#5.ヴィレム・ブレーカー@ベルリン・ジャズ祭2004
Willem Breuker @JazzFest Berlin 2004
Photo:(c)横井一江 Kazue YOKOI

 昨日(7月25日)の朝いちばんで受け取ったメッセージはヴィレム・ブレーカーの訃報だった。まだ65歳、ヨーロッパ・フリーの第一世代と言われるミュージシャンでもまだまだ元気に活躍している人が多いだけにとてもとても残念である。
 私が最後にブレーカーの演奏を観たのは2004年のベルリン・ジャズ祭の初日、ヴィレム・ブレーカー・コレクティーフでの公演。この年はベルリン・ジャズ祭の40周年にあたっていて、その日のコンサートだけは1966年から1993年まで会場として使われたベルリンにおけるクラシックの殿堂であるベルリン・フィルハーモニーで行われた。コレクティーフは1974年にスタートしているので30周年、しかも11月4日はブレーカーの60歳の誕生日で、司会に立った音楽監督ペーター・シュルツェがなにやらプレゼントを渡していたことが微笑ましかった。
 コレクティーフの演奏が始まる前、友人のドイツ人カメラマンが真っ赤なコートを着たただならぬオーラを発する年配の女性となにやら話をしていた。ブレーカーと共演しているブレヒト演劇で知られる女優・歌手のギゼラ・マイである。ブレーカーにこの公演に誘われたけれども、彼女はもうトシだから夜遅い舞台は無理と断ったという。だから、その日のテーマがクルト・ヴァイルではなく「ラプソディ・イン・ブルー」となったのかもしれない。
 その日のトリだったコレクティーフのステージが始まったのは、確か夜11時半ぐらいだったと思う。さすがに曲が終わるごとに家路に向かう(向かわないといけない)人が立ち上がり、午前1時近くに終演した時は客席に座っている人数は半減していた。日本で観たコレクティーフのライヴと違って、<ラプソディ・イン・ブルー>でお行儀よく始まったコンサート、しかし、人が減るほどにその本領を発揮していった。ブレーカーもハン・ベニンクとの“ニュー・アコースティック・スウィング・デュオ”を彷彿させるようなエネルギッシュなソロを聴かせる。フィルハーモニーという会場のためか、客席にまでやってくるようなパフォーマンスはなかったが、最後にトランペットのアンディ・アルテンフェルダーが客席にコップの水をまき、その片鱗をちらっと見せていた。

 

 ブレーカーの来日は、確か1984年にjazz&NOWの招聘でハン・ベニンクとの“ニュー・アコースティック・スウィング・デュオ”でツアーした時が最初だったと思う。しかし、コレクティーフでの来日がやっと実現したのは2001年である。その後も来日しており、日本でも彼らの公演を観る機会があったことはせめての幸いと思っている。これはというヨーロッパのプロジェクトでも編成の大きいものは諸般の事情から来日は厳しいからだ。
 ICPを設立した三人(残りの二人はミシャ・メンゲルベルクとハン・ベニンク、ブレーカーは後に袂を分かち、ICPを離れる)の中で最も若いブレーカーが一番先に逝ってしまったのはなんとも皮肉である。メンゲルベルクの75歳のバースデー記念コンサートをベルリンで行ったという話を聞いたのは先月6月だったから余計にそう感じるのかもしれない。
 突然の訃報だったので、ブレーカーの音楽活動、その業績についてきちんと語る余裕は今の私にはない。追って多角的にその作業はなされるべきである。しかし、今は故人の音楽に耳を傾け、そのユーモアとアイロニー、借り上げた音楽スタイルを組み合わせた中で自身の音楽として表現しているメッセージに耳を傾けたい。

註:Willem Breukerのカタカナ表記だが、ウィレム・ブロイカー、ヴィレム・ブロイカーと記載されることが多かったが、ある機会に外国人のカタカナ表記について専門の方々に尋ねたことがあって、その時にヴィレム・ブレーカーと表記するのが正しいと教えていただいた。それにより、ここではヴィレム・ブレーカーと書くことにした。

横井一江:北海道帯広市生まれ。The Jazz Journalist Association会員。音楽専門誌等に執筆、 写真を提供。海外レポート、ヨーロッパの重鎮達の多くをはじめ、若手までインタビューを数多く手がける。 フェリス女子学院大学音楽学部非常勤講師「音楽情報論」(2002年〜2004年)。趣味は料理。

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