#  652

小林 桂/ジャスト・シング
text by Kuniya INAOKA

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twinkle note/Pony Canyon PCCY-50067 ¥3,150 HQCD

小林 桂 (vo)
小林 洋 (arr, p)
吉田桂一 (p)
安ヵ川大樹、佐藤ハチ恭彦 (b)
岩見淳三 (g )
安保 徹 (ts)
藤井 学 (s)
片岡雄三、池田雅明、鹿討 奏、山城純子 (tb)
安保 徹(ts)

  1. 何か素敵なことが起こりそう
  2. スターダスト
  3. 瞳は君ゆえに
  4. ラヴ・ダンス
  5. シング
  6. リトル・ガール
  7. アイル・ビー・シーイング・ユー
  8. マスカレード
  9. デイ・バイ・デイ
  10. ハニーサックル・ローズ
  11. スカイラーク
  12. 聖者の行進
  13. アイル・カム・バック・トゥ・ユー

プロデューサー:小林 桂
編曲:小林 洋
録音:2009年7?8月 東京

いつものように耳に馴染んだスタンダードが並ぶ。オープナーはスティーヴ・アレンの<何か素敵なことが起こりそう>。小林 桂(けい)の甘いヴォイスがトロンボーンのアンサンブルに包まれとろけそうだ。5年ぶりの新作。待ちに待ったファンには“何か素敵なことが起こりそう”と、胸を高鳴らせながら耳を傾けるに違いない。<スターダスト>のヴァース、ナット・キング・コールの名唱が耳にこびりついているが、ピアノの伴奏からトロンボーンのアンサンブルを得て自信を持って歌い切りイン・テンポに入る。決心の要る選曲だが、ハワイアンの歌手だった祖父がいち早く譜面を入手、口ずさんでいたという。<瞳は君ゆえに>のリピートされるベースのフィギュア、<シング>のウォーキング・ベースのイントロなど、斬新なアレンジがスタンダードに新しい表情をもたらす。編曲はすべて父親のピアニスト小林 洋が担当。桂は父親とディスカッションを繰り返しながら自分の思いを伝えアレンジに反映させてもらったという。それでも時には予想を覆すアレンジが施され、その刺激が歌に反映されることもある。思いが反映されたアレンジにミュージシャンが生命を吹き込み桂が反応する。ジャズの世界では当然のことだが、恵まれた環境ではある。

小林 桂が『ソー・ナイス』で東芝EMIからメジャー・デビューしたのは1999年12月。6年間で10枚のアルバムを制作してメジャーを離れる決意を固めた。
メイカーにはメイカーの経済原理があり、アーチスト行政がある。数字の読める(確実な売上予測が可能な)アーチストは営業のローテーションに組み込まれる。そのレベルを目指しているアーチストには贅沢な悩みと映るかも知れないが、その期待がアーチストによっては大きなプレッシャーとなって襲ってくる。小林 桂の場合はどうだったか。何れにしろ、桂はメジャーを離れ、5年間の充電期間を置き、レーベルtwinKle noteを設立、セルフ・プロデュースのアルバムを携えて戻ってきた。

新作『ジャスト・シング』には完全にリフレッシュした小林 桂を聴くことができる。意欲と自信が漲っているが力みはまったくない。桂自身が記した「録音後記」に彼にとってのキーワードを見つけた。曰く、“変わることが進歩だ、と勘違いすることもない”。その開き直りとも取れる思いが余裕となって好結果をもたらしている。“どんなに長く歌い継がれてきた音楽史上の曲であっても(中略)感じるのは全て「今」であって聴いた瞬間”。スタンダードに対するヴィジョンも明確である。数少ない男性ジャズ・ボーカリストとして小林 桂には名曲を彼なりに歌い継いでいってもらいたい。これがすべてのヴォーカル・ファンの思いであろう。

なお、異色とも思える<聖者の行進>は、NHKの金曜ドラマ『行列48時間』のテーマを急遽収録したもの。また、ボーナス・トラック的存在の<アイル・カム・バック・トゥ・ユー>は、桂とロンドン滞在の兄との共作詞に父親の洋が曲を付けたもので、ファミリーの契りの証し(ヴォーカリストでもある母親の村上京子は桂をサポートし現場を仕切ったようだ)。(稲岡邦弥)

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