Vol.8 ノルウェーの音楽家に学ぶ〜Christian Wallumrød〜
text by Ayumi TANAKA
photo:ソロc Urban Willi / ECM Records|アンサンブルc Anna Lerheim Ask

 オスロでは10月の終わりに、この冬初めての雪が降った。太陽の照る時間が日に日に短くなり、本格的な冬の到来を迎えつつある。
 11月、私が敬愛するノルウェーのピアニスト、作曲家であるChristian Wallumrod(クリスティアン・ヴァルムルー)のコンサートやリハーサルを観に行く機会が多くあった。彼が参加するDans Les Arbres、ノルウェーのシンガーSidsel Endresen(ジゼル・アンドレセン)の60歳の誕生日を祝うコンサートや、勉強になるだろうからと誘ってくれた、彼がリーダーを務めるChristian Wallumrod Ensembleのリハーサルなど、様々なグループでの彼の演奏を聴いた。決して多くない音数で、共演者と一緒に創り上げられる大きな音世界に心惹かれた。
 私のとても個人的な感想だが、どのコンサートも、音楽を聴いているという印象というよりは、必然性があってそこに存在している何かを、演奏者や他の聴衆と共に感じる時間のようなものであったように感じる。音楽を耳で聴くというよりは、全身を使って音を体験するというような感覚。その場でその時に生まれる音楽を、今を生きる人々と共に感じることができることを、とても喜ばしく感じた。
 彼らの演奏を聴く間、映像や景色などが、時には鮮明に、また、時にはぼやけて、頭の中で駆け巡った。私の隣にいる人は全く違う体験をしていたのかもしれないが、私にはそのように感じた。おそらく彼らの音楽には演奏者だけでは完結しない、聴く人が入ることのできる余地があるのかもしれない。
 違う共演者と共演することで、異なる化学反応のようなものが起きるのだが、彼は核の部分が、少しもぶれることがなく、そして発される音は、彼にとって、とても自然なものであるように感じだ。決して嘘がなく、強く、それでいて、しなやかに様々に変化する音を聴くと、彼が如何に真摯に音楽と向き合ってきたのか、想像することができる。
 今回、彼に、彼のことを日本の人たちに紹介したいと話したら、快くインタビューを引き受けてくれたので、紹介したい。
(インタビューは実際の会話と、メールによる会話による。質問に丁寧に、誠実に答えてくれたことに感謝したい。)

Q:リハーサルでは、良い雰囲気が印象的でしたが、他のミュージシャンと音楽を作る上で大切なことは何ですか。

A:音楽そのものが、まず第一に大事です。
私はいつも何かを探し求めているのですが、アイディアが明確な時とそうでない時があります。アンサンブルをする時、そのアイディアを共演者、その人のために持っていき、アンサンブルの他のメンバーにとっても、楽しむことができ、挑戦的で、感動的で興味深く取り組めるものを、その場で共演者と共に作るよう努めています。その過程で、沢山の素晴らしい事と不思議な事が同時に起こります。
私は本当に素晴らしいミュージシャンに恵まれています。


Q:アンサンブルでは、各楽器がとても効果的に使われていて、ピアノの使い方は、ピアノというよりはサウンド全体の一つのように感じます。あなたにとってピアノとはどんな楽器ですか。

A:ピアノとしてのサウンドを出すことを一番に考えるよりも、全体のサウンドの一部としてピアノを存在させたいと考えることがとても多いです。ピアノだけでなく他の楽器についてもそう考えています。そのように考えることで、音の数や音域、強弱など様々な要素の良い使い方を導きだすことができるのではないかと考えています。その方法として、それらの要素を減らしたり、限定したりすることがあります。


Q:あなたの音楽は、聴く人が自由に想像したり、感じたりすることできるスペースがあって、かつクリアなコンセプトが感じられます。また、親しみやすいフォルク・ミュージックの様なメロディが含まれていることがありますが、それでいて神秘的に感じます。具体的に、どのように作曲しますか。

A:私の作曲は、様々な種類の素材や、様々な焦点など、たくさんの要素から成り立っています。 それらの要素には、音と音の融合や奏法、音域、など楽器の特性から思いつくアイディアや、それに対する好奇心などがあります。私は、自分自身の興味を惹くもの、私に話しかけて来る何かに、特に注意深くこだわるようにしています。そして、自分自身に属していないと感じる要素は、取り除くようにしています。


Q:Paul Bleyに影響を受けたという話を聞きましたが、どのように影響を受けましたか?

A:初めてPaul Bleyを聴いた時、私はジャズに対して、ある種の見解のようなものを持っていたように思います。しかし、彼の音楽にはそういうものとは違った、より不思議な美しさのようなものが感じられました。言葉や文章を、半分しかしゃべらないような話し方、質問を投げかけるような話し方のようなものです。
彼の音楽には、他の音楽とは違うアプローチの仕方があり、今でも、私はそれを美しく魅力的であると感じています。


Q:他に影響を受けた音楽家はいますか?

