に、パスクァが、本作で使用しているのは、スウェーデンのクラヴィア社製の“Nordlead Stage 88”というデジタル・キーボード1台。ファズの利いたフェンダー・ローズ系再現度の高さ以上に、“アコースティック・ピアノ”の音色の生々しさに驚かされた。ピアニストの僕の耳にも「PAを通したグランド・ピアノ」の音に聞こえる程の“ハイファイ度”。アコースティック至上主義の方も、ジャキ・バイアードp、ジョージ・ラッセルp/arr、サド・ジョーンズtpに捧げられたソロ“ピアノ”曲〈To Jaki, George and Thad〉を騙されたと思って聞いて見て欲しい。(NOBU STOWE /須藤伸義)
*『Blues for Tony』は、アマゾン/ディスク・ユニオン等で購入可能。
**バンド/レーベルの詳細は、以下のホーム・ページで:
Moon June Records (www.moonjune.com)
Allan Holdsworth (www.therealallanholdsworth.com)
Alan Pasqua (www.alanpasqua.com)
Jimmy Haslip (www.jimmyhaslip.com)
Chad Wackerman (www.chadwackerman.com)
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#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
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#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
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シスコ・ブラッドリー
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