齋藤徹が東京とソウルで日韓伝統音楽・邦楽・ジャズの総合オーケストラ「ユーラシアン弦打エコーズ」のコンサートを行ったのは１９９２年、かれこれ２２年前である。昨年（２０１３年）、当時のメンバー５人を含めた日韓の音楽家・ダンサー、そして齋藤徹と度々共演しているピナ・バウシュ舞踊団のソロ・ダンサーのジャン・サスポータスが加わった形で新たな公演が企画され、「ユーラシアンエコーズ第２章」と名付けられたコンサートが行われた。本作はその第1部の模様を収録したDVDである。演奏されたのは、齋藤徹の代表作「ストーン・アウト」、韓国伝統音楽に触発されて作曲し、金石出に捧げられた作品だ。折に触れてこの作品の演奏を観てきたが、この舞台には日韓ミュージシャンの交流が始まってから現在に至る流れ、そしてまた齋藤徹という音楽家の足跡が集約されているようで、今回はとりわけ感慨深かった。日韓これだけのミュージシャンが集合することはまずないだろう。そこに泰然自若とした姜泰煥が舞台中央に座し、存在感を見せていたことも嬉しい。また、ジャン・サスポータスが入ったことで、公演タイトルにある東アジアからユーラシア大陸へのパースペクティヴがより明確になった。日韓をめぐる政治的状況が良くない現在、このような企画が行われることは貴重である。人的な交流だけではなく、国家間の関係もかくあってほしいと思ったのは私だけだろうか。（横井一江）

横井一江　Kazue Yokoi
北海道帯広市生まれ。The Jazz Journalist Association会員。音楽専門誌等に執筆、 雑誌・CD等に写真を提供。海外レポート、ヨーロッパの重鎮達の多くをはじめ、若手までインタビューを数多く手がける。 フェリス女子学院大学音楽学部非常勤講師「音楽情報論」（2002年〜2004年）。著書に『アヴァンギャルド・ジャズ―ヨーロッパ・フリーの軌跡』（未知谷）。趣味は料理。