# 031
レインボー・ロータス〜A Big Hand for Hanshin
text by 稲岡邦弥
発売元:Polydor POCP-7070/71(2枚組CD) \4,600
初出:1995年8月25日
プロデューサー:稲岡邦弥+オスカー・デリック・ブラウン
アート・ディレクター:古賀賢治
A&R:五野 洋
Disc 1:
1. キース・ジャレット
ペイント・マイ・ハート・レッド
2. ラルフ・タウナー+ゲイリー・ピーコック
ナーディス
3. チャールス・ロイド/ボボ・ステンソン/アンデルス・ヨルミン/ビリー・ハート
リトル・ピース
4. 小曽根真
ノー・モア・ブルース
5. リッチー・バイラーク/デイヴ・ホランド/ジャック・ディジョネット
アローン・トゥギャザー
6. ミロスラフ・ヴィトウス
フォースカミング
7. パット・メセニー/デイヴ・ホランド/ロイ・ヘインズ/ライル・メイズ
チェンジ・オブ・ハート
8. オスカー・デリック・ブラウン
ダンス・オブ・ザ・ブロークン・ドール
9. 藤原清登/アレン・ウォン/トーマス・チェイピン/ピーター・マドゥスン/福家俊介
ボーイ&ビューティ
10. 坂本龍一
スィート・リヴェンジ
Disc 2:
1. シンビオス
バツー・バツー
2. トニーニョ・オルタ+城戸夕果
フロム・トム・トゥ・トム
3. サリー小栗
アイ・フォール・イン・ラヴ・トゥー・イージリー
4. キアラ・ンザヴォツンガ
バン・ザ・ブエナ
5. ワクウェイ
ナヴィゲート
6. ハービー・ハンコック
ジュジュ
7. セイゲン・オノ/エウジーニョ・ドール/続木力
ヘソア・クアセ・セルタ
8. NORICO
砂の中の幻想
9. カラパナ
ナチュラリー
10. ネイチャー・コーリング
ジュピター・プロジェクト
11. 西村直記&ザ・モンクス
天地嘆かう
阪神淡路大震災20年を目前に山田和尚が逝った。享年63。バウさんのニックネームで知られ、スターンこと草島進とタッグを組み、神戸最大規模のボランティア集団「頑張れ神戸!元気村」を仕切り、のちの災害ボランティアの先駆けとなった。「バウ」は船の舳先で、「スターン」は艫(とも=船尾)、日本でも有数のカヌイストだった山田和尚らしいニックネームでボランティアを率先する彼の立ち位置も明らかだ。NPOを通じてオゾン層保護活動を展開していたバウさんがまず現地入りしボランティア基地を建設、東京農大を出て有機野菜などを扱う会社らでぃっしゅぼうやの社員として神戸の得意先の陣中見舞いに出かけた草島が想像を絶する惨状に驚愕、現地で退社を決心、バウさんの活動に呼応しバウ=スターンの強力コンビが成った。僕は、別途現地入りしていた長野県美麻村遊学舎代表吉田比登志の呼びかけに応じ3月に神戸入りし、元気村で旧知のスターン草島に出会った。吉田代表とは僕が当時マネジメントを担当していた韓国の打楽器アンサンブル「サムルノリ」のワークショップを通じて懇意にしていた。
被災者と起居を共にしていた彼らがもっとも必要性を感じたのは、「心のケア」。とくに、独居老人と大学受験を控えた高校生の。行政のもっとも不得意とする分野である。独居老人の心のケアにはNTTとAppleと組んで「見守りシステム」を構築、電話を通じて24時間孤独な老人の話し相手を務めた。大学受験直前に自宅が潰れ肉親を失った高校生には音楽で対応した。すでに多くの音楽家が現地入りし、音楽で癒しに努めていた。フェスを開催して欲しいという要望には経費の面で対応できず、CD制作で対応することになった(CD制作の後にハービー・ハンコックを中心に5千人の被災高校生のための国際音楽フェスティバル・イン・神戸を開催することになるのだが)。
最初に声を掛けたキース・ジャレットは即座に反応し、コンサートの人気アンコール曲<ペイント・マイ・ハート・レッド>のソロ・テイクを提供してくれた。続いて、パット・メセニー。既発曲にシンセをかぶせた<チェンジ・オブ・ハート>、ECM25周年記念コンサートを神戸で演奏したばかりのチャールス・ロイドとラルフ・タウナー+ゲイリー・ピーコックは当地でのライヴ録音を、加えてリッチー・バイラーク・トリオなどのECM勢が揃い、共同プロデューサー、オスカー・デリック・ブラウンの尽力でハービー・ハンコックと坂本龍一などが続々参加。三宮で父親が経営する地下のクラブが壊滅した小曽根真は担当プロデューサー五野洋の計らいで<ノー・モア・ブルース>を録りおろした。Disc1はアコースティック・ジャズを中心にまとめ、Disc 2は高校生が楽しめるようにハンコックのダンサブルな演奏や各地からワールド・ミュージック、ポップな演奏を集めてみた。トニーニョ・オルタと城戸夕果やカラパナもこのチャリティ盤のための録りおろしで、結果的に坂本龍一とハンコック以外の演奏はこのアルバムでしか聴けない貴重な作品となった。締めの<天地嘆かう>は、高野山真言宗の僧侶による御詠歌で宗教詩人宮本光研師が被災地を巡礼して書き下ろした作品。宗教を超えて切々と胸に迫る万人のためのレクイエムである。
バウさんやスターンの要請を受け、使命感のようなものに駆られて夢中で何人ものミュージシャンや専属レーベルなどにコンタクトを取って完成に漕ぎ着けたものであるが、20年後のいま改めて聴き直してみると、ミュージシャンのヒューマニズムに貫かれたこのアルバムが奇跡の結晶のような気がしてならない。(稲岡邦弥)
稲岡邦弥 Kenny Inaoka
兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。音楽プロデューサー。著書に『改訂増補版 ECMの真実』編著に『ECM catalog』(以上、河出書房新社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。Jazz Tokyo編集顧問。
https://www.facebook.com/kenny.inaoka?fref=ts
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
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#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
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