坂田明という音楽家、パフォーマーのスゴさを改めて知った

CDをプレイヤーにのせたら、いきなり「ぎおんしょうじゃのかねのこえ〜…」と凄みのある朗読。誰もが知っている書き出し、数百年前に書かれた一節が、奇妙にも日々伝えられる出来事と重なる。講談師ばりの坂田の朗読に加えて、墨汁を含んだ筆の描くモノクロームの世界を想起させるアルトサックスやクラリネット、バスクラの演奏が、遠い過去の物語を21世紀の今に呼び戻す。墨に七色ありである。亡霊のようによみがえる幻影たちが織りなすドラマを言葉と音の中に見、聴く。そして、時代がワープして、現実の姿が意図せずとも現れてくる。古典は古典にあらず。現代を映す鏡でもある。秀作というよりは怪作、怪作というよりは快作。坂田明が「語り」でも千両役者なのは約30年前にリリースされた『20人格』を聴いた時にわかっていた、つもりだった。しかし、それをもって歴史絵巻に取り組んだら、優に超えるものが。それ以上に、本作には摩訶不思議な力を感じるのだ。今年これがリリースされたということにも。坂田明という音楽家、パフォーマーのスゴさを改めて知ったのである。（横井一江）