A:Dans Les Arbres やChristian Wallumrod Ensemble のメンバー達は、本当に、素晴らしいインスピレーションを与えてくれます。彼らのような素晴らしいミュージシャンと演奏をすることができて、本当に幸運だと思います。


Q:音楽におけるインスピレーションは何ですか。音楽の他に、何か特に影響を受けていることはありますか?

A:私の音楽におけるインスピレーションは、基本的に音楽から来るものがほとんどです。いつ、どこで、どのようにして、音楽に対する衝動がやって来るのかを話すのは難しいですが、私はすごく音楽に動かされる人であると思います。他には、本を読むのが好きです。


Q:音楽に対するモチベーションは何ですか。

A:音楽は、人生における本当に素晴らしい贈り物です。少しおかしく聞こえるかもしれませんが、音楽は、私の人生を、意味や価値のあるもので満たしてくれます。音楽は、音でできた巨大な宇宙であり、そしてそれは、長い間、社会や人々の人生の中で、重要な象徴のようなものであり続けてきたものであると思います。私は、音楽をすることにより豊かな喜びを感じます。そして、音楽を作る事とは、その喜び以外にも、その巨大な音の宇宙に、何らかの形で貢献をしようとすることだと思います。同意したり、反対したり、尋ねたり、考えたり。私自身にとって音楽は、人の感情と深い繋がりを持つことのできるものでもあります。

Q:あなたの音楽からノルウェーの空気感を感じますが、ノルウェーの自然や環境はあなたの音楽に影響を与えていると思いますか?

A:正直に話すと、音楽を作る際、自然や環境を音楽に関連づけたことはありません。しかし、自然や周りの環境は、音楽を作ることや演奏することに、複雑な形で影響をおよぼしていると考えています。例えば、育ってきた自然や環境は、音楽を作ることに対して、何らかの役割をしているのであろうと思います。


Q:あなたの音楽を聴くと、時折、映像や景色、ストーリーなどを思い浮かべてしまうのですが、音楽を作る際、具体的なイメージやストーリーがありますか。

A.特にはないです。しかし、人々が、音楽を様々に捉え、違った経験ができるということは、音楽における素晴らしい贈り物だと思います。それは時々、私が意図したものと、かけ離れたものであることもありますが、そこが面白いところだと思います。


Q:トロンハイム音楽院(ノルウェーの中部、Trondheimという都市にある大学)での学生生活はどんなものでしたか。

A:トロンハイムでの2年間はとても大切なものでした。とても真剣に音楽に取り組みました。
朝起きて、自転車で学校に行って夜まで練習室にいて、パーティなどにも行かなかったので、周りから見ると、とても退屈な学生だったのかもしれません。その頃は、とにかくジャズに興味があったので、本当に沢山のジャズ・ミュージシャンの演奏をコピーしました。それらを研究し、その中から自分が好きなもの、自分に合うものを見つけて、自身のサウンドを探求していきました。

Q:次のステップとして何か考えていることはありますか。

A:今、オーケストラのための曲を書いています。ソロ・ピアノに力を入れたいとも考えています。また、エレクロニクスにも取り組みたいです。Dans Les ArbresとChristian Wallumrod Ensembleのツアーもしたいです。


 インタビューを通して、細部にこだわり、多くの時間とエネルギーをかけてChristian Wallumrod 独自のサウンドを深く追求する姿勢に、音楽に対する大きな愛のようなものを感じた。
 Christian Wallumrodが話してくれたように、自分の興味の惹くものにこだわり、そうではないものを取り除いていくという過程に大切なものがあるのであろう。今日、学校の先生や学生と、音楽について、スタイルを学ぶことはもちろん大切だが、それは自身の音楽を確かなものにするための鍵に過ぎなくて、大切なのは、その鍵となるものを深く追求した後、そこから、自分にとって特別なサウンドを探し出すことではないかという話をした。Christian Wallumrodの音楽はそういう意味で、とても特別な唯一の音楽なのであろう。
 『人々が、音楽を様々に捉え、違った経験ができるということは、音楽における素晴らしい贈り物だ』という言葉があるが、そのような、音楽と聴く人との間に生まれる創造性が彼の音楽における魅力の一つなのではないだろうか。


関連リンク:http://www.jazztokyo.com/newdisc/462/arbres.html
 

田中鮎美:
3歳から高校卒業までエレクトーンを学ぶ。エレクトーンコンクール優勝、海外でのコンサートなどに出演し世界各国の人々と音楽を通じて交流できる喜びを体感する。
その後、ピアノに転向。ジャズや即興音楽を学ぶうちに北欧の音楽に強く興味を持つようになり、2011年8月よりノルウェーのオスロにあるノルウェー国立音楽大学(Norwegian Academy of Music)のjazz improvisation科にて学ぶ。Misha Alperinに師事し、彼の深い音楽性に大きな影響を受ける。

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COLUMN
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#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
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