Vol.5 | 十年に一人の逸材 オーストラリアの女性歌手 Sarah Alainn


私の脳髄を刺激する歌声
私は、周りの友人が言うように、恋多き男かもしれない。

しかし、音楽家として、歌そのものに恋することは、ほとんどなかった。 
ただ一人いるとすれば 石塚まみ。しかし、彼女をはるかに凌駕していた。

オーストラリアとの縁と縁が結んだ純真さの極まった清楚な歌声 Sarah。

私は、彼女の魂の囁きに魅了されている。
自分の昨日の所作の不純さを射抜かれる歌声
そして、その不純をケアしてくれる。

安らぎなんて言葉は当てはまらないほど、高貴で雅(みやび)。

その歌の真っ只中にいるだけで、人間としてこの世に生まれて生きていることに 心から至福を感ずる。

まだ正式な音楽CDは、発売されていない。勿論、どこかのレーベルと正式な契約があるわけではない。

ゲーム音楽のヴォーカルとしては、広く流布しているが、その歌声が誰であるかは、オーディエンスには認識されてはいない。

Sarahの歌声は、間違いなくオーストラリアが生んだ人類の宝だと思う。

初めて彼女の歌を聴いたのは、「ロミオとジュリエット」。アカペラで、私の小さな小さなスタジオ(高田馬場)で聞いた。

透き通るような歌の透明感。そして、音程の確かさ、ビブラート、旋律の輪郭の捉え方のうまさとオリジナリティーの両立。

微妙なビブラート、絶妙な間合いと譜面に書けない休符。そしてそれらを含めた見事なスケールの大きい表現力・・・・・

そんなことではない。そんな技巧ではない。そんなどころではない。

この若さで、まるで、母に抱かれているような大きな無償の愛。そう、大げさない言い方かもしれないが。人類愛。

そのとき想起したのは、
御宿の海岸(千葉県九十九里)に400年前に、正確には、1609年9月30日、メキシコの船がフィリピンのマニラからメキシコのアカプルコに行く途中、嵐に遭遇して、難破し、漂着した。乗組員は命からがら、御宿の海岸にたどり着く。息も絶え絶え・・・・村人が見つけて、助ける。

勿論、言葉もわからない。一目見れば異人だとわかる。

・・・・ご存知のように当時は、江戸時代。鎖国をして他の国との国交を基本的には、絶っている。だから、異人を見つけたら殺せ。それを助けでもしたら助けた人も殺せ・・・・

そんな時代である・・・・

ところが、
御宿の村人は、唇が真っ青になって、凍えそうになっている異人を助けた。 (旧暦の9月30日といえばかなり寒い) 

海女さんは素っ裸になって、震える体を抱きしめて温めた。とにかく、今、目の前にいる人を何とかして助けようという理屈抜きの愛。人類の良心。

倒れている人をほうってはおけない、これが人類の良心だと思う。相手がどこの国の人であるとか、その時代の権勢が何であるとか、宗教がなんであるとか。
そんなことは、一切関係のない純粋無垢なありのままの人間の真心。

Sarahの歌には、今の人類が忘れてしまったかもしれないこの真心を感じる。
これを人類愛といわずして何といおう・・・・

音楽や歌の一番根源にある大切なものを、もって生まれた歌手 Sarah 

先ほどの御宿のような話は、オーストラリアの海岸線にはごろごろある。
SarahはそのDNAを正確に、そして、おおらかに引き継いでいるのだと思う。
私は矢も盾もたまらず、早速、彼女を私のユニットG2us(ジニアス)のコンサートに出てもらうことにする。

そのために、リハーサルを、山中湖サウンドビレッジでやることにした。
そこで、彼女の人類愛を基盤にした凄まじい才能に遭遇する。
こんな歌が歌える“歌の妖精”がヴァイオリンの名手でもあった・・・・。

Sarah Alainn の詳細については次号に。

♪ Sarah ライヴ情報
12/25(土)
開場:6時/開演:7時 
@恵比寿 アートカフェ「フレンズ」
出演:Sarah Alainn + G2US

高谷秀司(たかたに・ひでし)
1956年、大坂生まれ。音楽家、ギタリスト。幅広いジャンルで活躍。人間国宝・山本邦山師らとのユニット「大吟醸」、ギター・デュオ「G2us」でコンサート、CDリリース。最新作は童謡をテーマにしたCD『ふるさと』。2010年6月から約1ヶ月間、オーストラリアから招かれ楽旅した。
www.takatani.com

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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
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第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


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カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

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#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

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#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
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