新垣隆 (pf) 吉田隆一 (bs)
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1曲ごとに大きな拍手が返され、トークではふたりのやりとりに笑いの渦が起きていたところをみると、当夜の大多数のオーディエンスはコンサートをエンジョイしていたのだろう。ある種の違和感を感じどこか後味の悪い思いを抱きながらサロンをあとにしたぼくこそ感度の劣化した聴衆のひとりだったに違いない。
動画サイトのドミューンやタワレコのインストア・ライヴでトークが受けたので今日はトークを交えて行きます、と吉田が宣言。おいおいここは無料のプロモーション・サイトではなくドイツの銘器ベヒシュタインのサロンに有料のお客が詰めかけてるんだぜと思ったのも束の間。漫才でいえば吉田のツッコミに対し新垣がボケるパターンを想定しているのだろうが、TVでお馴染みの新垣のあのキャラである。ボケるどころか新垣の“ビハインド・ザ・ビート”感たっぷりの返し、あるいはときには“暖簾に腕押し”的反応が受けているようだ。それにしても吉田の振るネタがすべて『ペテン師と天才』がらみ。“嘘つき”がでたり、黒澤の『影武者』がでたり、アンコールは極め付け、なんとアルバート・アイラーの<ゴースト>だ(いうまでもなく“ゴーストライター”のもじり)。
新垣は求めに応じてTVやライヴに出演して公衆の面前に身をさらすことが禊(みそぎ)であると発言、吉田の「仕事を選ばないのか?」の質問に対しては、「いただいたものが仕事です」と答える。いずれにしても、この日は漫才というより吉田の徹底的な新垣いじりに終始した。音楽的には、吉田は何度も“即興”を口にし、事実、<インプロ>も3曲披露されたが、新垣にとくにハッとする瞬間があったわけではなく、吉田との交感に聴き耳を立てる瞬間が訪れたわけでもなかった。残念ながら鮮度や新鮮な驚きという意味でCDを上回る内容を体験することはできなかったのである。新垣のピアノがいちばんはまっていると思われたのが武満徹の<明日ハ晴レカナ、曇リカナ>であった。
新垣の現代音楽での評価の高さはいろいろな場面で耳にする。新垣はクラシック、とくに現代音楽とその現場を「聖域」とし、「聖域」以外での仕事をサイドビジネスと割り切り、糊口をしのぐ糧としたり音楽家としての野心に挑戦する場としてきた。佐村河内との一件は、そのサイドビジネスの余波が「聖域」を侵食する危険を感じ、決別を打って出たのである。
『ペテン師と天才』(文藝春秋)を読み進めているなかでの“天才”のライヴ体験。“天才”はジャズに新たな活路を見いだすことができるのだろうか。
セット・リスト;
インプロ1
野生の夢
インプロ2
インプロ3
エンブレイサブル・ユー
皆勤の徒
秋刀魚
ソフィスティケイテッド・レディ
怪獣のバラード
明日ハ晴レカナ、曇リカナ
(アンコール)
ゴースト
関連リンク;
https://www.facebook.com/nigakiyoshida
http://www.jazztokyo.com/five/five1181.html
http://www.jazztokyo.com/five/five1182.html
http://www.jazztokyo.com/five/five824.html
http://www.jazztokyo.com/library/library076.html
鈴木良雄ジェネレーション・ギャップ;
鈴木良雄 (b) ハクエイ・キム(p) 大村亘(ds) 中村恵介(tp,flh) 山田拓児(as,ss)
Guest:友野龍士(和太鼓)
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Chinさんの愛称で知られるベテラン・ベーシスト鈴木良雄が新作『ジェネレーション・ギャップ』をリリース、祝バースデーを兼ねたライヴに出かけた。みなとみらい横浜21の赤れんが倉庫街にあるモーション・ブルーに出かけるときはいつも早めに着いて、30分ほど海を眺めることにしている。海を眺めていると身体全体がリフレッシュされて気分爽快になる。単純だが、広々とした海と汐風にはそういう効果がある。少なくともぼくにとっては...。
新作『ジェネレーション・ギャップ』は文字通り、古希に近づいたChinさんが、若いミュージシャンとのセッションを通じて鋭気を養い音楽的刺激を受けることを目標にしている。もちろんそれは一方的なものではなく、40年以上の日米でのキャリアを通じて蓄積したジャズのスピリットやティップスを若手に伝授する目的もある。音楽学校で理論や技術を学んできた若者が実践を通じてベテランから得るものは計り知れない価値がある。Chinさんがラッパの中村惠介と集めたメンバーは文字通り海外の専門学校を卒業した精鋭揃いである。なかでもピアノのハクエイ・キムはすでにメジャーと契約しアルバムの発売も何度か経験している。
いつもはメロディ(ベーシストであるChinさんは自分のアルバムではほとんど自作曲を演奏することが多い)とアンサンブルのバランスを大切にするChinさんだが、このアルバムに限ってはバランスよりも若さの発露を優先させた。ミックスをNYで行い、聴かせたい音を聴かせたいところで思いっきりブーストした。結果、若さと躍動感にあふれた文字通りジャジーなアルバムが完成した。
この日もオープニングは和太鼓を入れた<木曽御嶽>。Chinさんが生まれ育った木曽に捧げた曲で民謡のリズムを取り入れた独特のファンキーさを感じる曲。
友野龍士の和太鼓がとびきり快活で、Chinさんも在籍していたアート・ブレイキーが聴いたら喜びそうである。
一転、2、3曲目の<藍><モネ>は内容で聴かせる曲だったが、若手の優等生的な演奏が続き不完全燃焼気味、Chinさんの着実なベースに目と耳が行ってしまう。デビュー・アルバムのリリースとバースデーのセレブレーションを兼ねたライヴだけに客席は知り合いが多いようで和気藹々とした雰囲気が横溢。バンドもその雰囲気に倣ったか。
