古楽鍵盤楽器奏者で、とりわけチェンバロ奏者において｢至高の芸術」と言われている。長身で高齢にして、背筋をピンと張った姿勢のよい演奏姿は印象的である。いかにも孤高の人という感じを抱かせ、登場時から会場の雰囲気が張りつめる。
　今回の来日中に83歳の誕生日を迎えた。1928年5月30日オランダに生まれる。今の古楽ブームの祖ともいわれ、1977年の初来日より、その犯しがたい気品と威厳は、来日を重ねるたびに演奏と共に深まっている。この来日で取り上げた作曲家は比較的知られているJ.S.バッハ、ラモー、パーセルなどのほかに16・17・18世紀のあまり知られていない約20名程の作曲家の作品を演奏した。楽器もイタリアとフランスの一段チェンバロ(5／26)とジャーマンの二段（5／30） と弾き分けた。オルガン演奏(明治学院チャーチ)もあったが会場の都合で撮影出来なかった。チェンバロの表情豊かな音色で演奏を心行くまで楽しめた。曲間と休憩時に自ら調律をする風景も見られた。
　1967年、映画｢アンナ・マクダレーナ、バッハの日記｣にJ.S.バッハ役で出演しクラヴィーアを演奏。またバロックから古典に至るさまざまな楽曲を演奏録音してきたが、1971年から1990年まで20年がかりで、アーノンクールと分担して録音したバッハの｢カンタータ全集｣の指揮者として著名。1990年代はじめにバッハのチェンバロ作品を録音しバッハのチェンバロ奏者として名声を確立。バッハの｢フーガの技法｣の研究書、スウェーリンク｢鍵盤楽器作品集｣の校訂などで音楽学者としても名高い。
　私にとってカール・リヒタｰと共に印象深い演奏家である。