Vol.94|
追悼 入江 宏
text: Seiichi Sugita




 いまから6年前、ぼくは生死の間をさまよっていた。助かっても3年以内で失明、5年以上は生きられない、とはっきり医者に宣告されていた。
 見舞いのたんびに必ずCD-Rを持ってきてくれたのが、入江宏である。そのすべてが、スコット・ラファロの音源で、音源がすべて揃って以降、ぼくは入江宏には会っていない。来るときは、いつもスコット・ラファロのことを話して帰る。
「未だに、スコット・ラファロの呪縛から離れられないのです」。
 それが最後のことばであった。
 きわめて線の細い、印象に残らない男ではあったが、このひとことが、入院中、ずっと脳裏に、喉仏のトゲのように、突き刺さっていた。
 入院前に、入江宏は、我がBitches Brewに5回ほど出演している。最初は唄伴である。唄伴としては、まあ可もなく不可もなくとでもいっておこうか。しかし、しかしである。1曲だけソロ・ピアノを弾いたとき、隠していた爪がキラリと光ったのである。音と音の間に音を聴いてしまったとでもいえば、いいのだろうか?
「ピアノ・トリオで出てみない?」
 初めてピアノ・トリオを聴いたとき、ぼくは「デニー・ザイトリンみたいだね」と印象を語る。端正なくせに、何かトゲトゲしたものがあるのです。きっと納得がいかないのでしょう。ぼくは、「トゲトゲ」がなくなるまで、入江宏と付き合おうと決める。
 入江宏のピアノの魅力は、ひとことでいえば、日本ならではのサナトリウム文学にも似た脆弱なあやうさ。いつも消え入るような美しさが漂白している。
 深く深く沈潜していく、リリシズム。その奥底に深く眠る煌めきが、浮上する一瞬がある。その一瞬のために、ぼくは、翌月の空き日を聞く。
「音と音の間」、その内奥には、あのビル・エヴァンスすら、到達しえなかった、叙情の深淵を視ることすらあるのである。
 入院中、ぼくはビル・エヴァンスとスコット・ラファロを聴き続ける。入江宏は、このふたりを超えようとしているのだ。
 退院後、自暴自棄的になったぼくが、入江宏に空き日を聞くことは、もうなかった。
 入江宏が、死んだと知らされたのは、つい先日のこと。医者であったことも初めて知る。
「音と音の間」が脳裏のトゲとともに浮上して来る。
 入江宏は、僕自身の予定死よりも早く死んでしまった。享年59。合掌

『入江宏/メモリアル・アルバム 1955-2014』
http://www.ratspack.com/catalog/jazz/MZCO-1309.php

 

♫Live Information
生誕66年祭 庄田次郎「7 days」
4/11 Sat 橋本孝之(as) レンカ(踊り)
4/12 Sun 竹内直(sax,b-cl) CHU(vo)
4/13 Mon 瑞季(ts) 松原東洋(舞踏)
4/14 Tue 纐纈雅代(as) 大沼志朗(ds)
4/15 Wed 松本健一(ts) 福島久雄(g) 林裕人(ds)
4/16 Thu Birthday LIVE Party! 縄文組 島田透(ds) 他
観客・演奏者共\2000 (1d. Free Food)
4/17 Fri あうん(TommyTommy(ガシェットノイズマシン)+赤い日ル女(vo,microKORG) 蜂谷真紀(vo)

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杉田誠一
杉田誠一 Seiichi Sugita
1945年4月新潟県新発田市生まれ。獨協大学卒。1965年5月月刊『ジャズ』、1999年11月『Out there』をそれぞれ創刊。2006年12月横浜市白楽にカフェ・バー「Bitches Brew for hipsters only」を開く。著書に、『ジャズ幻視行』『ジャズ&ジャズ』『ぼくのジャズ感情旅行』他。

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FIVE by FIVE 注目の新譜


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追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


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