Vol.52 | 朝倉俊博                     1969年 東京
text by Seiichi SUGITA

 ある日、突然、唐十郎<状況劇場>の雄、大久保鷹が、わが<ビッチェズ・ブリュー>にやって来た。肉体的演劇論=唐十郎、肉体的音楽論=山下洋輔で、さりげなく盛り上がる。その夜の<ビッチェズ・ブリュー>は、すぐれてアクチュアルな60〜70年代のめくるめく時空と化す。話題は、麿赤児と山下洋輔の 『ダンシング古事記』へ。確か、プロデューサーは立松和平。ぼく自身のドキュメントが『季刊写真映像』第2号「朝倉俊博特集」に載っている。朝倉の代表作は『麿赤児』(深夜叢書)である。
 実は、朝倉は、ぼくの写真の師匠。酒の師匠でもある。いわゆるコンテンポラリー・フォトグラファーの雄であり、主たる媒体は『アサヒグラフ』(朝日新聞社)。まあ、日本の『LIFE』ですかね。ぼくのフォトグラファー・デビューは、1967年『アサヒグラフ』「黒い情念が噴出する/アメリカ」。翌70年には、「アメリカのジャズ〜ニューオーリンズ〜ニューヨーク〜シカゴ」を連載。同時期に、藤原新也は、同誌でインドをルポしている。
 朝倉は、ぼくの高校(神奈川県立鶴見高等学校)の先輩。朝倉の戯曲を実際に劇化したり、私塾の教師をしたりしていた。
 世田谷赤堤の写真工房に泊まり込み、Tri-X(フィルム)の増感方法を覚える。カメラは師匠に習い、ベトナム戦争のために開発されたニコンFブラックを選ぶ。近くに愛娘アビが生まれたばかりのプーさん(菊地雅章)が住んでいる。プーさん初のリサイタル(70年)のプログラムに掲載されたロング・インタヴュー「ジャズは人間の“生”のすべてではない」は、主としてプーさん宅で行われたもの。時代は、未踏の彼方へと動き始めていた。平気で粒子を荒したり、あえてピントを外したり、等々。新しい時代の方法ではある。

 

 写真は、69年初夏、朝倉俊博が、羽田で撮影したもの。後列左から、間章、吉沢元治(b)、高木元輝(b-cl)。前列左から、牧杏子、ぼく自身。牧が手に持っているのは『ジャズ』誌創刊号ポスター。この写真は、『アサヒグラフ』に掲載されている。ぼくが1$=¥360のアメリカへ飛び立つのは、この直後である。師匠が最も愛したレンズは、ニッコール24mmであるが、ぼくはといえば、20mmを多用。
 師匠(2004年没)も、間(1978年没)も、吉沢(1998年没)も、高木(2003年没)も、死去してしまった。合掌。
 撮影時に羽織っているJUNのビニール・コートは、どういうわけか中平卓馬の大のお気に入りで、結局取られてしまう。中平は、朝倉と並び称されるコンテンポラリー・フォトグラファー。当時は、逗子<なぎさホテル>の裏に住んでいて、しばしば泊まり込み、技術ではなく、写真映像の意味を学ぶ。佐藤信の黒テントでジャズを唄っていた安田南は、中平の恋人。パリ・ビエンナーレにも同行。
 5、6年前、横浜美術館で中平と再会したのだけれども、中平の記憶は完全にぶっ飛んでいた。中平にとっての映像は、すでに時代をアクチュアルに切り取るためのものではなく、記憶を呼び起こすための一手段にしか過ぎないのだろうか?
*編集部註:写真は、『jazz』誌 1969 no.3 から転写、トリミングしたものです。

杉田誠一
杉田誠一:
1945年4月、新潟県新発田市生まれ。
1965年5月、月刊『ジャズ』、
1999年11月、『Out there』をそれぞれ創刊。
2006年12月、横浜市白楽に
cafe bar Bitches Brew for hipsters onlyを開く。
http://bbyokohama.exblog.jp/
著書に『ジャズ幻視行』『ジャズ&ジャズ』
『ぼくのジャズ感情旅行』。
http://www.k5.dion.ne.jp/~sugita/cafe&bar.html
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