#  このライブ/このコンサート2012海外編#09

『Flying Bach』
text by 横井一江
2012年11月9日 東京・Bunkamuraオーチャードホール

音楽:ヨハン・セバスティアン・バッハ作曲<平均律クラヴィーア曲集:第1巻 前奏曲1-12番>

出演:フライング・ステップス(ブレイクダンス・チーム)川口ゆい(コンテンポラリー・ダンサー)
芸術監督:クリストフ・ハーゲル
振付:ヴァータン・ベイジル(フライング・ステップス)
演奏:クリストフ・ハーゲル(p)、サビナ・ツクロヴァ(harpischord)

ベルリンのノイエ・ナショナル・ギャラリーで、4度世界チャンピオンになったというブレイクダンス・チーム「フライング・ステップス」がバッハを踊るという公演が行われると耳にしたのは2010年4月のこと。その映像を見た時に、叶うのなら飛行機に乗って出かけたい気持ちになった。直感的にこれは面白そうと思ったのである。案の定ソールド・アウト、追加公演も早々に決まる成功ぶり。それから2年半、ワールド・ツアーの一環で日本公演も決まり、やっとその舞台を観ることが出来た。
クラシックとブレイクダンスというだけなら、どこかで誰かが既に試みていても不思議ではない。しかし、彼らのは少し違った。安直に音楽に合わせて踊るのではなく、バッハを弾くように動いているのだ。作品をアナリーゼして、ここはシックスステップ、ここはヘッドスピンと譜面にその動きをはめ込んでいる場面さえある。そして、この公演には、2009年に多和田葉子のテキストに高瀬アキが音楽・演出した作品『横浜発−鏡像』に出演したダンサーの川口ゆいも参加している。ブレイクダンスとバッハとの出会い、そこにさらにバレエの要素も取り込んだコンテンポラリー・ダンスが組み込まれ、ストーリー性をもたせた演出によって舞台は展開する。音楽もピアノやチェンバロの生演奏だけではなく、エレクトロニクスも使われており、映像を映し出すといったビジュアル面での工夫もなされていた。ひとつの作品の中で、ハイ・アートとストリート・カルチャー、幾つかの異質なものが新鮮な出会いをし、共存することこそが現代なのではないかと思った。そして、とても(ドイツ的ではなく)ベルリン的な気がしたのである。
帰り道、以前に読んだ多和田葉子の『エクソフォニー』にあった「そういう風にして、耳をすましても決して一致はしない。もどかしい、あまりだらけの割算をお互いに繰り返しながら、発見を重ねていくことに、音と言葉の共演の楽しさがあるように思う」という文章をなぜか思い出していた。そこに書かれていた「音と言葉」を「バッハとブレイクダンス」に入れ替えれば、そしてまた「ブレイクダンスとコンテンポラリー・ダンス」に入れ替えれば、先程のステージにあてはまる、と。そういえば、多和田葉子もまたベルリーナーだった。(横井一江 Kazue Yokoi)

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追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
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#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


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カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

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オスロに学ぶ
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