#6. ルディ・マハール@スコピエ・ジャズ祭2009
Rudi Mahall @Skopje Jazz Festival 2009
Photo:(c)横井一江 Kazue YOKOI

 1996年、ベルリン・コンテンポラリー・ジャズ・オーケストラ(BCJO)が来日した。当時のBCJOメンバーの中でただ一人20代、最年少メンバーだったのがバス・クラリネット奏者ルディ・マハール。細長い体を「く」の字に折り曲げるようにしてバス・クラリネットを吹く姿を見ながら思った。どこかで見た記憶がある、と。
 気になって、かつて撮影した写真のベタ焼きを引っ張りだして探したら、あった!1992年、メールス・ジャズ祭にギュンター・クリスマンのプロジェクト「ヴァリオ33ニュー・ヴォイセズ」で出演していたのだ。だんだん記憶が甦ってきた。背の高い若者が「く」の字のように体を折り曲げながらバス・クラリネットを吹いていたことを。そうだ。その姿、楽器の吹き方がどこか可笑しく、なのにその音には説得力があって、カメラ・アイは本能的にソロをとっているマハールを追っていたのである。クリスマンのプロジェクトのメンバーには、近年大友良英のONJOに参加したり、何度か来日しているので日本でもその存在を知られるようになったマツ・グスタフソンやベルリンで活躍するドラマーのミヒャエル・グリーナーもいた。「ニュー・ヴォイセズ」という名のとおり、若手を集めたプロジェクトだったのである。向こうのベテラン勢は若い才能を見つけ出し、自分のプロジェクトに取り込むのが上手い。今思えば、メールスではこういう形でも後に才覚を現すミュージシャンに随分と出会ってきた。

 

 マハールがプロとして演奏し始めたのは1990年頃。90年代半ばにベルリンへ移り住んでからその頭角を現してきた。アレクサンダー・フォン・シュリッペンバッハや高瀬アキの目に留まり、BCJOのメンバーに抜擢され、また高瀬アキの各種のプロジェクトに参加するようになる。1997年にシュリッペンバッハ、ポール・ローヴェンス、高瀬、井野信義と日本をツアーした時は、「ディー・エントトィシュング(失望)」という名のバンドで制作したLPを持参、ライヴ会場で販売していた。それで、アクセル・ドゥナーらとのカルテットでモンクの作品を演っていることを知るのである。シュリッペンバッハの「モンクス・カジノ」は、彼らと出会ったことで始まったプロジェクトだった。大ベテランと若手が互いに刺激を与えあって、それが音楽創造に結びついた貴重なケースである。失望バンドのほうは、「モンクス・カジノ」でモンク作品を演奏していることもあって、今ではオリジナル曲の演奏が主となっている。
 ベルリンの中堅世代では際だった存在といっていいマハール、他にグローブ・ユニティのメンバーでもあり、フランク・メーブスとはベルリンに来る以前から「ディア・ローテ・ベライヒ」で活動を続けている他、ベテラン・同世代のミュージシャンとの共演も多い。硬質な音色で時に訥々と、諧謔を弄ぶかのような飄々とした表情、それでいてサウンド構造には明確なアイデアをもっている。バス・クラリネット奏者としては先輩格のルイ・スクラヴィスとはあらゆる面で好対照だ。
 写真は、アキ・プレイズ・ファッツ・ウォーラーがマケドニアのスコピエ・ジャズ祭で演奏した時のもの。「く」の字だけではなく、まるでサックス奏者のようにバス・クラリネットを吹く。
「100キロしか出せない小型車があったとする。それをボクはいろいろ手を加えて180キロまで出せるようにしたんだ」とはなんともキュートな言い方。小型車とはバス・クラリネットのこと。大柄な彼が小型車に乗る姿をつい想像して、ちょっと可笑しかった。そして、200キロまでいける、と今のマハールを見ながら思ったのだ。

横井一江:北海道帯広市生まれ。The Jazz Journalist Association会員。音楽専門誌等に執筆、 写真を提供。海外レポート、ヨーロッパの重鎮達の多くをはじめ、若手までインタビューを数多く手がける。 フェリス女子学院大学音楽学部非常勤講師「音楽情報論」(2002年〜2004年)。趣味は料理。

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・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
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