これはかっちりと残しておかなくてはならない作品だ。本来ならジム・ホールとのデュオ・ライヴ・アルバムになるはずだった。あり得れば1984年録音の『テレフォン』以来待望30年ぶりになる。それが予期せぬことにホールが直前に逝去、ロンには一度諦めた胸中を揺り起こす勝負事になった。ビリングをトリビュートにする案が速攻で来たからだ。「演奏中はジムのことで頭が一杯いっぱいだったよ」(ロン)。サポートするギタリストが、ふたりになったのには意表を突かれたものの、ロンには同じ編成である必要はなかった。2014年１月20日、ブルーノート東京にて。年輪を重ねるほど凛々しさと丹念さを上げてきた重鎮だが、おおーっ、なおそこのところに磨きをかけてきたのには参った。故人を偲びながら、今成し得ることを成す。それでしなやかな力強さを引き寄せた。CDのため精選されたこの６曲は、クラブにいる時には気づかぬ、声にならない声も聞かせる。続編を望む声が高い。(成田 正)

成田 正　Tadashi Narita
1952年、埼玉県浦和市(現さいたま市)生まれ。地元の小学校を卒業後、文京区の区立中学、都立高校を経て日大芸術学部映画学科へ。録音を専攻した。と同時にジャズ研でギターを弾いた。そのおかげもあって、1978年、創刊間もない『Jazz Life』編集部に入部。５年半ほど世話になり、次に真っ当な書籍出版社に３年半ほど腰掛けた後フリーに。目下、毎日新聞、Jazz Life、CDジャーナル、Stereoのほか、アルバム解説などあれこれ執筆中。