Vol.51 | カーメン・マクレエ  東京 1973
text by Seiichi SUGITA

「美(うる )はしきもの聴きし人は、はや死の手にぞわたされつ」
プラーテン/生田春月 訳

昔の取材ノートやテープを整理していると、「ワァ〜オ!」の連続である。
 1973年9月17日 ヒルトン・ホテル/サラ・ヴォーン
1973年10月17日 ヒルトン・ホテル/ニーナ・シモン
 1973年11月12日 ホテル・ニューオータニ/カーメン・マクレエ/カウント・ベイシー
 いずれも記者会見。1966年7月9日、高輪プリンス・ホテルでのジョン・コルトレーンほどのインパクトはないけれども、それぞれ、なかなか興味深いものがあります。
 えっ、コルトレーンのことを教えろ、てか? OK。
__演奏中の心理状態は?
「自分を意識することは少ないですね。音楽の中に溶け込み、音楽の一分子となってしまっているようです。したがって、演奏中、とくに何か他のことを考えているといったようなことはありません。しいてあげるとすれば、コードのことやリズムのことだろうか...」
__尊敬する人物は?
「マルコムX」
__スタイルの変化は?
「人生が変化の連続であるように、私も変わってきました。私の変化にともなって、奏法も変わってきたのでしょう」
__神を信じますか?
「私がほんとうに信じている宗教が何かということはよく分かりませんが、神の存在は信じます。私はクリスチャンですが、とりたててキリストの存在を信じているわけではありません。私がいかなる宗教の信者であっても、その宗教特有の神の存在を信じることもないでしょう。神とはいかなるものかもわかりませんが、少なくとも神は宗教を超越したものでしょう。神は自分の心の中に存在しているものと思いたい。内在する神、それが私の信仰です。
__20年後のあなたは?
「私は聖者になりたい」
 ぼくが初めてコルトレーンの生と出会ったのは、66年7月17日、大阪・松竹座。コルトレーンは、まるで肉付きのいい雄牛のような、力強いエナジーに満ちあふれ、よだれをベタベタたれ流し、吹きまくる。吹き出す汗は、ぼくには血に見える。翌67年7月17日、コルトレーンは死去。死因は肝臓疾患。40歳である。

 

 さて、ハナシを元にもどそう。何てったって、カウント・ベイシー・オーケストラ。そして、今回のディーバはといえば、カーメン・マクレエである。翌74年8月21日、ベイシーは70 歳を迎える。
__ベイシーさん、カーメンさんと共演したことはありますか?
ベイシー「アメリカでやったことはありますが、今回のような公演旅行での共演は初めてです」
__ジミー・ラッシングさんに追悼の言葉をお願いします。
ベイシー「彼は、私の身体の一部のようでした。とても、ワンダフル・ガイだった」
カーメン「個人的によく知っていたわけではありません。でも、一度だけ共演したことがあります。何かファンタスティックで、とても素晴らしいパフォーマーでした」
__デューク・エリントンとのレコーディングの予定は?
ベイシー「できるだけ、又、早くやってみたい」
__ベイシーさんが63年に来た時、大変競馬がお好きだったとうかがいましたが。
ベイシー「(笑)1000円の特券を10枚ぐらい買いました」
__カーメンさん、今回の公演で、何か特別のアレンジは用意しましたか?
カーメン「ピアニスト兼コンダクターのトム・ガーデンの4曲を用意しました」
__トム・ガーデンさんとは、どういう方ですか?
カーメン「1年ぐらい一緒にいるのですが、彼は若い、コンテンポラリーな感覚の持ち主です。たとえば、<ゼア・ウィル・カム・ア・タイム>は、ジャズよりももっと時代にマッチしたものだと思います」
__歌うとき、何を思いながら歌うのですか?
カーメン「(笑)ベストを常につくそうと思って歌っています。私の場合、歌詞を大切にしますので、十分に説得力を持つように、自分自身、歌の中に没頭しようと思っています。とくにバラード、私はアップテンポのものよりバラードの方が好きです。そういう歌に魂を吹き込むように、その時その時、歌のことだけを考えています」
 さて、お楽しみはこれから。その夜、僕は新宿厚生年金ホールで、カウント・ベイシー楽団とカーメン・マクレエの生と出会う。ベイシーがマクレエと共演するとばかり思っていたのに、マクレエが共演したのは、トム・ガーデンが指揮するベイシー楽団なのです。たぶん聴衆のほとんどが、ベイシーがピアノを弾くベイシー楽団を期待したに違いない。
「私の音楽は自分の楽団である」といったのはデューク・エリントンだけれども、他のコンダクター=ピアニストのもと、演奏しても、デューク・エリントン楽団といえるのかしら。
 とはいえ、マクレエのステージは圧巻。あの説得力は、誰をもとりこにする。帰宅後、朝まで『グレート・アメリカン・ソングブック_ライヴ・アット・ダンテ』(Atlantic)に聴きほれる。ジョー・パス(g)がもうたまりません。円熟した本物の女のヴォルテージの高さとはこれをいうのです。  カーメン・マクレエは1922年4月8日、ニューヨーク生まれ。ジャズ・ピアニストとして活躍中、ケニー・クラークと結婚。ボーカリストとしてのデビューはその後のこと。正確には結婚後の1953年頃である。来日時、マクレエは、弾き語りをものしている。『アズ・タイム・ゴーズ・バイ/カーメン・マクレエ、アローン』(ビクター)がそれ。

「美(うる)はしきもの聴きし人は、はや死の手にぞわたされつ」

杉田誠一
杉田誠一:
1945年4月、新潟県新発田市生まれ。
1965年5月、月刊『ジャズ』、
1999年11月、『Out there』をそれぞれ創刊。
2006年12月、横浜市白楽に
cafe bar Bitches Brew for hipsters onlyを開く。
http://bbyokohama.exblog.jp/
著書に『ジャズ幻視行』『ジャズ&ジャズ』
『ぼくのジャズ感情旅行』。
http://www.k5.dion.ne.jp/~sugita/cafe&bar.html
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6/26 sat 佐藤綾音(as) 楠木真紀子(p)
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09 Sat 望月孝(perc,g,vo) 江口弘史(b)
10 Sun 金剛 進(ts) 林 あけみ(p)
16 Fri 佐藤綾音(as) 楠 真紀子(p) 落合康介(b)
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#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
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JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
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