#  このCD2011国内編#11

『Luz do sol (ルース・ド・ソル) 太陽の光 / 平田王子、渋谷毅』
text by 多田雅範


Soramame Record

1. Sabia (サビア) / Antonio Carlos Jobim / Chico Buarque
2. Luiza (ルイ―ザ) / Antonio Carlos Jobim
3. 台風リンゴ (Typhoon apples) / Kimiko Hirata
4. Luz do sol (太陽の光) / Caetano Veloso
5. Rosa (薔薇) / Pixinguinha / Otavio de Sousa
6. Simples carinho (さりげない優しさ) / Joao Donato / Abel Silva
7. Pua ahihi (プア・アヒヒ) / Madeline Lam / Mary Kawena Puku'i
8. 旅の途中 (No meio da viagem) / Kimiko Hirata
9. Inquietacao (不安) / Ary Barroso
10. Desafinado (デザフィナード) / Antonio Carlos Jobim / Newtom Mendonca
11. Isto aqui o que e (イスト・アキ・オ・キ・エ) / Ary Barroso
12. Desde que o samba e samba (サンバがサンバであった頃から) / Caetano Veloso
13. 生きがい (Ikigai) / Takeshi Shibuya / Michio Yamagami

2011年日本ジャズのMVPは渋谷毅である!

ボサノバの作品なのである。らしいのである。平田王子(ひらたきみこ)さんがギターと歌、そして渋谷毅がピアノ。現代ボサノバ耳でどのような判定かはわからないが、実に透明でナチュラル、この女性ヴォーカル、日本人だよね?って感覚的にわかる向きもあるが、それが本場への至らなさに聴こえるのではなく、オリジナリティに至っている気持ちよさがいい。あ、Jazz Tokyoには望月さんによる素晴らしいレビュー(http://www.jazztokyo.com/five/five782.html)もありますね。

そしてやはり、耳は渋谷毅に痛みも無くさっさと斬られるあずみ(小山ゆうのまんが)の刺客のように、で、なんでこんなにいいのだ、説明できない!と、毎日聴いているのだ。

それで、CDのラストに渋谷毅作曲山上路夫作詞「生きがい」、1970年、由紀さおりの7枚目のシングル、が、収録されている。あったな!この曲、リアルタイムで聴いてるよー、ガキの頃ながら「こんなふうに女のひとに好きになってもらいてえな、でもなあ、なんで別れてしまっているんだろうなあ、別れてしまっているのに女のひとがそれでも生きがいだなんて、男としては、・・・怖ええなあ!」などと、来るべき異性関係を予習していたものだ。が、このメロディー、渋谷毅、こそ恐るべし。坂本九「見上げてごらん夜の星を」の編曲も渋谷さんだった、とか、芸大の附属高校作曲科は菊地雅章との三人だったとか、浅川マキの「無題」は清水俊彦の詩と渋谷毅作曲だとか、あとから知ったけど。

由紀さおり。中古盤屋で「夜明けのスキャット」を手にしたオレゴンのジャズバンド「ピンク・マルティーニ」のリーダーが、本人と共演するようになって、『1969』というCD作って、世界的に売れている2011年だという。世界に「夜明けのスキャット」の世界はわかるのだろうか。あの動かし難い世界観、戦後、高度成長期、を経ての1969年に聴いた日本人たちが感じた衝撃は、どうなの?

ルールールー、ルールールー、ランランラララー。これは、のちに宮崎駿監督が幼いナウシカに歌わせたルーツだと妄想する。「愛し合う そのときに この世は 止まる の。時のない 世界に ふたりは ゆくの よ。」ここでの「の」と「よ」の発音の深さ、これが20世紀最大の遺産だとわたしは思う。当時小学校3年生だったわたしは、「なぜだ、なぜ、あいしあうときに、とまるんだ?ほんとにそんなところへゆけるのか?」と母親に抗議するように問い詰めたものだが、「アンタ、また子どもなんだから、余計なことを考えなくていいの!」とマジゲンコツをもらった。エンディングはこのようになっている。「愛し合う 二人の 時計は 止まる の よ。 時計は 止まる の。」はじめの「止まるの よ」は、まるで甘えるように、いっしょにいくのよと約束するように、ほんのわずかおしりをうえにむけるように歌われる。つぎの「止まるの」は、女神が真実を語るように、厳粛な宣言をくだすように歌われて、この歌が閉じるのである。ですからですね、はたちの由紀さおりが歌わなければ、

「夜明けのスキャット」はイエローモンキーがその最盛期1995年に出したシングルのB面でカバーしている。吉井和哉の出自を明かしているような名演だ。

由紀さおりから渋谷毅に戻そう。



95年は、わたしはJポップでは小沢健二を、ジャズではベーシスト川端民生を、追っかけ状態であったのです。オザケンはCDあるし、渋谷の王子様でしたが、川端民生はCDは知らずにライブで惚れたのでした、ネイティブ・サンのメンバーだったことを知ったのはずうっと後で。

96年に小沢健二が渋谷毅、川端民生とのトリオで、つまりピアノとベースだけの歌伴でのシンプルな『球体の奏でる音楽』を発表すると知ったときは、世界をつかんだ気持ちになりました。この3人でのライブでの「天使たちのシーン」なんて・・・。

渋谷毅と川端民生は、98年に吉増剛造の朗読、フランスの越境ギタリスト、ジャン・フランソワ・ポーヴロス、とのセッションを行っている(http://www.jazztokyo.com/best_cd_2007/cd2007.html)。その頃の、二人のデュオ録音が今年CD化された。

ベースとピアノというとヘイデン〜ジャレット『ジャスミン』の記憶が新しいが、タガララジオ12(http://www.jazztokyo.com/column/tagara/tagara-12.html)をはげしく参照、お、おれ、名盤だと書いてるよ、さあ、どうだ、『(蝶々在中)』もかなり近いシチュエーションで二人の奏者は奏でているのであるが、軍配はどちらに、物言いがつきました。おれはひそかに、このリリースは渋谷の批評になっていると思う。

というわけで、2011年日本ジャズのMVPは渋谷毅である。(多田雅範)


(蝶々在中) / 渋谷毅 川端民生 (CARCO-0014)

1. 蝶々 (てふてふ) [Takeshi Shibuya]
2. が、とまった [Takeshi Shibuya]
3. There Will Never Be Another You[Harry Warren]
4. You Don't Know What Love Is[Gene de Paul]
5. Lover Man [Roger ''Ram'' Ramirez, Jimmy Sherman]
6. Body And Soul [Jonny Green]
7. Misterioso [Thelonious Monk]
8. You Don't Know What Love Is [Gene de Paul]
9. 無題 (Beyond the Flames) [Takeshi Shibuya]

制作・販売:(株)林泉 

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