Vol.4 | マーク・デイヴィスとの音楽の軌跡


縁というものは本当に凄いもので、一人の知り合いから次から次につながっていく。

今回、マーク・デイヴィス(Mark Davis)というすばらしい音楽家に出会えたのも縁である。

それは、前回書いた驚異のコーラス家族の集まりに参加するきっかけから始まった。

まずは、私の親友アンジェリーナ(シドニー近郊ドーランベイ)から始まる。彼女の友達Wiyneのお母さんの友達マーガレット・ブラッドフォード(Margaret Bradford)。素晴らしいシンガーであり、作曲家であり、ギタリストである。彼女とは、シドニー郊外のガイミア(Gumea)トレードセンターのフォーク・ミュージック・フェスティバルに一緒に出演した。
それが縁で、Miguel Heartというグレイトなシンガーに出会えた。前回書いたミゲールの自宅でのコーラス隊の宴のあと、ギタリスト(この時は、ただのギタリストだと思っていた)が来た。それが、マーク・デイヴィスだった。そして、スペイン人の歌い手も来た。 まさしく、ラティーナ....不思議なことに彼女の名前がわからない。
私とは血が違うということをうなるほどわからせられる見事な歌手。マークとラティーナがプロローグ的なことをやった後、私が、ギタリストとしてたいそうな紹介をされて、ステージに迎えられた。エーーーって感じ。まさかこんなことになろうとは予想だにしない。これじゃあギター・デュオでラティーナのバックをやるのが最初から仕組まれていた感じだ。しかも、私が、オーディェンスの前に出た瞬間もう次の曲が始まっている...。

カタロニア民謡風のスパニッシュの曲が、唸りを揚げている。マークの見事なフラメンコ捌(さば)きのギターにラティーナが妖艶な呻(うめ)きをあげる。

一瞬、マークの右手の捌きに見とれる。勿論、そんな悠長なことはしてられない。
私も、何か音を出すしかない。聞いたこともない曲。ついていくしかない。

結構コードもややこしいが、大きなワン・コード(トニック)でついていくしかない。
オーディエンス目線で見ると、今回の宴のためにギター・デュオの一人として雇われてきたということになっているから、大変である。まさしく冷や汗ものである...。

宝石箱のようなコーラスを聞いている間はよかったが、まさしく正念場だ。

マークは、楽曲全体のフレームワークの作り方と実に巧みなコードワーク。そして、繊細で美しい音色には圧倒される。そして、平然とした表情で、私にソロを振ってくる。無茶振りだぁーーー。そんなことは、ない。日本では日常のことだ。ひと回し歌を聴いてからなので、曲の構成とコード・チェンジはわかっている。
腹を決めた。リズムには自信がある。出てくるグルーブだけで勝負する。

こうなると少々コマッケイことはどうでもいい。

思いっ切り、持ってるものを出すだけだ。大和魂、なんて心で呪文を唱えている。

リズム勝負で突き進むとだんだん世界が開けてくる。

マークのグルーブと心と心でつながってくる。
ギター・アンサンブルとヴォーカルの間合いが見事にあってきた。
微妙な間合いも見えてきた。

ラティーナが乗ってきた。来ていた服を二枚脱いでいる。そして、汗や唾が飛んでくる。 刺激的だ。ラテンの血はとどまるところを知らない。何でオーストラリアでラテンなんだ。――
WE can get it on and on 

何が切っ掛けになったかわからないが、途中で、AmとD9だけの展開になった。完全なインプロヴィゼーションの世界になった。こうなると俺の独壇場。フラメンコ・スタイルから16ビートの伸びやかな展開、そして、デミニッシュ いくぜーーー

明らかにマークの目の色が変わった。最初は、お手並み拝見のスタンスが、ひょっとして最初はいじめだったのかもしれない。――― 明らかに、驚きから 畏敬の念だ。
だから音楽をやめられない。

マークとは
ギターを通して、魂と魂の対話が始まった。もう曲がドンナ曲であるかどうかは関係ない。 なんでも来いっ――― マークは凄いギタリスト。

  延々とこのトリオの演奏が続きそうになるが、心得たもので、いい盛り上がりでピリオドを打つ。
そうすると、当然のごとくアンコールがくる。まだ続く、そして、拍手喝采であった。
鳴り止まぬ拍手に耳を貸すこともなく、ギタリスト マーク・デイヴィスとハイタッチして ハグしてた。ここに言葉は要らない。なんか音楽家冥利に尽きる瞬間である。
これが、マークとの最初の音楽の軌跡だ

彼はさりげなく、メーアド、住所、携帯、全部教えてくれた。私も、手放しで伝えた。

かたい握手をした後、別れた。

その後すぐに彼からメールが来た。「家に遊びおいでーーー」

すぐさま都合をつけて彼の家に行くと、彼は、ハーピストだった。
しかも、自宅にハンドメイドで作るための工場を持っている、正真正銘のハーピストだ。

驚きは、それだけではない。
この後は、次号にゆづろう。(続く)

高谷秀司(たかたに・ひでし)
1956年、大坂生まれ。音楽家、ギタリスト。幅広いジャンルで活躍。人間国宝・山本邦山師らとのユニット「大吟醸」、ギター・デュオ「G2us」でコンサート、CDリリース。最新作は童謡をテーマにしたCD『ふるさと』。2010年6月から約1ヶ月間、オーストラリアから招かれ楽旅した。
www.takatani.com

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FIVE by FIVE 注目の新譜


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追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
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