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Vol6 十年に一人の逸材 Sarah(2) | |
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さて、十年に一人の逸材。けなげで可憐なSarahのことなんですけど、前号の反応が凄かったので、少し私の筆が固まってしまいます。
彼女のバイオリンの凄さに筆を進める前に、どうしても触れておかなければならないことがある。彼女のバイオリンの音色を聞いたときに想起した事がある。
それは、彼女を生んだ国オーストラリアの志。
私は今まで、この愛すべき国に仕事で、3回行っている。
一番最初は、シドニー・オリンピックの次の年である。
国の行事として行われた大きな平和イベントに参加させてもらった。
「大菩薩太鼓」という太鼓の集団と私のギターとのジョイントという形で招聘された。この「大菩薩太鼓」というのは、青梅の奥、小菅村(山梨県北都留郡)という所に古くからいる壮絶な太鼓の集団。
わずか三日間の滞在の中で、計7回のコンサートという強行スケジュールであった。・・・・・・・少し場所を変え、野外でも屋内でも行われた。大変なのは、太鼓の人たちとPA。出してはすぐ撤収し、即移動。そして、雨もぱらつく・・・・・・・・・・・・・・。
その平和イベントの趣旨は、第二次世界大戦当時、ご存知の通り日本とオーストラリアは敵味方の関係にあった
。
北部の中央の端にダーウィンという街がある。大戦当時日本軍は、ゼロ式戦闘機で特攻隊なるものを創り、標的を定めては自爆するという暴挙に出たのである。
ダーウィンという街がその標的になった。
そして、突っ込んではみたが、死ねなかった人、死ななかった人・・・・・・・・当時武士道という名の下に誤ったパラダイムを植えつけられ、突っ込んで生き残ると生き恥とされた・・・・・。
生き残ったゼロ式戦闘機特攻隊の戦士が捕虜となって捕らえられた。捕らえられた場所は、カウラという内陸にある街、現在は国連の釣鐘がある場所である・・・・・。
捕らえられた人々にとって、生き残った上に捕虜となっていることは、生き恥の上塗りであった。
そして彼らは、悶々とした日々を脱却するために、捕虜収容所から脱走を図る。 そして、シドニーまでの400キロの距離を逃げ切った人が4人・・・・・。
この歴史的事実を忘れては、いけない。つまり、捕虜になったことも、捕虜にしたことも、逃げたことも、逃げた人をとことん追いかけたことも、自爆しようとしたことも、そしてその大前提として、お互いが戦争したことを忘れてはいけない。
そのために行われた平和を希求する国家イベント。脱走した同じ日、同じ真夜中の同じ時間に大きなかがり火を炊いて。
「大菩薩太鼓」と私のギターのジョイント。あんな真夜中に想像を絶するたくさんの人が集まった。
この時、当時のオーストラリアの首相がこう言った
「平和とはただ待っているものではなく、お互いが手を携えて必死に創り上げるものだ」
今でもこの言葉が、耳鳴りのように反芻される。
ここに、オーストラリアの志がある。
Sarahのバイオリンの音色にはこのオーストラリアの良心がある。音色のことを、言葉だけで伝えているのが忍びない。
私は、それなりにたくさんのバイオリニストと仕事をしてきたが、こんな音色は聞いたことがない・・・・・・・・・。
歌に関しては、前号で展開したが、具体的に今彼女と取り組んでいる楽曲は、<島唄><ロミオとジュリエット><Somewhere><Every Time We Say Good-bye>
どの歌もどの歌も漆塗りの宝箱から紡ぎだされる雅な絵師のような和らぎがある。一対一でリハーサルをやっていると、自分が伴奏をしていることを、忘れてしまう。
勿論、演奏者であることを忘れて、歌に聞き惚れるからである・・・・。
さて、バイオリンであるが。
取り組んだ楽曲は、日本めぐりの会の川崎春喜作曲のもの。和の曲調を見事に,表現する姿態には、驚いた。
そして、私の作った曲も、いきなり譜面を渡してやってみた。元々クラシック畑の人だから、初見に強いのは当たり前。
しかし、私を驚嘆させたのは、一回し主旋律を終えた後アドリブを振ってみた。 「しまった」と思ったのもつかの間、アドリブを振ったことがしまったなんてとんでもない。
見事な情感と自由奔放な旋律のアウトライン。留まるところを知らず、泉のように沸いてくるグルーブ。
これぞ、JAZZ。
Sarahの大胆で繊細、そして随所にスピード感のあるアドリブは、ステファン・ グラッペリを想起させた。
そうなると、私は、ジャンゴ・ラインハルトの気分。
こんなに幸せでいいのか?
(続く)
高谷秀司(たかたに・ひでし)
1956年、大坂生まれ。音楽家、ギタリスト。幅広いジャンルで活躍。人間国宝・山本邦山師らとのユニット「大吟醸」、ギター・デュオ「G2us」でコンサート、CDリリース。最新作は童謡をテーマにしたCD『ふるさと』。2010年6月から約1ヶ月間、オーストラリアから招かれ楽旅した。
www.takatani.com
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#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
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#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
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・トランスワールド・コネクション 剛田武
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シスコ・ブラッドリー
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#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
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