ChinさんのMC中にスナップを撮ろうとスマホを構えたらウエイターに「客席では撮らないで下さい」とたしなめられた。そういえばビールを飲みながら通信があるかもとスマホをテーブルの上に置いておいたら「演奏が始まったら携帯電話はしまって下さい」と注意された。トイレに立った帰りにホールの入り口でスマホを構えたら今度はウエイトレスに「写真撮影はご遠慮ください」とNG。「今日はお祝いだから記念に」、と食い下がってみたが、「ご遠慮下さい」の一点張り。後半の若手の爆発が心残りだったが、そのまま席を立った。
*関連リンク(鈴木良雄インタヴュー):
http://www.jazztokyo.com/interview/interview133.html
*CD録音評
http://www.jazztokyo.com/column/oikawa/column_216.html
庄田次郎(as, pocket tp, percussion)
蜂谷真紀(vocal, voice, electronics)
あうん;
TommyTommy(ガジェット・ノイズマシーン)
赤い日ル女(vocal, microKORG)
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モーション・ブルーを出て、原稿を取りに立ち寄った白楽のBitches Brewで思いがけず目眩くサウンドスペースを体験した。赤い着流しにモヒカン刈り、70年代フリージャズの残影色濃いサックスとトランペットの庄田次郎。対するはヴォイス・パフォーマンスの一匹狼 蜂谷真紀、加えてノイズマシンのTommyTommyとヴォーカルの赤い日ル女からなるユニット「あうん」。いかにも“生誕66年”のアナログ親父 庄田次郎に対するエレクトロニクス3人衆(蜂谷と日ル女もヴォーカル用の小型のマシンを使っている)のように書いたが決してそうではない。この、ふたりと1ユニットがさまざまにフォーメーションを変えながら さながら万華鏡のようにサウンドスケープをめまぐるしく変えていくのである。「あうん」はユニットとして演奏に参加することもあれば、それぞれがノイズマシンとヴォーカルに分かれてカルテットの一員として機能することもある。4者はまさに変幻自在な順列組み合わせの様相を呈しながら即興的に音楽を展開していくのだが、場の多くをコントロールしていたのは「あうん」のTommyTommyである(ノイズマシンを操りながら時にギターでつぶやくこともあった)。手綱を緩めて全力で疾走させていたかと思うと、突然手綱を引き絞って駿馬を半立ちにさせ崖っぷちに立たせてしまう。大きなボードに搭載した数十個のエフェクターやスイッチ、ミキサーなど(彼は「ガジェット・ノイズマシーン」と称している)を自由に操るさまは視覚的な魅力も充分である。
Bicthes Brewを舞台にさまざまなセッティングで演奏を披露してきたこの3つのエレメントをひとつのステージにキャスティングしたのは彼らの音楽性をつぶさに観察してきたオーナーの杉田誠一である。そこに展開された激しくも艶(あで)やかでときにエロチックでさえあるサウンドスケープはキャスティングをした当の杉田でさえ想像することができなかった見事なケミストリーだったと彼はのちに告白した。このTommyTommyのノイズマシンが繰り出すグルーヴと自由に反応し合った3者の感性とテクニックも見事なものだった。ムキムキの肉体美を誇示しながら庄田は主力のアルトサックスとポケットトランペットに加え、懐かしのビニールホースは言わずもがな、さまざまなパーカッションを繰り出し“70年代フリージャズ”の精髄を今に伝える。唯一電気の力を借りない庄田の生(ナマ)のパワーの存在感はそれはそれで際立ったものである。内外に活躍の場を求める“ローンウルフ”蜂谷は、ナマのヴォイスに加え、マシンでエフェクトをかけたり、ピアノにも立ち向かうなどパフォーマーとしての豊富な技を見せつけた。彼女が発する蜂谷語はとくに意味を持つものではないが、言語以上に説得力を持つ不思議さがある。2ndセットでは頭髪をキリリと蜂谷巻きに整え、舞台女優さながら。時により何者かが憑依するその 演劇的なパフォーマンスは独特の魅力を発していた。「あうん」のヴォーカル 赤い日ル女もまた日常から非日常の世界へ容易に超越できる才能の持ち主である。機関銃のように短いシラブルで言語を速射する蜂谷に対して、マシンを操りながらどこまでもスペイシーな世界を現出させていた日ル女(ヒルメ)が終演間際、満を持してTommyTommyと創り出した「あうん」の濃艶な世界は圧巻だった。オフステージではカマトト的な言語を弄していた彼女が見事に日ル女に変貌し、ベテランの庄田と蜂谷が一瞬手を止めるほど場を支配した。マシンの力を借りているとはいえ、そのオペラチックな朗唱は息を呑ませ、機会があれば「あうん」だけのステージを聴きたいと思わせるに充分だった。「あ・うん」こそ“ポスト・ノイズ”の一翼を担うべき存在ではなかろうか。また、庄田次郎と父娘ほどの年齢差のある日ル女とのスリリングな共演こそポジティヴな意味でのジェネレーション・ギャップと呼ぶにふさわしい内容で、モーション・ブルーでの不完全燃焼が思いがけず解消される楽しい一夜となった。
なお、当夜の模様の一部は4Kのカメラを持ち込んだ渡邊聡によって記録されている。ワンカメとはいえ、当夜の雰囲気を知る貴重な手がかりにはなろう。
関連リンク;
https://www.youtube.com/channel/UCw4657GS1qhuIg_9BH4CmVQ
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
:
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
:
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
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