2014年9月23日（秋分の日）＠BitchesBrew、沖至(tp)が、蜂谷真紀(vo)、大由鬼山（尺八）、高樹レイ(vo)と共演。日本のルイ・アームストロング、南里文雄の弟子ならではの、楽しい午さがりを創出。沖さんから、ぜひ聴いて欲しいと、いただいたのが、『nobusiko』(improvising beings ib01)である。
能を思わせるイントロは、沖至自身の肉声であろうか？

「いろはにほへと」（空海・伝）
　録音は、2009年12月15日、パリ。ぼくが渡仏直前の沖至に青山＜ロブロイ＞でロング・インタヴューしたのは、40年ほど前。ぼく自身にとっても、ポスト・フリーからインプロバイズドの磁場がヨーロッパへと移行してしまっていたので、沖至の渡仏は必然だと納得する。
　はっきり言おう。沖至の表出衝動の輝かしきバイオレンス、そのスポンテイニアスにして、最も集約された知と情の美しき結晶である。
　ベンジャミン・デュポックのダブルベースは、まるで、打楽しているかのように挑発的である。ベンジャミンは、もうひとりの沖至自身に違いない。陳腐なたとえではあるが、晩年、ひとり自問自答の日々を闘った宮本武蔵の深遠とでもいったらよいのだろうか？
「異邦人」である沖至は、幾度となく問いかける。「お前は何ものなのだ？」と。
　あらゆるものをそぎ落とし、最後に残ったピュアな、表出衝動だけが、ここに存在する。
　紙で型どられた、卵の厚紙の紙パックが敷きつめられた沖至のアパルトマンは、さしずめ「風洞」であろう。パックは、トランペットにたまったつばを流すためにある。
　別れ際に沖はいつもいう。
「長生きしような」と。前回、白石かずこさんのときと同じである。（杉田誠一）

杉田誠一　Seiichi Sugita
1945年4月新潟県新発田市生まれ。獨協大学卒。1965年5月月刊『ジャズ』、1999年11月『Out there』をそれぞれ創刊。2006年12月横浜市白楽にカフェ・バー「Bitches Brew for hipsters only」を開く。著書に、『ジャズ幻視行』『ジャズ&ジャズ』『ぼくのジャズ感情旅行』他。